イエス「リレイヤー」
Yes 「Relayer」
プログレッシブロックバンド、イエスの1974年のアルバム「リレイヤー」は、ジャズ風の即興演奏を取り入れた異色作だ。
イエスの音楽を特徴づけていたキーボード奏者リック・ウェイクマンが去り、後任のキーボード奏者パトリック・モラーツがジャズ色を持ち込んだ。
バンドの顔であるボーカリスト、ジョン・アンダーソンの影も薄く、逆に存在感を放つのがギター奏者スティーブ・ハウ。このアルバムは、ハウのギターが炸裂する。
22分近い大作「錯乱の扉」を柱に、「サウンド・チェイサー」「トゥ・ビー・オーバー」の2曲を加えた全3曲を収録。
「錯乱の扉」は、モラーツのキラキラしたシンセサイザー演奏とハウのギター演奏で静かに始まる。ボブ・ジェームス(フュージョンのキーボード奏者)の名曲「マルコ・ポーロ」風のポップなメロディーも少し挟む。その後、アンダーソンの歌が入る。
まだ、この辺はモラーツやハウがはじけておらず、イエスサウンドから、さほど、かけ離れてはいない。
聴きどころは中盤。
歌が済んで、8分辺りからが圧巻。モラーツとハウの掛け合いが始まる。
♪ファファファファーン、ファファファファーン…といった感じのシンセサイザー演奏に、♪ジャジャジャジャー、チャラララララララ…といった速弾きでハウが応じ、バトル感が醸し出される。
ちなみに、このアルバムは、文豪トルストイの大作「戦争と平和」がテーマだとか。
11分すぎ辺りからは機械音のような不協和音が入り、ノイズ・ミュージック感を添加。12分50秒くらいからは雰囲気が変わり、♪チャンチャンチャンチャチャー…と幾分、コミカルなシンセと、♪チャラチャラチャラチャラー…と降下するギターが掛け合って、いったん落ち着き、それから、シンセもギターも高まっていく。
その後、静かになり、17分辺りから、アンダーソンが入ってきて、しみじみとした歌のパートに切り替わり、イエスサウンドに回帰して、フィニッシュに向かう。
「サウンド・チェイサー」も良い曲だ。
ミステリーな音色のキーボードと、ドラム連打、ベース速弾きが織りなす、イントロの緊迫感からして「何が始まるんだ?」と期待が高まる。
その後、アンダーソンの歌が入り、ハウのギターが疾走する。3分辺りからのハウのソロが聴きどころ。ちょっと、クラシック風にも感じるけど、スパニッシュなギターという印象だ。これがいい。
静かになった後、6分20秒辺りからイントロのようなシンセとドラムの掛け合いを少し挟み、盛り上がっていく。
ここで、ベース奏者クリス・スクワイアがいい仕事をしている。ちょっと、ジャコ・パストリアス(ジャズベース奏者)を思わせる演奏だ。
終盤は、シンセやギターの速弾きが加わり、「チャチャチャー、チャチャチャー」という、何だかよくわからないアンダーソンの歌声で締めくくる。
イエスの黄金期のアルバム「こわれもの」(1971年)、「危機」(72年)とは趣が違い、ファンの評価は高くないようだが、私はこのアルバム「リレイヤー」、大好きだ。
残念ながら、アンダーソンが目指す音楽と方向性が合わなかったらしく、モラーツは、このアルバム限りで、お別れ。ウェイクマンが呼び戻される。
個人的には、「イエスのジャズ」をもう少し聴いてみたかった。