ネイキッド・シティ「拷問天国」
Naked City 「Torture Garden」
疾風怒濤のサックス奏者ジョン・ゾーンの真骨頂は、ネイキッド・シティにある。
ゾーンは、フリージャズの巨人オーネット・コールマン(サックス奏者)を崇拝し、狂ったような乱れ吹きが持ち味。ネイキッド・シティ、ペインキラーという2組のバンドを結成して、前衛的な音楽を追求した。
ゾーン名義のアルバム「ネイキッド・シティ」(1990年)を原点とするバンド、ネイキッド・シティでは、即興で奇声パフォーマンスを繰り広げる山塚アイ(ボアダムス)と組んで、本領を発揮した。
1990年のアルバム「拷問天国」が傑作。
収録曲「血が薄い」は、♪ジャージャジャー、ジャジャー…という、メタル風のギターリフに続いて、山塚が「ウブブジョジョジョ、ドゥラカウワウワ…」と奇声で暴れ、ゾーンが♪プルルル、プァッ!…と乱れ吹く。
アルバム収録曲はどれも短く、10秒程度から1分少々。これが緊迫感を一層高めている。42曲入りで、26分という潔さ。
なお、アルバムジャケットには、レトロでエログロな絵を描くイラストレーター丸尾末広の作品が使われているのも特徴だ(表面ではない)。
収録曲「ジャズ・スノッブ・イート・シット」は、♪プァワワワワ…と痙攣するようなゾーンのブロウが心地よい。山塚は出番なし。
これをさらに増強したのが収録曲「かおる」。
ホラーな感じのキラキラしたイントロに続き、♪プァワワワワワワワ…とゾーンの痙攣サックス。そして、「デュラチャー、チャイアチャイアー…」と山塚が暴れる。
(Amazon商品で「拷問天国」は品切れのため紹介できない。アルバム「凌遅(レンツェ)」と抱き合わせの「ブラック・ボックス」という商品を紹介しておく。ネイキッド・シティのアルバムは、だいたいプレミアが付いて、Amazonでもヤフオクでも高値で出品され、法外な価格のものもあるので要注意。私は、発売当時に定価で買った)
1992年のアルバム「異教徒」は、メタル感を捨て去り、奇声パフォーマンスを増強した。曲というより、本当にパフォーマンスだ。
収録曲「汗、精液、血」は、甲高いブロウと奇声の掛け合いが漫才のようだ。
収録曲「7000匹の蛙が!」も、2人の掛け合いが絶妙。
ゾーンは、♪フガフガ…みたいな音も出す。ゴン太くん(工作番組「できるかな」)の声を思わせるような荒技だ。
山塚は、唇をブルブル震わせたり、ブタのような声を出したりして対抗する。
1993年のアルバム「ラジオ」は、原点回帰というか、ゾーンのアルバム「ネイキッド・シティ」のような趣。いわゆる音楽に近いので、聴きやすいと思う。
キーボード演奏がエマーソン・レイク&パーマーみたいというか、プログレ感を漂わせる収録曲「色情狂」がかっこいい。
ネイキッド・シティの音楽を家族や友人に聴かせて、「いいね」と言われたことはないが、音楽として楽しめるギリギリの範囲内にあり、私は、ネイキッド・シティこそ、ゾーンの頂点だと思う。
ちなみに、ゾーン名義のアルバムでは「クリスタル・ナハト」(1993年)という奇怪な作品がある。
ゾーンがユダヤ系という自らのルーツに目を向け、ナチスのユダヤ人迫害を表現したノイズ・ミュージック。
収録曲「ネバー・アゲイン」は、大量のガラスが割れる不快な高音が続く。
「可聴域を超える音があり、聴覚にダメージを与える恐れがある」との警告が記してあり、一種の劇毒物だ。
さすがに私も、家族や友人と一緒にいる時にかけたことはなく、1人で聴く。