オーネット・コールマン「ブロードウェイ・ブルース」
Ornette Coleman「Broadway Blues」
フリージャズの巨人、オーネット・コールマン(サックス奏者)───
「フリー」という言葉からして、なんだか、怖い。
自由奔放、変幻自在な演奏が予想され「難しそう」と、リスナーに威圧感を与える。
心理的なハードルは、ここで高さ1メートルに上がる。
そして、お顔も気難しそうで、なんだか、怖い。
「オレ様の音楽を聴こうとは100年早いぜ」と鼻で笑われているようで、萎縮する。
ハードルは高さ1.5メートルになる。
実は、オーネットの音楽は、怖くない。
パターンに気づくと、途端に、グッと親しみやすくなる。
代表曲のひとつ「ブロードウェイ・ブルース」を例に、紹介する。
オーネットは「サンドイッチ構造」の演奏を得意とする。
メインテーマ▶自由奔放な演奏▶メインテーマ───という構成。
最初のメインテーマは、演芸番組「笑点」で言えば、♪チャッチャカ、チャカチャカ、チャッチャッ…というテーマ曲みたいな役目。
「オーネット劇場、始まるよ~」という呼び込みに相当する。
最後のメインテーマは、オーネットの場合、自由奔放に吹いて満足した後、唐突に無理やりに締めくくる感じだから、ドリフのコントの終わりのBGM、♪タッタッタッ、タッタカタッタ…に似た役目。
「オーネット劇場、また来週~」というお別れに相当する。
この構造が大道芸のような熱気を醸し出す。
そして、オープニングとエンディングには同じメインテーマを使い回す。
ちなみに「使い回し」もオーネットの特徴だ。
(ある曲のメインテーマを別の曲でそのまんま使い回したりする)。
具体的に見ていこう。
1968年のアルバム「ニューヨーク・イズ・ナウ」に収録された「ブロードウェイ・ブルース」は、8分44秒あるけども、冒頭と最後の1分程度がメインテーマ。
間の7分程度が、トリッキーに展開する「自由奔放モード」の区間となっている。
「ブロードウェイ・ブルース」は、♪パーラッパッパラ、パッパラ、パーラッパッパラ、パッパラ…とキャッチーなメインテーマで始まる。
これに続く、♪パッパパラパ、パーパーパラパラッパ…というところの「もっさり感」も、なかなか、味わい深い。
わざと下手くそに、もたもたと吹いているのだろうか。
0分55秒~7分50秒あたりが、自由奔放モード区間。
ここが真骨頂だ。
♪パッパラパラパッパッパ…プァーパパ…プァーパパ…と、ゆったりと構えたと思うと、いきなり、♪パーパラパッパッ、パラッパ…と、元気に走り出す。
また沈静化したかと思うと、2分19秒あたりから、♪プロリロリロリロリロ…プロリロリロリロリロッ!…♪プロリロリロ、プワッワッパー…と変化。
この後、元気→沈静化→元気→沈静化…と繰り返して展開していく。
自由奔放モード区間の聴きどころは、2カ所。
ひとつは、5分18秒あたり、♪ファファファファファファ…と、気の抜けたような音色の「気の抜けブロウ」。
もうひとつは、6分15秒あたり、♪フィロフィー、フガフガフガ…と鼻が詰まったような音色の「鼻詰まりブロウ」。
自由奔放モード区間の終わりは突然、訪れる。
7分50秒あたりから、何事もなかったかのように、メインテーマになる。
同じアルバムの収録曲「ラウンド・トリップ」も、♪パッパラパッ、パーラパッ、パーラッパーラッパーラパ…というメインテーマが冒頭と最後にある構造は同じだ。
聴きどころは、自由奔放モード区間内の3分33秒あたり。
♪プワワワワッ!と、やや控えめながら、痙攣ブロウを放つ。
4分16秒あたりでは、♪プッ、ピッピッ、ピッピッ…と、へっぴりな音色の「へっぴりブロウ」も見せる。
その後は、カオス。
最後にメインテーマで「また来週~」と締めくくる。
このようなオーネットの音楽は、後輩アーティストたちに衝撃を与えた。
「うわっ、何、この曲! このおっさん、すげえ!」と。
そして、「オレがもっとかっこよくアレンジして、おっさん、驚かせたる」と創作意欲を煽ったに違いない。
ギター奏者パット・メセニー、ベース奏者ジャコ・パストリアス、サックス奏者ジョン・ゾーンといった面々が、オーネットへの敬愛を込めて「ブロードウェイ・ブルース」をカバーしている。
パットのカバーは1976年のアルバム「ブライト・サイズ・ライフ」に収めてある。
「ラウンド・トリップ/ブロードウェイ・ブルース」として。
これは、メドレーというか・・・トリッキー。
「パット劇場、始まるよ〜」という呼び込みは「ラウンド・トリップ」のメインテーマ、「パット劇場、また来週〜」というお別れのあいさつには「ブロードウェイ・ブルース」のメインテーマを使っている。
なお、この曲には、パットの盟友ジャコも参加している。
ジャコがカバーした「ブロードウェイ・ブルース」は、ドラム奏者ラシッド・アリとの1984年のライブを収めた「ブラックバード」にある。
冒頭と最後にメインテーマを入れる構成は、原曲と同じだけど、自由奔放モード区間内でも2回、メインテーマを奏でている。
しつこいというか、ファンキーなジャコらしいアレンジだ。
ゾーンがカバーした「ブロードウェイ・ブルース」は、1989年のアルバム「スパイvsスパイ」に収めてある。
♪プァー…プァー…と、のんびりした演奏で、1分8秒あたりまで引っ張り、そこから、おもむろに、メインテーマを高速で奏でる。
この落差が心地よい。
自由奔放モード区間は、けっこう、カオス。
締めくくりはメインテーマ。
サックス奏者デビッド・サンボーンはオーネットの曲「ランブリン」をカバーした。
1992年のアルバム「アップフロント」に収録。
(「ランブリン」の原曲は、オーネットの1960年のアルバム「世紀の転換」にある)。
「ブロードウェイ・ブルース」以上に、もっさり感の強い原曲が、サンボーンの切れ味鋭い演奏で、まるで、別の曲のようにかっこよく仕上がっている。
これは、必聴。
オーネットのもっさり曲をかっこよく磨き上げたカバーという点では、このサンボーンの「ランブリン」が最高だと思う。
オーネットは、のちに、メインテーマをしつこく繰り返す「気ままフレーズのループ」という新境地を開拓した。
私が大好きな名曲「テーマ・フロム・ア・シンフォニー」(1977年のアルバム「ダンシング・イン・ユア・ヘッド」に収録)も、「スリー・ウィッシーズ」(1988年のアルバム「ヴァージン・ビューティー」に収録)も、そうだ。
どちらも、サンドイッチ構造は維持されているのが、興味深い。
