エニグマ「リターン・トゥ・イノセンス」
Enigma 「Return To Innocence」
エニグマは、1990年のアルバム第1作「サッドネス(永遠の謎)」で、エレクトロニカに、グレゴリオ聖歌と女性のささやき声やあえぎ声を組み合わせ、「聖」と「性」の対比でインパクトを生んだ。
収録曲「プリンシプルズ・オブ・ラスト」が特に素晴らしい。
1993年の第2作「ザ・クロス・オブ・チェンジズ」では、民族音楽の歌唱を取り込んで新境地に挑んだ。
収録曲「リターン・トゥ・イノセンス」が象徴的で、台湾のアミ族の歌唱を取り込んだ。
ディープ・フォレストが1992年に放ったアルバム第1作で、エレクトロニカとアフリカの部族の歌唱を組み合わせており、刺激を受けたに違いない。
「ザ・クロス・オブ・チェンジズ」は、「サッドネス(永遠の謎)」でセクシーさを演出した女性歌手サンドラのボーカルは控えめだけども、シンセサイザーで作ったと思われる笛の音色をはじめ、神秘的で宇宙的な音楽は堅持。
ディープ・フォレストと同じように民族音楽の歌唱を取り込みながらも、エニグマらしい音楽に仕上げている。
シンセサイザーで作った笛のような音は、エニグマと同じくドイツのバンド、クスコを連想させる。
ドイツ人好みの音色なのだろうか。
「リターン・トゥ・イノセンス」は、このアルバムのハイライト。
私は、初めて聴いて即刻、気に入った。
TOTOの名曲「アフリカ」みたいな味わいがあり、しみじみとして、心が洗われる。
広大な大地が目に浮かぶ曲、と言ってもいい。
「ヤイヤイ、ハーイヨ、アイアイヤー…」と、エスニック感たっぷりのアミ族の男性の歌唱が繰り返されて始まる。
続いて、エレクトロビートと英語の歌唱。
「Love…Devotion…Feeling…Emotion…」と、何だか、意味深な感じだ。
そもそも、「永遠への回帰」を意味するタイトルがいい。
アミ族の歌唱は何度か、出てくるのだけども、1分53秒~2分25秒あたりのパートでは、冒頭の男性の歌唱に、女性の歌唱が加わって、掛け合う。
ここが聴きどころ。
この後に、「リターン・トゥ・イノセンス」といったサンドラのささやき声が入る。
この曲で、サンドラの出番は少しだけど、余韻を残すのは、さすが。
2分58秒~3分53秒あたりも、アミ族の男女の歌唱。
そして、サンドラのささやき声があって、フィニッシュ。
ファンにはよく知られた話だと思うけど、この曲に取り込まれた歌唱は、アミ族の夫婦が歌う「老人飲酒歌」が元ネタ。
エニグマは、無断でサンプリングして使っていて、裁判ざたになった。
ついでに言うと、ディープ・フォレストも、民族音楽の歌唱を無断で使い、もめた。
私は、どちらのバンドも大好きなので、これは残念だ。
エニグマとディープ・フォレストのフォロワー的なバンドで、これまた私が大好きなデレリアムは、先達のこのような姿を見たためか、音源に気を配った。
たとえば、1997年のアルバム「カルマ」に収録されたヒット曲「サイレンス」に入っているグレゴリオ聖歌は、聖歌隊を雇って録音した(エニグマの場合は既存の音源からサンプリング)。
あ、でも、デレリアムも、同じアルバムの曲「フォーガットン・ワールド」では、デッド・カン・ダンスの曲「ペルシアン・ラブソング」から歌手リサ・ジェラルドの歌をサンプリングして使っていた。
これは、断ったのかな?
アルバム「ザ・クロス・オブ・チェンジズ」に話を戻す。
オープニング曲「アイズ・オブ・トゥルース」は、東南アジア風のエスニックな楽器演奏と歌で始まる。
パーカッションが歌を引き立てる。
そして、エニグマ得意の笛のような音。
後半は西洋風の荘厳なコーラスが入る。
収録曲「サイレント・ウォリアー」は、小鳥のさえずり、民族音楽のような歌唱、パーカッションが入る。
このイントロのネイチャー感は、ディープ・フォレストに近い。
ただ、男性歌手の歌が始まると、やっぱり、エニグマだという感じ。
第1作の収録曲「バック・トゥ・ザ・リバーズ・オブ・ビリーフ」みたいな味わいの曲だ。
収録曲「エイジ・オブ・ロンリネス(カーリーの歌)」は、東南アジア風のエスニックな楽器演奏や歌唱があるが、全体的には第1作の収録曲「ミア・カルパ」に近い味わい。
サンドラのささやくような歌声が入る。
