ディープ・フォレスト「ディープ・フォレスト」
Deep Forest
フランスの音楽ユニット、ディープ・フォレストは、シンセサイザーやドラムのエレクトロビートに、世界の民族音楽の歌唱や自然の音をちりばめる。
代表曲「ディープ・フォレスト」(1992年の同名アルバムに収録)は、アフリカの民族の歌声や「アー」といった声、「ヤヤヒアイアイ…」というような雄たけびを取り入れた。
♪ズンズンズンズン…という重低音のビートと相まって力強さを感じさせる曲。アフリカのジャングルが目に浮かぶ。
ドイツのエニグマと並び、伝統的な音楽とエレクトロビートを掛け合わせたヒーリングミュージックの代表格。
民族音楽の歌唱を前面に出すのが特徴だ。
東欧のロマ民族(ジプシー)にも着目して「ボヘミアン・バレエ」(1995年のアルバム「ボエム」に収録)に、その舞曲を取り込んだ。
雰囲気たっぷりの歌と手拍子をビートが盛り上げる。
このディープ・フォレストの音楽は、ジャズピアノ奏者ハービー・ハンコックの影響があるのではないかという点を考えてみたい。
ディープ・フォレストのメンバー2人、エリック・ムーケとミシェル・サンチェスは若い頃、ジャズ、特に人気バンドのウェザーリポートに多大な影響を受けたらしい。
ディープ・フォレストの1998年のアルバム「コンパルサ」には、ウェザーリポートにささげた曲「1716」があり、そのキーボード奏者ジョー・ザビヌルのピロピロした演奏を模倣している。
続く曲「ディープ・ウェザー」には、ザビヌルがゲスト参加し、アコーディオンを弾く。曲名の通り、ディープ・フォレストとウェザーリポートのコラボといった作品だ。
一方で、「ディープ・ウェザー」は、機械の声のようにエフェクトをかけたボコーダーボイスを取り入れている点に、注目したい。
ボコーダーボイスは、別の収録曲「ラジオ・ベリーズ」だと、もっと、よくわかる。
ボコーダーボイスと言えば、ハービーだ。
いち早く取り入れ、自ら声にエフェクトをかけて歌う怪作「アイ・ソート・イット・ワズ・ユー」を放った(1978年のアルバム「サンライト」に収録)。
このインパクトは、ただ事ではなかった。
これは、若い頃のムーケとサンチェスを引きつけたに違いない。
つまり、「ラジオ・ベリーズ」は、ハービーへのオマージュが含まれるのではないだろうか。
ハービーが1973年のアルバム「ヘッド・ハンターズ」で、代表曲「ウオーターメロン・マン」をリメイクし、アフリカ音楽を注入した点も、見逃せない。
この電化版「ウオーターメロン・マン」は、冒頭から、奇妙な笛の音と、しゃっくりのような奇声が続く。
「何これ?」と戸惑わせておき、おもむろに、おなじみのメロディーを奏でて「ウオーターメロン・マンですよ~」と安心させる演出が心憎く、ハービーのドヤ顔が目に浮かびそうだ。
この曲は、若い頃のムーケとサンチェスの心を、がっちりとつかんだに違いない。
つまり、アフリカの民族の歌声や雄たけびを取り入れた「ディープ・フォレスト」は、ハービーへのオマージュが含まれるのではないだろうか。
人間の声の美しさをテーマとするディープ・フォレストの音楽。
そこに、ハービーが影を落としたと想像すると、面白い。