カナダの音楽ユニット、デレリアム(Delerium)は、エニグマ(Enigma)やディープ・フォレスト(Deep Forest)のように、宗教音楽や民族音楽とエレクトロビートを組み合わせつつ、ゲストの女性歌手を前面に出して、ポップさも併せ持つ。
グレゴリオ聖歌とエレクトロビートを背景に、ゲスト歌手サラ・マクラクランがゆったりと歌う曲「サイレンス(Silence)」で名を上げた。
この曲は、1997年のアルバム「カルマ(Karma)」に収録。
たしか、日本で車のCMソングに使われたと思うけど、調べてもわからなかったから、私の記憶違いかもしれない。
デレリアムは、クラブ向けのリミックス版を積極的に作るのも特徴。「サイレンス」は、オランダのDJティエスト(Tiesto)によるリミックス版もヒットした。
このデレリアム、初期には、デッド・カン・ダンス(Dead Can Dance)のようなダーク路線だったというのが、面白い。
そして、初期のダークさを隠し味として深みを出しながらも、一般ウケするポップな音楽に進化していったデレリアムの到達点がアルバム「カルマ」だ。
もう少し説明する。
(詳しくはリンク先の各記事へ。随時、追加・更新)
「サイレンス」は、グレゴリオ聖歌とエレクトロビートの組み合わせに、スパニッシュなギターを加えて、哀愁も漂わせる。
この音楽にサラの歌が絡み、サビの「サーーイレンス」という叫びは、心に染みる。
グレゴリオ聖歌とエレクトロビートの組み合わせは、エニグマが先駆者。
エニグマの「プリンシプルズ・オブ・ラスト(Principles of Lust)」と聴き比べてみると面白い。
同じくアルバム「カルマ」収録の曲「トワイライト(Twilight)」は、中東風のメロディーに、アフリカの民族の歌声、女性のあえぎ声が加わる。
エニグマとディープ・フォレストのいいとこ取りをしながら、洗練した感じだ。
歌声の魅力を最大限に押し出した曲は、2006年のアルバム「ヌアージュ・デュ・モンド(Nuages Du Monde)」の収録曲「アンジェリクス(Angelicus)」だろう。
アルメニア系のオペラ歌手イザベル・バイラクダリアンの美声が楽しめる。
歌詞はない。
ほぼ、「アーア、アアアアー」とか「アー」だけ。
たまに「イェーエ、エエエー」を交える。
それだけなのに、引き込まれるのは、やはり、歌声の力だ。
ちなみに、イザベルは、映画「ロード・オブ・ザ・リング 二つの塔」(3部作の第2作)の劇中歌「Evenstar」でも美声を聴かせる。
デレリアムは、1994年のアルバム「セマンティック・スペース(Semantic Spaces)」からゲストの女性歌手を前面に出すようになった。
それ以前の初期デレリアムは、デッド・カン・ダンスを思わせる妖しくてダークな音楽。
中心メンバーのビル・リーブがインダストリアル畑出身なので(スキニー・パピーに一時在籍)、インダストリアル感も漂った。
私はアルバム「カルマ」からデレリアムに入ったから、1990年のアルバム第1弾「シロフェニカン(Syrophenikan)」を聴いた時は、あまりの違いに驚いた。
デッド・カン・ダンスみたいだと思った。
収録曲「エンボディイング(Embodying)」は野生的な太鼓に、地の底から響くような低い声が加わる。デッド・カン・ダンスの曲「フロンティア(Frontier)」みたいな趣だ。
収録曲「シュラウド(Shroud)」は野生的な太鼓に怪鳥の鳴き声、妖しい歌声。これは、まるで、デッド・カン・ダンスの曲「ユルンガ(Yulunga)」。
アルバム「シロフェニカン」を踏まえると、アルバム「カルマ」の聴き方も違ってくる。
初期の妖しさ、ダーク路線が、のちの作品でも隠し味になって、深みを加えていると思えてくるのだ。
特に興味深いのが、アルバム「カルマ」の収録曲「フォーガットン・ワールド(Forgotten Worlds)」。
実は私、デレリアムの曲で、一番好きなのが、これ。
面白いことに、デッド・カン・ダンスのリサ・ジェラルド(Lisa Gerrard)の呪術的な歌をサンプリングして織り込んでいる。
これに、野性的な太鼓や妖しいシンセサイザーを加え、呪術的でダークな雰囲気を醸し出しながら、だんだん、柔らかくて透明感のある曲調に変化する。
デレリアムの歩みと進化を表しているかのようだ。
初期デレリアムへのセルフオマージュの意味合いもあるのだろうか。
リサの歌声を織り込んだことからも、想像が膨らむ。
<私的ベスト3枚>
(1)デレリアム「カルマ」
(2)デレリアム「ヌアージュ・デュ・モンド」
(3)デレリアム「シロフェニカン」
<エニグマとディープフォレスト>
デレリアムに影響を与えたエニグマとディープ・フォレストについて、もう少し書く。
デッド・カン・ダンスについては・・・末尾の「デレリアムに興味がある方におすすめのアーティスト」欄に入れたハブ記事「コクトーツインズ」へ。そこで、デッド・カン・ダンスも紹介してある。
ドイツを拠点とする音楽ユニット、エニグマは、グレゴリオ聖歌や民族音楽と、エレクトロビートを掛け合わせたヒーリングミュージックの先駆けだ。
1990年のアルバム「サッドネス(永遠の謎)」(MCMXC a.D.)が傑作で、収録曲「プリンシプルズ・オブ・ラスト」が圧倒的に素晴らしい。
先行して発表されてヒットしたシングル曲「サッドネス(Sadeness)」を含む組曲となっている。
重低音のドラムのビートに続き、厳かなグレゴリオ聖歌が加わり、シンセサイザーが浮遊感のある音や星が流れるような音を奏でて、神秘的。
女性歌手のサンドラ・クレトゥがささやく声や「ハァハァ…」とあえぐ声も入る。
神聖な宗教音楽とセクシーなあえぎ声を組み合わせ、「聖」と「性」のギャップで背徳的な魅力を生んだ発想が秀逸だ。
1993年の第2作「ザ・クロス・オブ・チェンジズ(The Cross of Changes)」では、民族音楽の歌唱を取り込んで新境地に挑んだ。
収録曲「リターン・トゥ・イノセンス(Return to Innocence)」は、「ヤイヤイ、ハーイヨ、アイアイヤー…」と、エスニック感たっぷりに台湾・アミ族の男性の歌唱が繰り返される。
ディープ・フォレストが1992年に放ったアルバム第1作で、エレクトロニカとアフリカの部族の歌唱を組み合わせているから、エニグマは刺激を受けたに違いない。
フランスの音楽ユニット、ディープ・フォレストは、エニグマと並び、伝統的な音楽とエレクトロビートを掛け合わせたヒーリングミュージックの代表格。
民族音楽の歌唱を前面に出すのが特徴だ。
代表曲「ディープ・フォレスト」(1992年の同名アルバムに収録)は、アフリカの民族の歌声や「ヤヤヒアイアイ…」といった雄たけびを取り入れた。
♪ズンズンズンズン…という重低音のビートと相まって力強さを感じさせる曲。
アフリカのジャングルが目に浮かぶ。
東欧のロマ民族(ジプシー)にも着目して、1995年のアルバム「ボエム(Boheme)」の収録曲「ボヘミアン・バレエ(Bohemian Ballet)」に、その舞曲を取り込んだ。
雰囲気たっぷりの歌と手拍子をビートが盛り上げる。
ディープ・フォレストの曲で、私が一番好きなのは、これ。
このディープ・フォレストの音楽は、ジャズピアノ奏者ハービー・ハンコック(Herbie Hancock)の影響を与えたのではないかと、私は考えている(詳しくは以下の記事へ)。
<おまけリンク>
オランダのDJ、ティエストはトランス・ミュージック路線をひた走っていた初期がいい。2007年のアルバム「エレメンツ・オブ・ライフ(Elements of Life)」は、ティエストのトランスの到達点と言える傑作。収録曲「エブリシング(Everything)」「スイート・シングス(Sweet Things)」がお気に入り。
<デレリアムに興味がある方におすすめのアーティスト>
