パコ・デ・ルシア&リカルド・モドレーゴ「2本のフラメンコギターによる12のヒット曲」
Paco De Lucia y Ricardo Modrego 「12 Exitos Para 2 Guitarras Flamencas」
フラメンコは、リズムが重んじられる。
リズムを刻む手拍子(パルマ)、足拍子(サパテアード)、カスタネット(パリージョ)は、その象徴と言えるだろう。
リズムには、いろんな形式があり、その形式のリズムに沿って、歌い手、踊り手、ギター奏者が息を合わせる。
(フラメンコの特徴は、ジプシーキングスの音楽と対比させて書いた過去記事「ジプシーキングス『セイバー・フラメンコ』」を参照)
フラメンコギター奏者パコ・デ・ルシアが駆け出しの頃、演奏したフラメンコの定番曲「マラゲーニャ」は、ギターとカスタネットだけのシンプルな構成だ。
パコは、得意の速弾きを交えるけども、あまり技巧に走らず、ベーシックな演奏。
カスタネットの魅力がよくわかる。
先輩格のリカルド・モドレーゴとのギターデュオアルバム「2本のフラメンコギターによる12のヒット曲」(1965年)に入っている。
収録曲にパコのオリジナルはなく、いずれも、フラメンコやラテンの定番曲とか、ポピュラーソング。
おそらく、パコが主体で弾いて、リカルドはバックアップに回っている。
ほかの収録曲でも、「モリエンド・カフェ」「セビジャーナス・ポプラレス」は手拍子とカスタネット、「ラ・ニーニャ・デ・プエルタ・オスクラ」は手拍子と足拍子がギターを引き立てていて、フラメンコのリズムをよく味わえる。
「マラゲーニャ」は、スペインのマラガ県のフラメンコ(リズムの形式は、マラゲーニャ)。
♪タタンタタン、タタンタタン…というイントロに続いて、速弾きが飛び出す。
カスタネットが出てくるのは、この後。
♪チャチャチャン、チャチャチャン、チャッチャッ…というギターに、♪カララカカン、カララカカン、カッカッ…とカスタネットが絡む。
1分5秒あたりから、ギターはトレモロ奏法で叙情的なメロディーをつむぐ。
カスタネットは、♪カンカラカッカッカッカ、カンカラカッカッカッカ…と、いかにも情熱的なリズム。
煽られるように、ギターが速まるところがいい。
1分40秒あたりで、クールダウン。
2人のギター奏者がゆるゆると掛け合う。
2分15秒あたりから、疾走。ここが聴きどころだ。
2分40秒あたりでクールダウンを挟んで、また、疾走。
3分15秒あたりから渾然一体となって最高潮に達し、最後は、弦をかき鳴らすラスゲアード奏法でフィニッシュ。
「マラゲーニャ」は、私の父が楽譜を持っていて、家で弾いていた。
子どもの頃の私も、弾こうと練習したのを覚えている(飽きっぽいので、すぐ断念)。
フラメンコは本来、楽譜がない音楽なので、フラメンコを弾いてみたい愛好家向けの楽譜だったのだと思う。
ちなみに、パコは、スペインの作曲家ファリャのオペラ、バレエ音楽のカバー集的なアルバム「炎」(1978年)を手がける時まで、楽譜の読み書きができなかったと聞く(「炎」制作時に楽譜の読み書きを勉強したのだとか)。
ついでに、もうひとつ。
トリオ・ロス・パンチョスの演奏で知られる「ラ・マラゲーニャ」は名前が似ているけど、全く別物だ。
これも、なかなか良い曲ではある。
サビの部分での伸びのある裏声がいい。
「モリエンド・カフェ」は、ラテンの定番曲。
「コーヒー・ルンバ」という別名で、よく知られる。
荻野目洋子もカバーしていた。
イントロから、カスタネットとギターが疾走する。
38秒あたりからが、よく知られているメロディー。
ここから手拍子が加わる。
形式は、ルンバ・フラメンカ。
キューバ音楽を取り入れた形式で、もともと、フラメンコの中では異端だったけども、のちにパコがこの形式の曲「二筋の川」をヒットさせ、人気の形式となった。
「セビジャーナス・ポプラレス」は、スペインのセビリア県のフラメンコ(形式は、セビジャーナス)。
♪パパ、パンパン、パパパパパパ…という手拍子は、「モリエンド・カフェ」とリズムが違うというのが、わかりやすいと思う。
カスタネットは、♪カラララララ…という感じ。
全体的に、陽気な感じだ。
1分49秒、2分2秒、2分14秒、2分28秒あたりで、それぞれ、掛け声(ハレオ)が入る。
「ラ・ニーニャ・デ・プエルタ・オスクラ」の原曲は、スペインのポピュラーソングのようだ。
ここでは、かなりアレンジ。速くて、激しくて、かっこいい曲に仕上げている。
形式は、最も速くてフラメンコらしく、人気の高い、ブレリア。
いきなり、激しい手拍子で始まる。
そして、足拍子が加わる。
20秒あたりから、ギターが入り、足拍子と掛け合う。
44秒あたりからは、ギターと手拍子の合奏。
1分37秒あたりから、足拍子に交代。
♪ズダダダダ…と足拍子が入ってくるところがいい。
ギターと合奏し、掛け合う。
2分あたりから最後までは、手拍子がギターに絡む。
パコは、1973年のアルバム「二筋の川」でキューバの太鼓ボンゴやエレキベースを導入し、76年のアルバム「アルモライマ」ではアラブの弦楽器ウードを演奏するなどフラメンコの幅を広げた。
そして、「炎」で、スペインのフュージョンバンド、ドローレスのメンバーと共演し、自らの六重奏団を結成するに至る。
その音楽は、フラメンコ・フュージョンとでも言おうか。
たとえば、六重奏団によるライブ盤「ワン・サマー・ナイト」(1984年)と、本作「2本のフラメンコギターによる12のヒット曲」を、聴き比べてみると、面白い。
