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<記者の仕事あれこれ>街録のコツ 幸せそうな人、複数でいる人に声をかける

 

本日(14日)、「街録(がいろく)」に携わった。

街録とは、大きなニュースがあった時に、市民の声を聞く取材。たいてい、複数の記者で手分けをして、さまざまな人に聞き、記事にまとめる。

 

基本的に、「住所、氏名、職業、年齢」付きの実名コメントでないと載せられないので、けっこう手間のかかる取材だ。

そもそも、取材に応じて話を聞かせてくれる人が、なかなか、いない。

たまにいて、いいことを話してくれても、「ご意見を記事で使わせてもらうかもしれませんが、お名前が出てもいいですか」と名前を尋ねると、「名前はちょっと・・・」と断られるケースが多い。

 

経験上、自分なりに街録のコツを考えていて、後輩に伝えている。

以下の通りだ。

 

<人を探す場所>

まず、人がいるところに行かないといけない。すぐに思いつくのは、人が大勢行き交う駅やショッピングセンターの出入り口だろう(施設内での取材は管理者に嫌がられるため、なるべく避ける)。

ところが、歩いている人は、まず、足を止めてくれない。バス停で待っている人も、まず、断られる。移動中の人はダメだ。

人がとどまっているところ、できれば、くつろいだ状態でいるところがいい。

私は例えば、公園で子どもを遊ばせているお母さんとか、畑で農作業をしているおばあさんとかを探す。商店街の個人商店に入って、店主に当たることもある(客がいない場合に限る)。

 

<人の選び方>

幸せそうな人、楽しそうな人を選ぶ。

人間の心理として、他人を助けてやろうか(取材に協力してやろうか)という気持ちになるのは、自分が満たされた状態の時だ。不機嫌そうな人、暗そうな表情の人には声をかけない。

1人でいる人より、複数でいる人が、いい。

1人でいる時に、見ず知らずの人に話しかけられたら、身構えるのが人間の心理として当然だ。子連れの夫婦、若いカップル、友人グループといった人たちを選ぶ。

相手が複数のケースだと、踏み込んだ切り出し方ができる。

相手が1人だと、「こういうニュースについて市民の声を聞く取材をしているのですが、ご意見を聞かせてもらっていいですか?」という切り出し方になり、相手の答えは「イエス」か「ノー」になる。

相手が複数だと、「こういうニュースについて市民の声を聞く取材をしているのですが、どなたか、お願いできませんか?」という切り出し方になる。

「ノー」と答える余地がないわけではないが、だいたい、相手は、「どうする?」という風に顔を見合わせてから、「じゃあ」という感じで、誰かが応じてくれる。

相手が複数だと、歩いていても、割と足を止めてくれるのも、いい。

 

<話の進め方>

答えやすい、簡単なことから聞く。

少し話してみて、いけそうだなと思ったら、ここで名前出しがOKかどうかを尋ねる。ダメなら、話を切り上げて別の相手を探す。OKで、名前などが聞けたら、ここからは、答えにくい、込み入ったことを尋ねていく。

もちろん、「あ、やっぱり、そうですよね」「私も、そう思います」という風に、相手の意見に賛同して、相手の口が軽くなるようにする工夫は欠かせない。

 

<心構え>

街録は、断られて当たり前だと思って、やっている。

皆さんが忙しいところを、こちらの都合で呼び止めて、時間を割いてもらうわけだから。

ポケットティッシュ配りのように、相手の役に立つ品をプレゼントするわけでもない。一方的に協力してもらうだけだ。

(ポケットティッシュ配りも大変な仕事だと思う。私の妻は、最初の就職先が消費者金融で、毎朝のポケットティッシュ配りがつらくて1週間で辞めたそうだ)。

実際、断られることが多い。だから、数をこなすしかない。

ぞんざいな態度を取られて嫌な気持ちになることもある。慣れるしかない。

そもそも、新聞記者は、メンタルが強い人向きの仕事だと思う(この辺の話は、記者の仕事あれこれ①②を参照)。

 

www.tetch-review.com

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他者への愛情や思いやりに欠け、不安や恐怖を感じにくい「サイコパス」気質というのがあるようだが、何かの調査で「サイコパスが多い職業」の第3位に「報道関係者」と書いてあるのを見て、笑った。そうかもしれないと思った。

 

<応用編>

街録を応用して、ルポ風の記事を書くこともある。

20年くらい前に書いた選挙の記事を例示しておく(人名や地名などは伏せる)。

選挙の告示日に、1人で有権者の声を拾いながら選挙区内を回って書いた。この手の記事は好きで、別の選挙でもやった。

 

※※※以下、記事の例示※※※

 

 Q県議選R郡選挙区は今回から定数が2から1に減った。新人出馬の動きはなく、自民党現職2人の動向が焦点だったが、A県議=2期=が不出馬を決めた結果、無投票に。2期目を目指したB候補の選挙戦は一日で終わった。県面積の2割を占める広い郡内で県議が1人になったことや無投票を有権者はどう感じ、新県議に何を期待しているのか。郡内を歩いた。

 午前9時すぎ。B候補は、県庁から最も遠い地元・X町の駅前で第一声を上げた。

 3候補が2議席を争った前回と違い、今回は郡内3町の町長、町議会議長が顔をそろえる出陣式。ただ無投票が確実とあって、集まった支持者は、初出馬の前回の半数にとどまった。

 演説を聞いた町内の林業男性は、自民現職同士の争いが避けられたのに胸をなで下ろす。県議が1人になったことも「郡内のまとまりが出る」と肯定的。新県議には搬出作業低コスト化など林業振興へ期待を寄せた。

 ただ郡内からは定数減を惜しむ声が聞こえてくる。

 午後0時半。Y町内で建設会社を営む男性は、公共事業を減らした県政に憤っていた。新県議に望むのは、公共事業確保など産業振興による地域活性化。だからこそ定数減は残念でならない。「議会は多数決の世界。代弁者が1人では地域は先細る」。

 同1時半。Y町内の商店で接客に追われていた経営者男性は、町の財政危機と地域活力の衰退を憂えた。「県や県議にお願いして良くなるわけでもない」と県政に期待はなく、選挙も当然、関心がない。あくまで視線は町政に向く。

 同3時。手押し車に買い出した食料品を載せ、Z町内の商店街を歩いていた無職女性は、郡選出県議の定数減を嘆いた。郡内の広さを考えるとやはり2人は必要だと考えるからだ。

 商店も減り、バスの便も減り、そして県議も。「何でも減るばかり。せめて町から候補が出て選挙になっていれば、活気が出るのに」と無投票選挙にもため息をついた。

 無投票当選が決まり、同6時からX町で始まった祝勝会。

 B新県議は「1人だと広い郡内には十分、目が届かない。3町の首長、議会、郡民と連携する」と唯一の郡代表の自覚をにじませた。

 ただ、無投票を問われると「皆さんの信任を得たということ」と口ごもる。身を引いたA県議を気遣ってか、言葉少なだった。

 

(Amazonの商品紹介で挙げたのは、ニコンのプロストラップ。私の勤務先の新聞社はニコンと取引があり、その時にプロストラップをもらうようだ。私も支給されて持っている。他の新聞社も同様だと思う。一般向けに販売されていないストラップなので、ヤフオクなどで高値で転売されていることがある)