ピンクフロイド「狂気」
Pink Floyd 「The Dark Side Of The Moon」
プログレバンド、ピンクフロイドのアルバムで、私が高校年代頃、初めて聴いたのは、当時の最新作だった1987年の「鬱(うつ)」。
リーダー役のベース奏者ロジャー・ウォーターズが脱退し、ギター奏者デビッド・ギルモアを中心に「新生フロイド」として立て直してから初の作品。
不気味な効果音を取り入れながらも、シンセサイザーやサックス、コーラスを交えて織りなす幻想的な音楽が、私の好みに合った。
特にお気に入りの収録曲が「理性喪失」。フロイドの曲で一番好きだ。
その後、1979年の「ザ・ウォール」、1975年の「炎~あなたがここにいてほしい」、1973年の「狂気」という風に、時系列をさかのぼって、過去の名盤を手に取っていったのだけども・・・
アルバム「狂気」の収録曲「タイム」がアルバム「鬱」の「理性喪失」に似ているように感じて、興味深かった。
アルバム「狂気」は5000万枚以上売り上げたというフロイド最大のヒット作。
ただ、アルバム「ザ・ウォール」も3000万枚以上売り上げたというヒット作。
なぜ、アルバム「鬱」から見て時期的に近い「ザ・ウォール」の収録曲ではなくて、「狂気」の収録曲に似ているのだろうか。
「タイム」は、変化に富み、ドラマチックな曲。
風の音で始まり、時計のチクタク音、♪ジリリリリ…というアラーム音、♪キーン、コーン…という柱時計の音が続く。
タイトルそのまんまかい、という感じの演出だけど・・・
これが、時間に追われる感を醸し出して、緊迫感を高める。
♪ポクポクポクポク…という木魚のような音に続いて・・・
55秒あたりから、♪ドゥーーン…ドゥーーン…と、途切れ途切れに不気味な音色をベースが奏で、パーカッションが絡んで、しばらく、聴く者の不安をあおる。
このイントロがいい。
2分30秒あたりから、力強い歌が始まる。
ここであふれる解放感は、イントロの緊迫感があってこそ。
「ウー」「アー」という女性のコーラスも加わる。
3分30秒~4分55秒あたり、ギルモアのギターソロが聴きどころ。
情感たっぷりの泣きのギター。
4分10~25秒あたりの♪キューウゥーン…という音色がせつなくて、いい。
5分あたりから、また、歌。コーラスも絡む。
5分30秒あたり、「ダー、ハアアー」「ウォウ、ウォーオォー」と飛び込む女性歌手のスキャットがいい。
これに対し、「理性喪失」は、ピコピコな電子音と、♪ピッピッピッ…という電子音で始まり、♪ピピピピピ…とアラーム音が入って、緊迫感を醸し出し、幕を開ける。
ここから、♪ファー…と宇宙感のあるシンセサイザーの演奏が展開され、パーカッションが絡んで、幻想的な雰囲気を醸し出す。
そして、力強い歌が始まる。
♪タカタンタカタン…という音色のシンセサイザー、「ハアー」というコーラスが昇天するような感覚を覚えさせる。
「タイム」が振りまく「不安感」が、「理性喪失」では「希望」に変わっているという違いはあるけども、全体的な雰囲気は似ている。
かつてのフロイドの音楽をセルフオマージュしつつ、再出発を高らかに宣言する新生フロイド版「タイム」だと、私は思う。
ギルモア自身の名演を考えると、アルバム「ザ・ウォール」の収録曲「コンフォタブリー・ナム」がオマージュの対象に選ばれてもおかしくない。
「コンフォタブリー・ナム」のギターソロは、インダストリアルロックバンド、ナイン・インチ・ネイルズがオマージュしたほどの名演だ。
それでも、新生フロイドがアルバム「狂気」を選んでオマージュしたのは、「この頃のフロイドが最高だった」というギルモアのメッセージなのだと想像する。
アルバム「ザ・ウォール」の頃にはウォーターズが独裁化し、作品は「壮大な演劇」風のロックになっていた。
アルバム「狂気」の頃のような不気味さ、幻想的な雰囲気は薄まっていた。
結局、それでメンバーの関係がこじれて、ウォーターズが出て行く。
ウォーターズが、新生フロイドを「フロイドの偽物」と批判した話も、何かで読んだ。
ギルモアとしては「自分たちはフロイドだ」と主張する意味もあって、かつての名作に似せた曲をわざと作ったのだろうと、想像が膨らむ。
何だか、アルバム「鬱」の解説みたいになってしまった。
でも、アルバム「狂気」は、アルバム「鬱」と合わせて聴くと、より深く味わえる。
アルバム「狂気」の収録曲をもう少し紹介する。
収録曲で、私が「タイム」の次に好きなのは、「虚空のスキャット」。
美しいピアノと女性歌手のスキャットで聴かせ、ジャズ風味が強い。
しっとりとしたピアノ演奏で始まり、1分7秒あたりから「ウォオ、ウォオ、アーアアー」と、スキャットが入る。
1分38~45秒あたりでは、感極まり、「アーアー!アーアー!アーアー!」と叫びになる。
2分あたりからは、「ワワワ、ワワワ、ワワワ」と変化。
これも、高まって、叫びになっていく。
その後、いったん、沈静化し、また、盛り上がって、沈静化。
3分37秒あたりからの「ウォオ、ウォー、ハアーア、ハーアアアー」というスキャットも聴きどころだ。
収録曲「マネー」は、ウォーターズのベースで聴かせる曲。
♪シャカッ、チーン…というレジスターの音で始まり、♪ボンボボ、ボッボ、ボンボンボン…とベースが繰り返す。
2分すぎからのサックス演奏、3分すぎからのギター演奏を挟んで、ベースのテンポが速くなっていく。
3分48秒あたりからは、♪ボボボン、ボンボボ、ボボボン、ボンボボ…とベースのメロディーが変わる。
ギターを挟んで、5分2秒あたりから、♪ボンボボ、ボッボ、ボンボンボン…とベースが最初のメロディーに戻るという展開。
収録曲「アス・アンド・ゼム」は、催眠性と浮遊感がある。
「アス(アス、アス、アス…と、こだまする)」「アンド・ゼム(ゼム、ゼム、ゼム…)」といった歌も入るけど、オルガンやピアノ、サックスで聴かせ、ジャズ風味が漂う。
特に、叙情的なサックスが印象的だ。
女性のコーラスも入る。
この曲も、アルバム「鬱」の収録曲「末梢神経の凍結」と雰囲気が似ているように、私は感じる。
