パット・メセニー「ファインディング・アンド・ビリービング」
Pat Metheny 「Finding And Believing」
ジャズギター奏者パット・メセニーの音楽は爽やかでドラマチックだ。1992年のアルバム「シークレット・ストーリー」は集大成と言える傑作。
カンボジア音楽を取り入れ、クラシックの管弦楽団とも共演した収録曲「ファインディング・アンド・ビリービング」が素晴らしい。
3部構成で、第1部はカンボジアのコーラスを効果的に加えて緩急を付ける。第2部は管弦楽団の落ち着いた調べから川のせせらぎや波の音になり、♪タンタータ、タンタータ…というピアノでスパッと第3部に入るところが最高。ここだけ何度も聴き返したくなるほどだ。締めくくりは、パットの爽やかで何となく切ないギター。
この曲は、場面が次々と切り替わり、映画のようなドラマ性がある。雰囲気としては、アニメ映画「オネアミスの翼」(1987年、ガイナックス)のテーマ曲(坂本龍一が担当)を思わせる。
パットは、もともと、爽やかさとは程遠い、前衛的なサックス奏者オーネット・コールマンのファン。子どもの頃に初めてお小遣いで買ったレコードがオーネットの「ニューヨーク・イズ・ナウ」だったという。
1976年のソロデビューアルバム「ブライト・サイズ・ライフ」では、オーネットの曲「ラウンド・トリップ」「ブロードウェイ・ブルース」をメドレーでカバーした。2曲とも「ニューヨーク・イズ・ナウ」収録の曲で、いわば、思い出の曲。気持ちがうわずったのか、パットの演奏は平凡で、共演したベース奏者ジャコ・パストリアスのほうが印象に残る。
1986年には、憧れのオーネットと連名のアルバム「ソングX」を発表。収録曲「ポリス・ピープル」では、自由奔放に吹きまくるオーネットと絡みながらも、爽やかさを漂わせ、対比が面白い(なお、「ポリス・ピープル」は、2005年発売の20周年記念盤で追加された曲。「ソングX」は、20周年記念盤を聴いてほしい)。
パットは、この共演で、進む方向を見いだしたのではないかと想像する。
その後、ブラジル音楽を取り入れて爽やかさを前面に押し出し、「シークレット・ストーリー」のようなワールド・ミュージック路線にも発展した(爽やかな歌声がパットのギターに絡む1989年のアルバム「レター・フロム・ホーム」、97年の「イマジナリー・デイ」も、お気に入り。また、あらためて書きたい)。
2013年に放ったアルバム「タップ」は、パットの来歴を考えると、興味深い。ユダヤ音楽をオーネット風に料理する「マサダ・プロジェクト」(オーネットを崇拝するサックス奏者ジョン・ゾーンが提唱)に賛同した作品。
ゾーンは、このプロジェクトに没頭して、持ち味を見失った感があるのだが、、、パットは、パットらしくドラマ性のある音楽に仕上げており、ゾーンの本家マサダより好みだ。収録曲「タルシス」を、ゾーンの本家マサダ版と聴き比べてみてほしい。
かつて追ったオーネットゆかりの音楽をきちんと、自分の音楽に仕上げる。このへんに、揺るぎないスタイルを確立したパットの強さを感じる。