チック・コリア「マイ・スパニッシュ・ハート」
Chick Corea 「My Spanish Heart」
スペイン大好き男チック・コリア(米国のピアノ奏者)が満を持して放った。
1976年のアルバム「マイ・スパニッシュ・ハート」は、端的なタイトルが物語るように、「スペイン愛を表してみました」という雰囲気たっぷりの作品だ。
なりきりジャケットからして、思い入れのほどがうかがえる。
「僕の心の故郷はスペイン」という口癖が聞こえてきそうだ。
持ち味の哀愁漂うスペイン風味はもちろん、てんこ盛り。
自ら率いるフュージョンバンド、リターン・トゥ・フォーエバーが同じ年に発表したアルバム「浪漫の騎士」のようなロマンも、こぼれそうなほどにあふれる。
いわば、いいとこ取りの作品だ。演奏もそつがない。
個人的には、曲の素晴らしさという点では、ずばりなタイトルの代表曲「スペイン」(リターン・トゥ・フォーエバーの1973年のアルバム「ライト・アズ・ア・フェザー」に収録)が最高だと思う。
演奏の素晴らしさという点では、1981年のライブでフラメンコギター奏者パコ・デ・ルシアと共演した「イエロー・ニンバス」や、速弾きギター奏者アル・ディ・メオラと掛け合う「浪漫の騎士」のタイトル曲が最高だと思う。
「マイ・スパニッシュ・ハート」には、そこまでの名曲、名演はない。
それでも、「スペイン愛を表してみました」だけで、これほどのアルバムを作ってしまうチック全盛期の勢いを感じる。
オープニング曲「ラブ・キャッスル」は、タイトル通り、ベタで甘々な曲。
恥ずかしげもなく、こんな曲をいきなり持ってくる茶目っ気はチックならでは、だ。
♪タ、タンランラン…と軽やかなピアノで始まり、♪ブンブッブン…とシンセサイザーが加わる。ピアノとシンセの絡み具合がいい。
「ララララ、ラララー」という美声ボーカルは、チックの奥様ゲイル・モラン。
♪ジャッジャッジャー…と、いかにもスパニッシュなホーンも要所で入る。
このアルバムで一番好きな曲は「ウインド・ダンス」。
♪ターター、タンタタン…と躍動的なシンセで始まる。
「アーーーアアー」という美声ボーカルと、ピアノの絡みもいい。
さっきの「ラブ・キャッスル」もそうだけど、ボーカル入りの曲がなかなか、いい。
ボーカルはないけど、収録曲「アルマンド・ルンバ」も、お気に入り。
ピアノとバイオリンが絡む美しい曲で、手拍子がスペイン風味を醸し出す。
バイオリン奏者はジャン=リュック・ポンティ。
♪キュキュキュキュッキュッ…といった演奏のせいか、「情熱大陸」(葉加瀬太郎)が思い浮かんでしまうメロディーもある。
ピアノがそれを盛り上げる。
この曲の聴きどころは、ベース奏者スタンリー・クラークの演奏。
アコースティック・ベースで、流れるような演奏を見せる。
1分40秒~2分20秒あたりとか。
アルバム終盤の組曲2組(各4曲で構成)は「作っちゃいました」という軽いノリが漂う。
ノリで作っておいて、なかなか良い曲で、隙のない演奏。
欲を言えば、少し散漫。もう少し、ガツンとチックの演奏を聴きたかった。
組曲「エル・ボゾ」は、「浪漫の騎士」とか、ウェザーリポートみたいな趣。
「エル・ボゾ パート1」の♪プワップワップワー…とシンセで始まり、♪チャララー…と「アランフェス協奏曲」のメロディー。
「エル・ボゾ パート2」は、コミカルなシンセの演奏。テクノっぽい。
組曲「スパニッシュ・ファンタジー」は、クラシック風。
「スパニッシュ・ファンタジー パート1」は、♪チャラランチャラン…というピアノ、♪ズッタカター、ズッタカター…というドラムで重々しく始まる。
組曲の幕開けにふさわしい曲。
ピアノとホーンとの掛け合いもいい。
「スパニッシュ・ファンタジー パート2」は、メロディーがいい。
ところどころで、断続的に見せるピアノの速弾きが聴きどころ。
2分30秒あたりからとか、3分あたりからとか、3分30秒あたりからとか。
このピアノ速弾きをもっと、じっくりと聴かせてほしかった。
