ハービー・ハンコック「リバー」
Herbie Hancock 「River」
ジャズピアノ奏者ハービー・ハンコックの2007年のアルバム「リバー」は、個性派歌手ジョニ・ミッチェルの曲のカバー集。
ノラ・ジョーンズ、ティナ・ターナーらゲスト歌手が歌い、原曲とはひと味違った魅力を醸し出す。
しかも、本人歌唱の曲もあるから、聴き比べができる。
面白い趣向のアルバムだ。
長年のお友だちのウェイン・ショーター(サックス奏者)が参加し、この演奏も聴きどころ。
ショーターはこの頃70歳過ぎだけど、健在ぶりが感じられ、うれしい。
私が思うに、ショーターの持ち味は、♪プヒッ…みたいに短くて絶妙な合いの手と、ゆら〜りと幽霊のように現れて妖しげな演奏。
このアルバムでは、合いの手ショーターも、幽霊ショーターも楽しめる。
ハービーは、まあ、こんなもんでしょ、という感じ。
私、電化路線をひた走っていた頃の悪乗りハービーが一番好きなので。
収録曲「コート・アンド・スパーク」がいい。
ノラの情感たっぷりな歌で聴かせる。
ショーターは序盤、♪ポゥ…ポゥ…という合いの手で早速、持ち味を発揮。
中盤と終盤の妖しげなソロもいい。
原曲は1974年の同名アルバムに収録。
こういう、しっとり系の歌はノラのほうが合うと思う。原曲より、しっとり感が高い。
「コート・アンド・スパーク」のカバーで、ところどころに出る、♪タタタタン…というハービーのピアノの音色がなかなか(1分36秒ごろ~とか、4分28秒ごろ~)。
なんだか、クインシー・ジョーンズがカバーした「明日に架ける橋」(原曲はサイモン&ガーファンクル)を思い出した。
たしか、「明日に架ける橋」のカバーでは、ハービーがピアノを弾いていなかったか。
ティナが歌う曲「イーディスと親玉」は、♪ウワンワンワンワン…というイントロの音に、スティービー・ワンダーの曲「チューズデイ・ハートブレイク」が思い浮かんだ。
中盤や終盤のギターとともに、ファンク感を加えている。
「イーディスと親玉」のカバーで、ショーターは終盤にソロがある。
その出だしの♪プルルルルルル…みたいな、ひょっこり感のある演奏がいい。
原曲は1975年のアルバム「夏草の誘い」に収録。
これは、ジョニが声を震わせるように歌ったり、伸びやかな歌声を響かせたりする原曲もなかなかいい。
そして、ジョニ本人が歌う「ティー・リーフの予言」は、原曲が圧倒的に良い。
1988年のアルバム「レインストームとチョークの痕」に収録された原曲は、コクトーツインズをちょっと思い出させるような幻想的な伴奏がよかった。
このハービーのカバー版は、ショーターのソロはいい。
このアルバム「リバー」には、歌なしのインストゥルメンタル曲もあり、さりげなくショーター作の名曲「ネフェルティティ」が紛れ込ませてある。
そして、残念ながら、ショーターは、ここで馬脚を現す。
ハービーとの掛け合いが面白いとは思うけど、余興感がにじみ出ている。
気心知れたハービー相手だからだろうか。
ジャズの帝王マイルス・デイビス(トランペット奏者)と共演した初出の演奏(マイルスの1967年の同名アルバムに収録)は、あんなに妖しくて、緊張感があったのに。
なんだかなあ、という感じだ。