トリオ・ロス・パンチョス「東京のトリオ・ロス・パンチョス+日本のトリオ・ロス・パンチョス」
Trio Los Panchos 「En TOKYO + En JAPON」
メキシコ人らのギター3人組トリオ・ロス・パンチョスが好きな父(団塊世代)に昨年、贈ったら、少し喜ばれた。
パンチョスの「En TOKYO + En JAPON」は1960、61年の来日時に発売された企画盤2枚「En TOKYO」「En JAPON」をカップリングした復刻CD(2020年発売)。
「さくらさくら」「その名はフジヤマ」「情熱の花」といった日本向けの歌曲をはじめ、「ラ・マラゲーニャ」「キエンセラ」「シボネイ」といったパンチョスの演奏でなじみ深いラテンの定番曲が入っている。
(オリジナルの「En JAPON」にあった「黄色いさくらんぼ」が入っていないのは残念。あと、「べサメ・ムーチョ」や「ある恋の物語」は、もともと、ない。この2曲が入っていれば、ベスト盤みたいな感じになったと思う)。
私が子どもの頃、父がパンチョスのカセットテープを持っていて、パコ・デ・ルシア(フラメンコギター奏者)と同じくらい、よく聴かされた。
私にとっては、洋楽の入り口で、スペイン語の響きが新鮮だった。
「べサメ・ムーチョ」は歌詞を暗記してしまったくらい(音を暗記しているだけで、単語の切れ目とか、意味はわかっていない)。
家に楽譜があり、前奏くらいは、私も弾けていたと思う。
哀愁を帯びた歌声、ここぞという時の裏声が良かった。
ギターの音色と合っていたと思う。
メロディーなんかは、今聴くと、ズバリ、古くさく感じてしまうけども、裏返せば、時代の空気をよく表しているとも言える。
私の父のような年配の方には、懐かしく感じられるのではないか。そして、何より、日本人好みの音楽だと思う。
収録曲をいくつか紹介する。
「ラ・マラゲーニャ」
前奏がとてもいい。しみじみとさせられる。弾こうと練習したものだ。
裏声の伸びがすごい(1分10〜20秒あたりとか)。
そして、その後の「サルトゥー、ラビオスキシェーラ」と声を絞り出すようなところが好き(1分32〜36秒あたり)。
「キエンセラ」
「エッケリドボルベラビビ」と変調するところが好き(42秒あたり)。
歌の背景で、♪タタラララ、タララララ…と弾くところも、いい(1分25〜29秒あたりとか)。
そして、終盤の唐突な「ランラ、ランラ、ランラ、ランランラン」(2分18〜28秒あたり)。
フッと、頬が緩んで、力が抜ける。
ちなみに、この曲は、アイスランドの歌姫ビョークがアイスランド語で歌っている。
こぶし、うなり声といったビョークの個性がよく表れていて、とてもいい。
私は、パンチョス版より、ビョーク版が好き。
「シボネイ」
大好きな曲。
パーカッションが前面に出ている。
ギターは控えめだけど、イントロだけでも、聴きごたえがある。
この曲は、ダニエル・ポンセ(キューバ出身のパーカッション奏者)の名演と聴き比べてみてほしい。
「さくらさくら」
1回目は日本語とスペイン語混合で歌っている。
「さくら、さくら」とか、「いざや、いざや」とか。
2回目は全部、日本語。
2回目の歌の後(2分以降)は、陽気なメロディーに変化して「さーくら、さーくら」「やよいのそーらはー」などと歌う。
これがなかなか面白い。
2分35〜58秒あたりのギターソロもいい。
前半がしみじみ、後半が陽気なメロディーに変化するという構成は、叙情詩と舞曲で構成するフォルクローレみたいで、興味深い。
たとえば、クリスティーナとウーゴや、ロス・インカスの「コンドルは飛んでいく」と聴き比べてみてほしい。
「情熱の花」
ベートーベンの「エリーゼのために」をアレンジした曲で、日本では、ザ・ピーナッツが歌って、ヒットした。
パンチョスのカバーは、「ララララー」のほかはスペイン語。
1分12〜35秒あたりのギターソロがいい感じだ。
「その名はフジヤマ」
パンチョスが1961年の日本公演のために作った曲。
中盤は、日本人と思われる女性歌手が歌い、後半は、パンチョスとこの女性歌手が掛け合うように歌う。
この曲は、アントニオ古賀に贈られ、ヒット曲となった。
アントニオ古賀の師匠である古賀政男も、私の父は気に入って、よく聴いていたし、古賀メロディーをギターで弾いていた。
「酒は涙か溜息か」「影を慕いて」とか、懐かしい。
本作「En TOKYO + En JAPON」には収録されていないが、「黄色いさくらんぼ」をYouTube動画で見つけたので聴いてみると、パンチョスが可愛く思える。
この曲は、ぜひ収録してほしかった。
