ジョニ・ミッチェル「ドンファンのじゃじゃ馬娘」
Joni Mitchell 「Don Juan's Reckless Daughter」
歌手ジョニ・ミッチェルは、ジャズに傾倒した時期があり、そうそうたるジャズ演奏家たちと共演した。
1979年のアルバム「ミンガス」や、1980年のライブ盤「シャドウズ・アンド・ライト」は、ひとつの到達点だ。
ここでは、共演者の演奏に加え、ジョニのジャズ的な歌唱も大きな魅力になっている。
そこに至る過程の1977年のアルバム「ドンファンのじゃじゃ馬娘」は、ジャコ・パストリアス(ベース奏者)、ウェイン・ショーター(サックス奏者)、アレックス・アクーニャ、マノロ・バドレーナ(ともにパーカッション奏者)が参加。
ウェザーリポートの当時のメンバー5人のうち、リーダーのジョー・ザビヌル(キーボード奏者)を除く4人がそろった。
パーカッション奏者2人が前面に出たエキゾチックな曲が聴きどころだ。
収録曲「第十世界」は、「ウィイィイィー」というジョニの妖しげな歌声で幕開け。
♪チャンチャカ、チャカンチャ、チャンチャン、チャカンチャ…というパーカッションの速いリズムが繰り返される。
ラテンっぽい男性の歌が加わり、南国ムードが高まる。
ウェザーリポートにも、パーカッションを前面に出し、ラテン風の歌声が加わる曲「ルンバ・ママ」があったのを思い出す。
1977年のアルバム「ヘヴィ・ウェザー」の中で異質な曲だった。
このように異国情緒漂う曲を、ジョニは1975年のアルバム「夏草の誘い」にも入れていた。
その曲「ジャングル・ライン」の伴奏は、まるで阿波踊り。
実は、アフリカにある国、ブルンジの王立太鼓隊の演奏なのだとか。
ジョニの歌とのミスマッチが不思議な味わいを醸し出し、癖になる。
そんな曲が、アルバム「ドンファンのじゃじゃ馬娘」では、2曲も炸裂する。
同様な曲のもうひとつが「夢の国」。
ジョニの歌に、♪シャカシャカシャカシャカ…とか、♪ドンドコドン…とか、♪カンカンカカン…と各種パーカッションが絡む。
歌手チャカ・カーンがバックボーカルで加わる。
この曲は、ジョニが、ジャズっぽい歌唱を模索する姿がうかがえる点でも、興味深い。
収録曲「トーク・トゥ・ミー」でも、ジョニは新たな歌唱を試みた。
終盤(2分48秒辺り)、「クワクワクワッ、クワーッ!」とニワトリの鳴き声みたいな奇声を上げるのだ。
奇才の歌手プリンスが一目置くだけあって、やはり、この人は相当な変わり者。
ジョニが、ジャコを迎え、ジャズ探究に突入した1976年のアルバム「逃避行」は、ジョニの歌に新味はない。ジャコの叙情的なベースが聴きどころだ。
収録曲「旅はなぐさめ」での演奏は、名曲「コンティニューム」(ジャコの1976年のアルバム「ジャコ・パストリアスの肖像」に収録)を思わせる。
ジョニのジャズ探究は、アルバム「ドンファンのじゃじゃ馬娘」を経て、新たな歌唱を工夫し、「ミンガス」「シャドウズ・アンド・ライト」に至ったのだ。