「黒魔術の手帖」澁澤龍彦
澁澤龍彦のエッセイ集。
はてなブログの「今週のお題・本屋さん」で、澁澤龍彦の本のことを書いたら、懐かしくなり、久々に読み返した。
「古代カルタの謎」と題するエッセイは、タロットカードについて書いたもの。タロットカードを持っていたので、興味深く読んだ。
タロットに興味を持ったきっかけは、友人に勧められた本「秘法カバラ数秘術」(斉藤啓一)。
カバラ数秘術は、生年月日をもとに算出する「運命数」が、1~9、11、22の11種類あり、運命数で性格や人生、相性などを見るという占い的な要素のある思想だ。例えば運命数1はリーダータイプといった感じ。タロットと関連があり、例えば、運命数1は、タロットの「魔術師」に相当するので、のちにタロットを手にした時も理解の助けになった。
タロットカードの主要なカード(大アルカナ)は「皇帝」「恋人」「戦車」「死神」「悪魔」「星」「月」など22枚あり、それぞれ象徴的な絵が描かれている。見て、いろいろと想像するだけで、楽しい。
(ちなみに、タロットカードは、好みの絵柄で選ぶといいと思う。見て、直観的にいいなと思ったもの、インスピレーションが湧きそうなものを。私は、一般的な古風な絵柄とは違う物を買った。今、Amazonで探してみたが、なかった)。
その後、「週刊少年ジャンプ」に連載中だった漫画「ジョジョの奇妙な冒険」(荒木飛呂彦)の第3部で、タロットカードが出てきた時は、うれしかった。「ジョジョ」の登場人物それぞれが持つ超能力「スタンド」を象徴するものとして、タロットカードを使うというアイデアは、神秘性を高めた。
このエッセイ「古代カルタの謎」で、澁澤龍彦は「インスピレーションで占うもので、科学的な面は全く備えていない。未来は数学的に解きうるものではないのである」と見ているのが面白い。
その上で、タロットカードについて「普段は意識の下に眠っている魔術的な心的能力を生き生きと目覚めさせることを目的としているもののようだ。使う人がそれぞれ独自の解釈を引き出せば、よいのである」と説く。この捉え方が面白い。
タロットカードに付属する説明書や関連本には、それぞれのカードの意味が書いてあるのだけども、澁澤龍彦は、一般的な解釈にこだわる必要はないというのだ。反骨精神のある澁澤龍彦らしいと言えるかもしれない。
「ジル・ド・レエ侯の肖像」と題するエッセイも面白い。ジル・ド・レエは、中世フランスの聖女ジャンヌ・ダルクを助けて功績を立てた武将で、のちに錬金術や降魔術に没頭し、多数の少年を殺害した人物。
澁澤龍彦が説くには「神秘思想と悪魔崇拝は紙一重」。ジャンヌを崇拝していたジルは、ジャンヌ亡き後、崇拝の対象を悪魔に変えた可能性を示唆している。ジルのサディズムにも言及。部下が誘拐した少年に優しく近づき、「ここから逃がしてやる」と言って、安心させた後、首を切り裂いて殺し、驚く少年の表情を楽しんだという。
漫画「メフィスト」(三山のぼる)の登場人物、流動玲二も同様な行動を取っており、ジルをモデルにしたことが、よくわかる。
エッセイ集「黒魔術の手帖」は、ほかにも、ローゼンクロイツ、ホムンクルスなど興味深い話題が出てくる。神と悪魔の戦いを描く漫画「ゴッドサイダー」(巻来功士)を楽しむうえでの基礎知識になった。