ジプシーキングス「セイバー・フラメンコ」
Gipsy Kings 「Savor Flamenco」
フラメンコから派生した音楽だが一般的にはフラメンコよりなじみ深い。
フランスのバンド、ジプシーキングスは1980年代後半から90年代初めにかけ「ジョビ・ジョバ」「バンボレオ」「ボラーレ」といったヒット曲を放った。
持ち前の乗りの良い音楽で好評を得ながら、フラメンコのリズムや演奏スタイルに即す曲もわずかにあるのが、興味深い。
例えば「セイバー・フラメンコ」(2013年の同名アルバムに収録)。「ジョビ・ジョバ」の乗りを期待して聴いた人は、戸惑ったのではないだろうか。
ジプシーキングスは、♪ジャカジャカ…と弦をかき鳴らす「ラスゲアード奏法」、表面をたたく「ゴルペ」といったフラメンコギターの技を多用する。スペイン語で歌い、手拍子が入り、フラメンコっぽさ十分。
実際には、スペイン南部からフランス南部に移ったロマ民族(ジプシー)がフラメンコから派生させた独自の音楽に根を張り、フラメンコとは異なる。
フラメンコは独特のリズムが重視され、メリハリがあり、かちっとしている。リズムはいくつかの形式があり、ギター奏者はその形式のリズムに合わせ、自分なりに工夫したメロディーを奏でるのが腕の見せどころ。ラスゲアード奏法やゴルペはアクセント程度で、多用しない。
ジプシーキングスはシンプルなリズムで、ずっと、♪ジャカジャカ…と弾く、乗り重視の演奏。メリハリはあまりなく、ふわっとしている。
ジプシーキングスがフラメンコの形式に即した曲で「セイバー・フラメンコ」はタンゴ形式、「モザイク」(1989年の同名アルバムに収録)はブレリア形式の曲だ。
それぞれ、フラメンコギターの巨匠パコ・デ・ルシアの曲でタンゴ形式の「ソロ・キエロ・カミナール」、ブレリア形式の「アルモライマ」にそっくりなのも、面白い。フラメンコというより、親交のあったパコへのオマージュだろうか。