パット・メセニー「タップ」
Pat Metheny 「Tap : John Zorn's Book Of Angel Vol.20」
ギター奏者パット・メセニーの多才ぶりとセンスを再認識させられる名作が、2013年のアルバム「タップ」だ。
ユダヤ音楽をオーネット・コールマン(フリージャズの巨人。サックス奏者)風に料理するという、サックス奏者ジョン・ゾーン提唱のなんだか、よくわからないプロジェクト「マサダ」に賛同。
ゾーン作の曲をアレンジした。
パットも、ゾーンも、オーネットを敬愛する同志。オーネットゆかりのプロジェクトだから賛同したのだろうか。
そして、さすがに、パット。巧みに緩急を付け、場面の展開を感じさせるドラマチックなパット流の音楽に仕上げている。
はっきり言って、ゾーンの本家マサダより好きだ。
ゾーンには大変申し訳ないが、「マサダ」プロジェクトの最大の成果は、パットにこのアルバムを作らせたことだと言っても、いい。
「ユダヤ音楽+オーネット? 大丈夫かいな」と若干、ドキドキしつつ、かけてみると、オープニング曲「マステマ」からして、心が洗われる。
♪ビョーン…ビョーン…ビョビョビョビョッビョビョーン…というエキゾチックな音色の弦楽器で始まる。
そして、プログレバンド、イエスの異色作「錯乱の扉」を思わせる雰囲気の音楽に展開する。
♪キーキー…といったノイズ的な甲高い音が中盤から入り、中休みを挟んで、ノイズ感が高まり、ラジオの雑音みたいな感じになって終わる。
アルバムの聴きどころは、「タルシス」「サリエル」の2曲。
3曲目と4曲目なので、続けて聴きたい。
「タルシス」は、パットの名曲「ファインディング・アンド・ビリービング」を思わせるドラマ性の高さ。
♪タタララタララララ…という弦楽器と、パーカッションのシャカシャカ音で始まる。
1分20秒辺りから♪タンタンタン、タンタンタン…という美しいキーボードの演奏が展開される。ここがいい。
♪チャララー…とアランフェス協奏曲みたいなギター(?)の哀愁漂うメロディーも加わる。このへんのせつない雰囲気もいい。
4分過ぎくらいからテンポアップ。スローダウンして、終わる。
グリーグ「ペール・ギュント」組曲の「山の魔王の宮殿にて」みたいな感じと言ったら、いいだろうか。
「サリエル」は、ゆったりとして、そして、もの悲しい、おそらく中東の弦楽器で始まる。旅立ちを感じさせるような音楽。
2分50秒辺りから、♪キュイーン…というギターが前面に出てくる。哀愁漂う音色がいい。♪チャン、ジャカジャカ…という弦楽器と重ねている。
5分15秒辺りから中休みを挟んで、6分20秒辺りからまた、アップテンポになる。
♪ジャカジャカと♪キュイーン。そして、♪チャン、ジャカジャカ…と繰り返されるメロディー。♪キュイーンが、だんだん、ノイズ感を増す。
9分辺りから中休み。いったん静かになる。
そして、ノイズ感の高い♪キュイーン…のギター。♪ズダダダ…というドラム。最後は時計のようなチクタク音の後、♪ピッ、という電子音で、途切れるように終わる。
これは、また繰り返し聴きたくなってしまう。
「マサダ」という怪しげなプロジェクトに臆さず、買って損はない名作だ。
<以下、ご参考まで>
ゾーンによる「マステマ」「タルシス」「サリエル」は以下の通り。