マイルス・デイビス「ジャック・ジョンソン」
Miles Davis 「Jack Johnson」
ジャズの帝王マイルス・デイビス(トランペット奏者)のロックが聴ける名盤。それが1971年のアルバム「ジャック・ジョンソン」だ。
黒人で初めてボクシングの世界王者となったジャック・ジョンソンの生涯を描いたドキュメンタリー映画のために作られたという。
収録曲「ライト・オフ」がとてもかっこいい。
27分もある長い曲だが、全く飽きさせない。
マイルスとギター奏者ジョン・マクラフリンの掛け合いが中心なのだけども、この曲の主役はマクラフリン。
ロックの味付けを求めたマイルスに、きっちりと応えて、渋い演奏を見せる。
お得意のメチャ弾きはない。
マクラフリンのギターで始まり、マイルスが入ってくる。
♪プワップワッ…とか、♪パパパパパパパ…といった演奏。
マクラフリンは、しっかりと引き立て役に回る。
ジャコ・パストリアス(ベース奏者)やカルロス・サンタナ(ギター奏者)との共演では、容赦なく相手を押しのけていたマクラフリンのこんなに従順な姿は珍しく、思わず、頬が緩む。
マクラフリンはマイルスに可愛がられて頭角を現しており、この謙虚な演奏は、マイルスへの敬意ゆえだろう。
中盤、いったん、静かになり、マイルスのフェードアウトするような演奏の後、また、徐々に盛り上がる。
聴きどころは18分半以降。ここから、マクラフリンの独壇場だ。
♪チャチャチャチャラララ、ズチャッチャッチャチャチャ…というフレーズは、ファンクバンド、スライ&ザ・ファミリー・ストーンの曲「シング・ア・シンプル・ソング」のものだとか。
ジャコもライブか何かの曲でこのフレーズを弾いているので、私は初めて聴いた時には「えっ、ジャコのフレーズ?」と思った。
スライの曲から来ているというのは、その後、知った。
終盤、マイルスが入ってくる。
最後の2分ほどのマクラフリンの演奏がまた、いい。
少し速弾きを交えながら、♪キャウーン、♪キューン…という感じのいい音を出す。やっぱり、この曲の主役はマクラフリンだ。
このアルバムは2曲しかない。
もうひとつの収録曲「イエスターナウ」は、最後の英語のナレーションが面白い。
「おれはジャック・ジョンソン。ヘビー級の世界チャンピオンで黒人だ。黒人だということを忘れない。おれは黒人だ。やつらに忘れさせないぜ」といった内容。
これは、黒人であることに誇りを持っていたマイルスの思いと重なっているのだろう。
マクラフリンは、マハヴィシュヌ・オーケストラを結成して自らのスタイルを確立する。
ジョー・ザビヌル(キーボード奏者)、ウェイン・ショーター(サックス奏者)らのバンド、ウェザーリポートにも誘われたが、「自分のバンドを持て」というマイルスの教えを守り、断ったという。
その数年後にウェザーリポートにジャコが加入して、ロックのフィーリングを持ち込むのだけども、もし、先にマクラフリンがウェザーリポートに入っていたら、どうなっていただろうか。
ジャコの加入はなかったかもしれないし、あっても、ジャコの立ち位置は違ったかもしれない。