カマロン・デ・ラ・イスラ「ラ・レジェンダ・デル・ティエンポ」
Camaron De La Isla 「La Reyenda Del Tiempo」
フラメンコ歌手カマロン・デ・ラ・イスラが1979年に放ったアルバム「ラ・レジェンダ・デル・ティエンポ」は実験的な意欲作だ。
69年から77年にかけて盟友のフラメンコギター奏者パコ・デ・ルシアと一緒に9枚のアルバムを制作しており、本作は、パコと離れてから初めてのアルバム。
タイトル曲は、手拍子とギターのほか、エレキベースやドラム、ピアノを加え、フラメンコ・ジャズとでもいうような味わいを醸し出す。
疾走感が心地よく、ピアノやシンセサイザーの速弾きが聴きどころだ。
パコに代わってギターを弾く新鋭トマティートも好演を見せる。
インドの弦楽器シタールの奏者アヌーシュカ・シャンカールがピアノ奏者と共演する曲「ブレリア・コン・リカルド」(アヌーシュカの2011年のアルバム「トラベラー」に収録)は、似た趣があり、こちらもかっこいい。
アルバム「ラ・レジェンダ・デル・ティエンポ」の収録曲「ヴォランド・ヴォイ」は、フラメンコ・ロックとでも言おうか。
フルート奏者ホルヘ・パルド、パーカッション奏者ルベン・ダンタスの軽快な演奏が心地よい。
ちなみに、この2人は、パコの1978年のアルバム「炎」にも参加。その後、パコの六重奏団のメンバーとなる。
収録曲「ナナ・デル・カバジョ・グランデ」も面白い。
フラメンコの源流の一つとされるインド音楽の弦楽器シタールに歌を合わせる。
アルバム「ラ・レジェンダ・デル・ティエンポ」は今でこそ、パコがキューバの太鼓ボンゴやエレキベースを取り入れた「二筋の川」(1973年)、フラメンコの別の源流・イスラム音楽の弦楽器ウードを奏でる「アルモライマ」(76年)と並び、フラメンコの歴史を変えた傑作アルバムだと評価されている。
ただ、発売当初はファンを困惑させ、返品が相次いだらしい。3歳上で先行したパコの革新作がヒットしたのと対照的だ。
たしかに、伝統的なフラメンコからの逸脱度は大きい。
のちに、パコも兄ぺぺ・デ・ルシアをボーカルに据えた六重奏団に軸足を移してフラメンコの幅を広げるのだが、カマロンは変化が急激すぎたのだろうか。