セルジオ・メンデス「モーニン」
Sergio Mendes & Brasil '66 「Moanin'」
ブラジル出身のピアノ奏者セルジオ・メンデスは1960年代のボサノバ・ブームの火付け役の1人だ。ヒット曲「マシュ・ケ・ナダ」は、ポルトガル語で歌う曲としては異例の世界的な人気を獲得した(1966年のアルバム「セルジオ・メンデス&ブラジル‘66」に収録)。
ブラジルの歌手ジョルジ・ベンの作品のカバー。女性歌手2人のコーラスを取り入れたアレンジが秀逸だった。セルジオのピアノもいい。♪タタタタ、タータタ、タタータータータ、タタタタ…というイントロの演奏はわくわくする。
もともと、ジャズピアノ奏者ホレス・シルバーらに憧れ、ジャズに傾倒した。ブラジル音楽とジャズが融合したボサノバに軸足を移していき「マシュ・ケ・ナダ」のヒットで一躍注目されるのだが、ジャズへの思いは強かったに違いない。
ブレーク前の1961年のアルバム「ダンス・モデルノ」では、シルバーの名曲「ニカズ・ドリーム」をカバーした。オリジナルと違ってホーンがなく、ピアノが前面に出るが、特に目新しさはなく平凡だ。
これと比べれば、オリジナルのほうが遥かに好きだ(シルバーの軽やかに弾むピアノソロが聴きどころ)。
ブレーク後の1969年のアルバム「イエ・メ・レ」では、ドラム奏者アート・ブレイキーの演奏で知られるジャズの定番曲「モーニン」をカバーした。女性コーラスを前面に出し、大胆なアレンジを施して、ポップ色が強く、同じ曲とは思えないほど。しっかりと「セルメン・サウンド」に仕上げている。
泥臭いブレイキーの演奏も好きだが、これはこれで違った味わいがあり、好演だ。
好きなジャズの曲を素材にしながら、より多くの人に楽しんでもらえるよう、どう料理するか。「ニカズ・ドリーム」と「モーニン」の仕立て方の違いに、セルジオの進化がうかがえる。