チック・コリア「フラメンコ」
Chick Corea 「Flamenco」
スペインを愛すジャズピアノ奏者チック・コリアが、フラメンコギター奏者パコ・デ・ルシアに捧げた曲のひとつが「フラメンコ」。
もちろん、フラメンコではなく、スペインの香りが漂うエレクトリックジャズ。
あえて言えば、手拍子が、まあ、フラメンコ風と言えなくもない。
それだけで、恥ずかしげもなく、このようなタイトルを付けるところがチックらしくて、微笑ましい。
いきなり、けなして悪かったが、実は大好きな曲。子どもの頃、父がラジオ番組から録音したテープで聴かされ、頭にすり込まれた。
この曲は、1980年のアルバム「タップ・ステップ」に収録。
♪タララタララタララタララ…とキーボードでアルペジオ奏法を繰り返すイントロからして、わくわく感をそそる。
♪ズンダダカダ、ダッタン…というドラム、♪ブオーン…というベース、♪パーパパパーパパー…というトランペットも加わり、さらに期待感をあおる。
その後、一転して、手拍子と、♪タララララ、ズンチャッチャ…とか、♪ズンチャ、ズンチャ、ズッチャッチャ…といった展開に。
そして、サックスがスペイン風味を醸し出す。「闘牛士のマンボ(ラ・マカレーナ)」を思い出させる音色だ。
ヒューバート・ロウズが吹く可愛い音色のピッコロが、いいアクセント。
♪ムアーン…というシンセサイザーの音色もいい。
♪ジャッジャッジャジャッ、ジャッジャジャン…という締めくくりもいい。
3分半ほどであっさりと終わり、もう少し聴きたいと思うほどだ。
アルバム「タップ・ステップ」は、良く言えば、バラエティー豊か、悪く言えば、何がやりたいのかよくわからないが、面白い作品だ。
同じくピアノ、キーボード奏者のジョー・ザビヌル(ウェザーリポート)やハービー・ハンコックを意識しているのかなと感じる楽曲があるのも、興味深い。
収録曲「サンバL.A.」は、これこそ、タイトル通り、ブラジルのサンバ。
ガヤガヤした話し声のイントロは、ウェザーリポートの曲「ブラックマーケット」を思わせる。
フローラ・プリムら女性4人の歌を前面に出し、♪ピーピピ、ピピッピ…といった笛の音、アイアート・モレイラのパーカッションがカーニバル感を高める。
タイトル曲「タップ・ステップ」は、♪ブッブーン、ブッブーン…というベースがリズミカルでいい。♪ズダダダダン、ズダダダダン…というドラムとともに、頭に染み込む。
収録曲「マジック・カーペット」は、シンセサイザーが美しい。パーカッションやドラム、ベースが刻むリズムも良い。
収録曲「グランパ・ブルース」は、チックが、機械の声のようにエフェクトをかけたヴォコーダーボイスで歌う異色作。
同様に、ハービーが自らヴォコーダーボイスで歌う怪作「アイ・ソート・イット・ワズ・ユー」に刺激されたのか。
ただし、下手くそな歌を伸び伸びと聴かせるハービーの弾けぶりと比べたら、ちょっと、照れがあるかなという印象。
チックよ。「フラメンコだもーん」と開き直る、あの厚顔はどこに行った?