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ジプシーキングス「ホテル・カリフォルニア」 ズンジャカと乗り重視の特徴があらためてわかる フラメンコでもルンバ・フラメンカでもない (おすすめ名曲名盤)

ジプシーキングス「ホテル・カリフォルニア」

Gipsy Kings 「Hotel California」

 

原曲と聴き比べると、ジプシーキングスの音楽の特徴がよくわかる。

イーグルスのヒット曲「ホテル・カリフォルニア」のカバー。

ジプシーキングスの音楽は、フラメンコではないし、ルンバ・フラメンカでもないことも、あらためて説明してみたい。

 

ジプシーキングスの「ホテル・カリフォルニア」は、エレクトラレコードの40周年記念のコンピレーションアルバム「ルバイヤート」(1990年)に収録され、1999年にはシングルで発売された。

私は「ザ・ベスト・オブ・ジプシー・キングス」(2005年)収録のものを聴いた。

原曲は、イーグルスが1976年に放ったアルバム「ホテル・カリフォルニア」のタイトル曲。

 

まずは原曲から聴いてみたい。

イーグルスの「ホテル・カリフォルニア」(6分30秒)は、よく知られた哀愁漂うギターのイントロで始まり、0分51秒あたりの♪ドンドン…を合図に歌が始まる。

♪スッチャカ、スッチャカ…というレゲエのリズムが曲を支える。

3分20~23秒あたりで♪キューン、キュキューーン…と泣きのギターが入る。

4分20秒あたりから最後までのギターソロが聴きどころ。

ドン・フェルダーのギターソロに、ジョー・ウォルシュのギターが絡む。

 


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ジプシーキングスの「ホテル・カリフォルニア」(5分48秒)は、原曲と同じく、哀愁漂うギターのイントロで始まる。ここで、お得意の♪ズンジャカ、ジャカジャカ…といったギターかき鳴らしはない。

0分56秒あたりからズンジャカギターとともに歌が始まる。

1分57秒~2分16秒あたりでギターソロ。バックでは、ズンジャカギター。

3分13~30秒あたりで、話し声とギターが絡むパート。ここではズンジャカギターはない。

4分9秒あたりから終わりまでギターソロ。この間もズンジャカギターが入る。

 


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ジプシーキングスの「ホテル・カリフォルニア」は、原曲のレゲエのリズムをズンジャカギターに置き換えていること、ズンジャカギターが入らないのはイントロと「話し声&ギターのパート」くらいであることがわかる。

そのほかのところでは、ずっと、ズンジャカだ。

 

リードギターとリズムギターにたとえて考えてみると、わかりやすいと思う。

ジプシーキングスの音楽は、リズムギターがすごく前面に出ていて、リードギターはあんまり目立っていない感じと言ってもいい。

イーグルスは、リードギターが主役。ギターはあくまでメロディーを弾く。背景で支えるのは、パーカッションによるレゲエのリズム。

 

ジプシーキングスの音楽の特徴は、ズンジャカにある。

代表的な曲を思い出してもらうといい。

「ジョビ・ジョバ」「バンボレオ」「ベン・ベン・マリア」「ボラーレ」、みんなズンジャカ。

代表的な曲で、ズンジャカがないのは「インスピレーション」くらいではないか。

 


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記事「セイバー・フラメンコ」でも書いたけど、あらためて説明する。

ジプシーキングスの音楽は、フランス南部のロマ民族(ジプシー)のギター奏者マニタス・デ・プラタ(本名リカルド・バリアルド)が、ルンバ・フラメンカから派生させた独特の音楽が基盤にある。

(ルンバ・フラメンカは、フラメンコの一形式で、キューバ音楽を取り入れたもの)。

マニタスの独特の音楽は、フラメンコギターの奏法で、弦をかき鳴らす「ラスゲアード奏法」や、ギターを叩いて鳴らす「ゴルペ」を多用しているのが特徴。

一例として、「ジプシー・ルンバ」という曲を紹介しておく。

 


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ちなみに、マニタスは歌手ホセ・レイエスと一緒に活動。この2人の息子たち、バリアルド兄弟とレイエス兄弟が結成したのが、ジプシーキングスだ。

ジプシーキングスは、マニタスの独特の音楽を、さらにポップにアレンジしている。

ラスゲアード奏法をかなり多用し、これが特徴的なズンジャカのリズムを生んでいる。ゴルペも多用している。

 

一方、フラメンコでは、ラスゲアード奏法やゴルペは、アクセント程度で、あまり多用しない。ギターはあくまでメロディーを弾く。ここでの速弾きが聴きどころだ。

リードギターとリズムギターのたとえで言うと、フラメンコはリードギターとしての演奏が主体だ。

 

ジプシーキングスの音楽と、ルンバ・フラメンカを聴き比べてみてほしい。

ルンバ・フラメンカは、もともと、フラメンコの中では、異端的な形式だったけど、フラメンコギター奏者パコ・デ・ルシアがパーカッションを取り入れて発展させ、人気の形式に育て上げた。

ここでは、パコの曲で、ルンバ・フラメンカの「二筋の川」と「広い河」を紹介する。

 


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感じ方は人それぞれ自由だから、フラメンコを知ったうえで、ジプシーキングスの音楽もフラメンコも同じだと感じるのなら、それはその人の感じ方ということで、いいと思う(私は、ジプシーキングスの音楽とフラメンコは違うものだと思うけど)。

ただ、フラメンコを知らずに、ジプシーキングスの音楽がフラメンコだと誤解されるのは心外だ。そして、その誤解がけっこう流布している。

 

残念なことにWikipediaでさえ、間違っている。

Wikipediaの項目「ジプシー・キングス」には以下のように書いてある。

冒頭の部分を抜粋してみる。

 

ジプシー・キングス(Gipsy Kings)は、フランス出身のフラメンコ・ギター・バンド。フラメンコに南仏系ラテン音楽の要素が入ったルンバ・フラメンカを基盤に、ポップスやロック、クロスオーバーも取り入れた音楽を得意とする。

(以上、抜粋)

 

ja.wikipedia.org

 

まず、「フラメンコ・ギター・バンド」という表現が怪しい。

ラスゲアード奏法やゴルペといったフラメンコギターの技法を取り入れているのは事実だ。だけど、演奏スタイルはフラメンコとは言えないので、この表現は誤解を招くと思う。

そして、ジプシーキングスの音楽は、「ルンバ・フラメンカ」ではなく、「ルンバ・フラメンカからフランス南部のジプシーが派生させた音楽」を基盤としている。

Wikipediaのこの項目は、そもそも、ルンバ・フラメンカの説明が間違っている。ルンバ・フラメンカは「フラメンコの形式のひとつで、キューバ音楽の要素が入ったもの」だ。

 

Wikipediaがこの調子だから、音楽関係のサイトでも、ジプシーキングスについて「ルンバ・フラメンカの代表的なバンド」といった誤った記述が散見される。

 

「ジプシーキングスの音楽はフラメンコではない」ことを訴えるのが本意ではない。

せめて、ジプシーキングスに興味を持った方だけでも、フラメンコを聴いてみてほしいというのが、私の願い。

ジプシーキングスが良い悪いではない。

私はフラメンコが好きだし、ジプシーキングスの音楽も好き。

それぞれ、違う良さがある。

だけど、フラメンコとジプシーキングスの音楽は違う。似ているけど、違う。

 

百歩譲って、フラメンコを幅広くとらえて、ジプシーキングスも含まれるということになっても、私は、いいと思う。

ジプシーキングスがフラメンコの代表的な存在とか、中心的な存在ではないことをわかったうえでなら。

 

ジプシーキングスは、一般になじみ深い、いわゆる「ジプシーキングスの音楽」だけでなく、フラメンコの形式に即した曲も作っている。

それが記事「セイバー・フラメンコ」で紹介した「セイバー・フラメンコ」「モザイク」といった曲だ。これを聴いてもらうと、ジプシーキングスの音楽と、フラメンコの違いがよくわかると思う。

 

パコも、伝統的なフラメンコから派生した音楽を創造した。六重奏団による演奏は、ジャズの要素を取り入れていて、フラメンコ・フュージョンといった趣だ。

たとえば、ポーランド出身のフラメンコギター奏者ミゲル・チャコウスキの音楽は、パコの音楽の延長にあると思う。

 

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パコの盟友のフラメンコ歌手カマロン・デ・ラ・イスラも、フラメンコ・フュージョン的な曲「ラ・レジェンダ・デル・ティエンポ」、フラメンコ・ロック的な曲「ヴォランド・ヴォイ」を放っている。

「ヴォランド・ヴォイ」は、ギターがズンジャカの役割を果たし、リードギター的な役割はベースが担う。ジプシーキングスに近い味わいだと思う。聴き比べてみてほしい。

 


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