ビョーク「アズ・ア・ジャズ・シンガー」
Bjork 「As a Jazz Singer」
音が聴こえるほど息継ぎが大きく、演歌歌手のように抑揚を付け、こぶしを効かせる。アイスランドの歌姫ビョークは個性が際立つ。代表曲「ハイパーバラッド」(1995年のアルバム「ポスト」に収録)を聴いて好きになった。
純粋にビョークの歌を味わうなら、伴奏がシンプルなライブ盤がお勧めだ。初期のアルバム4枚のライブ盤をまとめた「ライブ・ボックス」(2003年)は必携アイテム。歌い回しを変えており、聴き比べも楽しめる。
例えば、これも代表曲の「ヒューマン・ビヘイビア」。
伴奏を含めた完成度では、スタジオ録音のオリジナル(1993年のアルバム「デビュー」に収録)が好きだが、歌に限るとライブ盤がいい。
「テル・ミー、テル・ミー」という歌詞のところの甲高い奇声が面白いし、「ハッ!」「チャウッ!」といった掛け声が加わり、躍動感たっぷりだ。
「ハイパーバラッド」も、ライブだと、ひと味違う。
例えば、最後に繰り返す「セーフ・アップ・ヒア・ウィズ・ユー」という歌詞。スタジオ録音のオリジナルだと、多重録音して歌声を重ねているので、「ウィズ・ユー」がよく聴こえない。ライブ盤を聴いて「ウィズ・ユー」があるのを知ったくらいだ。
当然ながら、ライブでは多重録音みたいな歌い方はできないので、繰り返し歌っているのだけど、何だか、可愛く感じてしまう。
歌唱力が存分に発揮されているのは、1990年に母国のジャズバンド、トリオ・グズムンダル・インゴルフッソナーと共演したライブ。
海外サイトで一部収録曲の音源を見つけて気に入った。
入手した海外製CDは「アズ・ア・ジャズ・シンガー」という適当なタイトルからして公式のライブ盤とは思えないが、中身は最高だ。
ビョークとこのジャズバンド名義のアルバム「グリン・グロ」(1991年)のいわばライブ盤なのだが、「グリン・グロ」より断然、こちらがいい。収録曲数が多いし、迫力が違う。
このライブ盤のCD、なかなか見つけられず、苦労した。以下のショップで買った。
ジャズの定番曲のバラード「ユー・ドント・ノウ・ホワット・ラブ・イズ」では、持ち味の息継ぎが絶妙なタメになり、しっとりした曲の雰囲気を高める。
この曲、有名だけど、以前は特に好きというわけではなかった。
1989年のライブ・アンダー・ザ・スカイでの演奏を収めた「セレクト・ライブ・サキソフォン・ワークショップ」というライブ盤に、このバラードをアップテンポにアレンジした名演があり、それは好きだった。
マイケル・ブレッカー、ビル・エバンス、スタンリー・タレンタイン、アーニー・ワッツのサックス奏者4人が代わる代わる吹いて盛り上げる。イントロのピアノ、ドラムからしてスリリングだ。
これは、いいな~と気に入ったけど、本来のバラードな演奏は、特にいいと思っていなかった。
ビョークのカバーを聴いて、考えが変わった。これも本当に名演だ。「グリン・グロ」には、そもそも、この曲が収録されていないのが不思議だ。
打って変わって、ラテンの定番曲「キエンセラ」では、ビョークがアイスランド語で熱唱する。
この曲は、メキシコのギター3人組トリオ・ロス・パンチョスの演奏を、子どもの頃、父によく聴かされたので懐かしい。
パンチョスの哀愁漂う演奏も好きだが、ビョークの力強い歌唱も素晴らしい。こぶし、うなり声がさえ、最後の「ハッハッ! ハッハッ! ハッ!」は、これでもかといわんばかりだ。
この奇才の演歌を聴きたいと、つくづく思う。