ジプシーキングス(Gipsy Kings)は、フラメンコギターの奏法を取り入れながら、乗りの良いポップな音楽を作り出して、人気を集めた。
ジプシーキングスの音楽とフラメンコとの関係、彼らのフラメンコへの敬慕を理解すると、より深く味わえる。
ポイントは以下の4点。
(1)ジプシーキングスのメンバーはフランス南部のロマ民族(ジプシー)。弦をかき鳴らす「ラスゲアード奏法」、指でギターをたたいて鳴らす「ゴルペ」といった、フラメンコギターの奏法を多用する。スペイン語で歌い、手拍子(パルマ)も加えていて、フラメンコのような雰囲気がある。
(2)ジプシーキングスの音楽はフラメンコではない。フラメンコの一形式で、キューバ音楽を取り入れた「ルンバ・フラメンカ」でもない。この点は誤解が広まっていて、Wikipediaの記述でさえ、間違っている。
(3)ジプシーキングスの音楽は、異端のフラメンコギター奏者マニタス・デ・プラタ(Manitas De Plata)がルンバ・フラメンカから独自に発展させた音楽を、よりポップにアレンジしたものである。マニタスはフランス南部のロマ民族で、本名リカルド・バリアルド。ジプシーキングスのバリアルド兄弟の父だとされる。
(4)ジプシーキングスの音楽の源流をたどると、フラメンコにたどり着くのは間違いない。彼らは遠いルーツのフラメンコに敬慕の念があったと思われ、伝統的なフラメンコの形式に沿った曲「セイバー・フラメンコ(Savor Flamenco)」「モザイク(Mosaique)」も作っている。この2曲は「ジョビ・ジョバ(Djobi Djoba)」「バンボレオ(Bamboleo)」のような、よく知られたジプシーキングスの曲と趣が違う。
具体的な曲やアルバムに触れながら、もう少し説明する。
(詳しくは、リンク先の各記事へ。随時、追加・更新)。
ジプシーキングスは、♪ズンジャカ…と、ひたすらギターをかき鳴らし、リズムを重視した乗りの良い音楽で、日本でも人気を集めた。
最盛期は1980年代後半から90年代前半だろう。
「バンボレオ」等、ヒット曲は数多い。
「ジョビ・ジョバ」はFMの深夜番組でテーマ曲のように使われ、「ベン・ベン・マリア(Bem,Bem,Maria)」は、スペイン語の歌詞が違う意味の日本語(「あんたが~た、ほ~れ、見いや~、車ないか~」等)に聴こえて面白いとして、テレビの深夜番組のネタになった。
「ボラーレ(Volare)」はビールのCMソングに、「インスピレーション(Inspiration)」は時代劇のテーマ曲に使われた。
1980年代後半から90年代前半にかけてのバブル経済期の浮かれムードも、人気の背景にあったのではないか。
私の中では、ジプシーキングスの「ジョビ・ジョバ」や「ベン・ベン・マリア」は、カオマの「ランバダ」、バナナラマの「ヴィーナス」、マキシマイザーの「キャント・アンドゥ・ディス」(ジュリアナ東京の音楽と言ったほうがわかりやすいか?)とともに、バブル経済期を象徴する音楽だ。
(以下の記事「ジョビ・ジョバ」で、「ランバダ」「ヴィーナス」「キャント・アンドゥ・ディス」にも言及)
ジプシーキングスは、イーグルス(Eagles)の名曲「ホテル・カリフォルニア(Hotel California)」をカバーしている。
これを聴くと、ジプシーキングスの音楽の特徴がわかりやすいと思う。
メロディーを弾くリードギターと、リズムを奏でるリズムギターの関係にたとえると、リズムギターが前面に出た感じ。
伝統的なフラメンコでは、ギターはメロディーの演奏が主体で、速弾きが見せ場。ラスゲアード奏法やゴルペはアクセント程度にしか使わない。
これに対し、ジプシーキングスは、ラスゲアード奏法やゴルペを多用し、♪ズンジャカ…と、ひたすらギターをかき鳴らす。
ジプシーキングスを「ルンバ・フラメンカの代表的なバンド」と紹介している例もあるけど、フラメンコの一形式であるルンバ・フラメンカとの違いは、聴き比べたら、すぐにわかる。
たとえば、フラメンコギター奏者パコ・デ・ルシア(Paco De Lucia)の曲で、ルンバ・フラメンカの「二筋の川(Entre Dos Aguas)」や「広い河(Rio Ancho)」と聴き比べてみるといい。
全く趣が違うことがわかるはずだ。
(以下の記事「ホテル・カリフォルニア」で、「二筋の川」「広い河」にも言及)
伝統的なフラメンコでは、独特のリズムが最も重視される。
マニタスは、このリズムを逸脱して独自の乗りの良い音楽を作り上げた。
ラスゲアード奏法やゴルペを多用するのが特徴。
ジプシーキングスの源流であることがよくわかるのは、代表曲「ジプシー・ルンバ(Gipsy Rhumba)」だろう。
ラスゲアード奏法による、♪ズンジャカ、ジャカジャッ…というリズムの繰り返しと歌で構成。手拍子や足拍子(サパテアード)も加えている。
踊り出したくなるようなグルーヴ感は、まさに、ジプシーキングスの音楽に通じる。
マニタスとともに活動した従兄弟で歌手のホセ・レイエスは、ジプシーキングスのレイエス兄弟の父だ。
ジプシーキングスの音楽は、フラメンコの一形式ルンバ・フラメンカからマニタスが派生させた音楽をさらにポップにアレンジしたもの。
ルーツをたどれば、フラメンコに行き着くのは間違いない。
フラメンコよりも乗りが良くて親しみやすい音楽を創出して、スターになり、商業的には成功した。
一般的な知名度は、フラメンコ史上最高のギター奏者パコや、その盟友でフラメンコ史上最高の歌手カマロン・デ・ラ・イスラ(Cameron De La Isla)をしのぐ。
それでも、ジプシーキングスは、遠いルーツのフラメンコに憧れ、フラメンコ界のスター2人、パコとカマロンを敬慕し続けたようだ。
カマロンに破格の好待遇でツアー同行を依頼した逸話がその一例(カマロンに断られ、実現しなかった)。
伝統的なフラメンコの形式に沿って、パコへのオマージュだと思われる曲を作っているのも、見逃せない。
ひとつはフラメンコのブレリア形式の曲「モザイク」、もうひとつはフラメンコのタンゴ形式の曲「セイバー・フラメンコ」。
「ジョビ・ジョバ」「バンボレオ」のような、ジプシーキングスらしい楽曲とは、全く趣が違うので、戸惑ったファンもいるかもしれない。
そして、「モザイク」は、パコの曲でブレリア形式の「アルモライマ(Almoraima)」と、「セイバー・フラメンコ」は、同じくパコの曲でタンゴ形式の「ソロ・キエロ・カミナール(Solo Quiero Caminar)」と雰囲気がよく似ているのが、興味深い。
おそらく、あえて似せたのだろう。
「モザイク」「セイバー・フラメンコ」は、遠いルーツのフラメンコへの憧れであり、パコへの敬慕の表れではないかと、私は想像している。
(以下の記事「セイバー・フラメンコ」で、「モザイク」「アルモライマ」「ソロ・キエロ・カミナール」にも言及)
<私的ベスト3枚>
(1)ジプシーキングス「ジプシーキングス」
(2)ジプシーキングス「セイバー・フラメンコ」
(3)ジプシーキングス「ザ・ベスト・オブ・ジプシーキングス」
<ジプシーキングスに興味がある方におすすめのアーティスト>
