オーネット・コールマン「ヴァージン・ビューティー」
Ornette Coleman 「Virgin Beauty」
フリージャズの巨人オーネット・コールマン(サックス奏者)が1988年に放ったアルバム「ヴァージン・ビューティー」を初めて聴いた時、お得意の「気ままフレーズのループ」だと思った。
しかも、やたらと能天気。
アホな音楽だなと鼻で笑ってみたけど、聴いているうちに、どんどん、頭に染み込んできて、癖になる。
素人耳には、適当に吹いているだけにしか、聴こえないのに、不思議だ。
ジャズ愛好家である会社の後輩に言わせると、私が大好きなジャコ・パストリアス(ベース奏者)こそ、適当に弾いているだけだという。
これに対し、オーネットは理論に基づく高度な演奏をしているのだという。
この後輩、少し変わり者だけど、スピーカーを自作するほどの音楽鑑賞マニアだから、私と違って、鋭敏な感性を持っているのかもしれない。
だけど、そこまで言うからにはオーネットのファンかと思うと、そうでもない。
自らギターを弾くからか(時々、仲間とライブをやるらしい)、ジャズはギターが最高だと断言する。
私に勧めてくるのもギター奏者ばかり。
アラン・ホールズワース、ジョン・スコフィールド、ジョン・アバークロンビー、マッテオ・マンクーソとか。
しまいには「僕がギターを弾くから、先輩はジャコになったつもりでベースを」と仲間に引き込もうとしてくる。
♪タラッタ、タータラタラッタ…とジャコの得意フレーズを弾く自分を一瞬、想像したけど、不器用な私にできるわけがない。
やっぱり、聴くほう専門だ。
アルバム「ヴァージン・ビューティー」の収録曲で、最もインパクトが強いのは「スリー・ウィッシーズ」だ。
♪パーパラパーパラパパパパ、パーパラパーパラパ…と中東風のメロディーをサックスが奏でて、♪プァーッ…とトランペットの合いの手が入る。
(トランペットもオーネットが演奏)。
基本は、この繰り返し。
間の抜けたプァーッが絶妙な味わいを醸し出し、馬鹿のひとつ覚えのように、最後まで要所要所で飛び出す。
これが最高。
中東風味かつ、この中毒性。
匹敵するのは、オーネットを神のように崇めるサックス奏者ジョン・ゾーンの曲「Nashim」(1998年のアルバム「マサダ・ヨッド」に収録)くらいか。
この曲「Nashim」で、ゾーンは、ついに神(オーネット)の領域に迫っている。
併せて聴きたい。
収録曲「ブルジョワ・ブギー」は、♪パラパラパラパラ、パッパッパッパパ…パラパラパラパラ、プァーパー…の繰り返し。
それをギター、ベース、ドラムのコミカルな演奏が引き立てる。
♪カッコン、カッカッコン…というパーカッションも加わり、コミカルさを高める。
「ハッピー・アワー」はタイトルの通り、のどかでハッピーな曲。
♪ボーンボボンボ、ボーンボボンボ…というベースに、♪パッパラパラパッ、パーパー…とサックスが絡むイントロからして能天気感十分。
♪ピョーン、ピョーン…というギターの合いの手が、さらに雰囲気を高める。
オーネットはノリノリで吹きまくり、♪パッパパ、パワパワ、パッパー、パッパ!と可愛く締めくくる。
どことなくトロピカルな爽やかさを感じさせる「デザート・プレイヤー」、ギター&ベースとの掛け合いが面白い「スペリング・ジ・アルファベット」と、ほかにも良い曲がそろう。
気ままフレーズの繰り返しが長々と続く名盤「ダンシング・イン・ユア・ヘッド」から目に浮かぶのが、熱演に汗を滴らせるオーネットの顔だとすれば・・・
「ヴァージン・ビューティー」から見えるのは、涼しげな顔のオーネット。
オレはやりたいようにやるぜと、どこ吹く風のたたずまいだ。

