疾風怒濤のサックス奏者ジョン・ゾーン(John Zorn)は、アクが強すぎて、好みが分かれるだろう。
私は大学時代、インダストリアル・ロックやノイズ・ミュージックに興味を持ち、その延長でゾーンを知り、はまった。
フリージャズの巨人オーネット・コールマン(Ornette Coleman)を崇拝し、狂ったような乱れ吹きが持ち味。
1989年のアルバム「スパイvsスパイ(Spy vs Spy)」は、オーネットの曲のカバー集。
名曲「ブロードウェイ・ブルース(Broadway Blues)」などを高速で奏でて、敬意を表す。
1990年のアルバム「ネイキッド・シティ(Naked City)」は、狂ったような乱れ吹きと、粋なジャズの演奏がめまぐるしく切り替わる。
サウンドコラージュのような音楽だ。
収録曲「スナッグルパス(Snagglepuss)」は、その典型。
ちなみに、サックス奏者デビッド・サンボーン(David Sanborn)と、この曲を共演している。
サンボーンの番組にゲスト出演した時の余興か、ネットで動画を見つけた。
憧れのスターを前にして、ゾーンの舞い上がりぶりが面白い。
同じアルバムの収録曲では、オーネットの名曲「ロンリーウーマン(Lonely Woman)」のカバーも聴きどころ。
重厚でスリリングに仕上げていて、原曲より好みだ。
オーネットの傑作「テーマ・フロム・ア・シンフォニー(Theme from A Symphony)」のフレーズもさりげなく紛れ込ませているのが、いい。
ゾーンは、ネイキッド・シティ、ペインキラー(Pain Killer)という2組のバンドを結成して前衛的な音楽を追求した。
ゾーン名義のアルバム「ネイキッド・シティ」を原点とするバンド、ネイキッド・シティでは、即興で奇声パフォーマンスを繰り広げる山塚アイ(ボアダムス)と組んで、本領を発揮した。
ネイキッド・シティの1990年のアルバム「拷問天国(Torture Garden)」は、メタルと乱れ吹きと奇声を組み合わせた音楽。
収録曲「血が薄い(Blood Is Thin)」は、メタル風のギターリフで始まり、♪カンカン…というドラムスティックを合図に、山塚が奇声で暴れ、ゾーンが乱れ吹く。
この曲、FMでかけてもらったことがあるけど、パーソナリティの方が困惑していた。
1992年のアルバム「異教徒(Heretic)」は、メタル感を捨て去り、奇声パフォーマンスを増強した。
もはや、音楽というより、パフォーマンス。
1993年のアルバム「ラジオ(Radio)」は原点回帰というか、ゾーンのアルバム「ネイキッド・シティ」のような趣。
いわゆる、音楽に近いので、聴きやすいと思う。
なお、ネイキッド・シティ(バンド)やペインキラーのアルバムは、怖い物見たさの心理をくすぐるのか、物好きの間で人気が高いのか、Amazonやヤフオクでは法外なプレミア価格で出品されることがあるので、要注意。
私はいずれも発売当時に定価で買った。
日本のピンク映画のポスターが大好きだというゾーンの趣味を反映して、エログロなジャケットなので、レジに持って行くのが恥ずかしかったのを覚えている。
ゾーンはその後、ユダヤ系という自らのルーツに目を向け、1993年に問題作「クリスタル・ナハト(Kristallnachat)」を発表した。
ナチスドイツによるユダヤ人迫害をテーマにしたノイズ・ミュージック作品。
収録曲「ネバー・アゲイン(Never Again)」は、大量のガラスが割れるような不快な音が延々と続く。
「可聴域を超える音があり、聴覚にダメージを与える恐れがある」との警告がライナーノーツに記されていた。
一種の毒物だ。
さらに、ゾーンは、ユダヤ音楽をオーネット風に料理するというプロジェクト「マサダ」に、のめり込んでいく。
マサダ・プロジェクトの作品は、ただの中東風味のジャズで、ゾーンは「らしさ」を失っていくように、私には思えた。
本人も反省したのか、迷走マサダ・プロジェクト第10弾のアルバム「マサダ・ヨッド(Masada Yod)」(1998年)では、疾風怒濤の原点に回帰した。
持ち前の雄叫びブロウ、ゴン太ブロウのほか、新技コッコブロウも繰り出す。
オーネットの1988年のアルバム「ヴァージン・ビューティー(Virgin Beauty)」の収録曲「スリー・ウィッシーズ(Three Wishes)」を思い出す。
中東風味を加えつつ、持ち味の「気ままフレーズのループ」を堅持し、オーネットらしい音楽に仕上げていたからだ。
「マサダ・ヨッド」に至って、ついに、ゾーンは、神(オーネット)の領域に手をかけたと言えよう。
マサダ・プロジェクトには、オーネット大好きなギター奏者パット・メセニー(Pat Metheny)も賛同。
ゾーンが作ったマサダ楽曲をパットらしく、ドラマチックにアレンジしたアルバム「タップ(Tap)」(2013年)を放った。
パットにとって新境地と言える作品で、パットに「タップ」を作らせたことこそ、マサダ・プロジェクト最大の成果だ(ゾーン、すまん)。
<私的ベスト3枚>
(1)ネイキッド・シティ「拷問天国」
(2)ジョン・ゾーン「ネイキッド・シティ」
(3)ジョン・ゾーン「マサダ・ヨッド」
<おまけリンク>
私をジョン・ゾーンに導いたインダストリアル・ロックやノイズ・ミュージック
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