
ミゲル・チャコウスキ「Acatao」
Miguel Czachowski 「Acatao」
ポーランド出身のフラメンコギター奏者ミゲル・チャコウスキは、フラメンコに、そのルーツのひとつ、インド音楽を組み合わせる。
さらに、ジャズの要素を取り入れ、ドラマチックで、表情豊かな音楽に仕上げる。
2014年のアルバム「Acatao」を聴いてみるといい。
エレキベースやフルートが入っているせいか、私が大好きなフラメンコギター奏者パコ・デ・ルシアのセクステット(六重奏団)に、インド音楽を加えたような趣だ。
バイオリンとギター、インドの太鼓タブラが掛け合う収録曲もある。
そこらは、ジャズ・フュージョンのギター奏者ジョン・マクラフリンが率いるバンド、シャクティの音楽を思わせる。
なかなか、楽しいアルバムだ。
ちなみに、英国出身のマクラフリンは当初、フラメンコギター奏者を志したが、周囲に全く理解されず、断念。ジャズやインド音楽に傾倒した。
対照的に、ミゲルは、フラメンコ好きの家庭に育ち、ギターを手に取ったという。インド音楽にも惹かれた点は、マクラフリンと同様だ。
ミゲル・チャコウスキ(Miguel Czachowski)の本名は、ミハウ・チャコウスキ(Michal Czachowski)。
ミハウは、米国や英国のマイケル(Michael)、フランスのミシェル(Michel)、ドイツのミハエル(Michael)、スペインのミゲル(Miguel)といった名前に相当するらしい。
Michalの「l」は、正しくは「l」に短い斜線が入ったポーランド語の文字。
この文字が表記にしくい事情もあってか、スペイン風のミゲルでの表記が多い。
本人のFacebookもミゲルだ。
フラメンコの古里、スペインへの思い入れもあるに違いない。
私は、アルバム「Acatao」は、Amazonで見つけて、買った。
私が買ったCDはポーランド製だからか、「ミハウ・チャコウスキ」名義だったが、ミゲルのプロジェクト「インディアルシア」名義の商品もあるようだ。
ライナーノーツはポーランド語。
楽器の名前くらいしか解読できないが、次の一文が目に留まった。
Ten album dedykuje Paco de Lucii
「Paco de Lucii」は、「Paco de Lucia」のことだと思い、調べて訳してみると「このアルバムは、パコ・デ・ルシアに捧げる」という意味。これには、グッときた。
フラメンコとインド音楽の組み合わせは、ほかのミュージシャンにも例がある。
パコの盟友のフラメンコ歌手カマロン・デ・ラ・イスラは「ナナ・デル・カバジョ・グランデ」という曲で、インドの弦楽器シタールにフラメンコの歌を合わせた。
哀愁と気合がこもった歌がいい。
1979年のアルバム「ラ・レジェンダ・デル・ティエンポ」に収めてある。
インド出身のシタール奏者アヌーシュカ・シャンカールは、本格的にフラメンコとインド音楽を融合させた。
2011年のアルバム「トラベラー」がそうだ。
ジャズ風味を加えた曲もあり、ピアノ演奏との掛け合いがスリリングな「ブレリア・コン・リカルド」が特にいい。
アヌーシュカの超絶技巧も聴きどころだ。
ミゲルは、作曲センスが優れているというか、音楽の仕上げ方がうまい。
例えるなら、ジャズギター奏者パット・メセニーみたいな感じだ。
アルバム「Acatao」は、さまざまな楽器を加え、フラメンコ、インド音楽、ジャズのバランスを変えながら、縦横無尽に展開し、飽きさせない。
タイトル曲「Acatao」がお気に入りだ。ドラマチックで、疾走感が高い。
♪カーン…という鐘の音と地の底から響くような低いうなり声、「アーイーヤー、アーイーイー…」といったフラメンコ調の叫び声で始まるイントロからして、映画の幕開けのようで、わくわく感をそそる。
続いて、手拍子と「タドゥン、ドゥン…」といったインド調の掛け声。
そして、♪ジャンジャンジャンジャ、ジャララジャララ…とギターが飛び込んできて、駆け出す。これがとてもかっこいい。
50秒あたりからの♪チャララ、チャラララ、チャラララ…というメロディーは、ちょっと、パコの曲「アンダルシアのジプシー」を思い起こさせる。
要所要所で、♪シャララン…と涼しい音色を奏でるインドの琴(?)も良いアクセント。
2分35秒あたりから、ギターとバイオリンの掛け合い。これがなかなか、いい。
4分あたりから、フルートのソロ。フルート奏者ホルへ・パルドは、パコのセクステットに参加していた名手だ。
5分15秒あたりで、チラッと入る歌声はインド調。
その後、今度はフラメンコ調の歌が入って盛り上げ、締めくくる。
シャクティを思わせる収録曲は「Gangaquivir」。これも疾走感が高い。
ミョンミョンした音色のインドの弦楽器(?)と手拍子で始まる。
イントロのギターは、ちょっと、パコの曲「アルモライマ」みたいな雰囲気だ。
1分あたりからのギターとバイオリンの合奏が最初の聴きどころ。
1分50秒あたりからバイオリンのソロ。
ミョンミョンした弦楽器とパーカッションが盛り立てる。
3分15秒あたりからのギターとバイオリンと掛け合いが圧巻だ。
収録曲「Kinna Sohna」は、フラメンコとインド音楽の融合。
1分45秒あたりと、2分50秒あたりの短いギターソロがいい音色。
3分30秒あたりで、インド調の歌が、ジャズのスキャットっぽい歌い方に変化するところが面白い。
あと、終盤のギターがいい。
収録曲「Nandi」は、インド音楽とジャズの融合。フラメンコ色は薄めだ。
シタールとピアノの掛け合い、中盤のピアノのソロ、終盤のシタール速弾きがいい。
収録曲「Aroma De Cilantro」は、インドの横笛、バンスリが主役。
美しい音色で、しっとりと聴かせる。フュージョンっぽい味わいがある。
タブラがいい感じで支える。
中盤はギターが前面に出る。そして、また、パンスリにバトンタッチ。
4分20秒あたりは、パコの曲「火祭りの踊り」を思わせる雰囲気だ。
