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<記者の仕事あれこれ>選挙の出口調査 小さな選挙でも接戦だと私は独自にやる サクサク取るにはコツがある タイミングを変えて何度かやると、情勢の変化がわかる

 

大きな選挙で、報道各社が業者に頼んで行う世論調査や出口調査とは別に、私は、小さな選挙でも独自に出口調査をすることがある。

上司や先輩に言われてやるわけではなく、自分で思いついて勝手にやり始めたこと。

私が知る限り、そんなことを自らやる記者は、あまりいないと思う(私が後輩記者に指示してやらせたことはある)。

 

勝ち負けが見通せない接戦の時、取材の合間に、期日前投票所に行って、やる。

だいたい、投票結果に沿う傾向が出るので、参考になる。

陣営に見せると、喜ばれるので、これはという取材相手(特にお世話になっている方)には見せて、それに見合う情報を代わりに得る。

 

<協力してもらいやすいよう、端的に声をかけるのがミソ>

私の出口調査は、簡易的なやり方だ。

まず、ノートに候補者全員の名前を並べて大きく書いておく。

次のページには、自分のメモ用に、候補者名の下に空欄を作る。

腕章や社員証を身に付けて、期日前投票所の出口付近に待機。期日前投票所にいる選挙管理委員会の職員には、「邪魔にならないようにやりますから」と、一声かけておく。

 

投票を終えて出てきた方に、社員証とノートを見せながら「すいません」と声をかけ、端的に「どれですか」とだけ聞く。

たいていの方が出口調査だと察してくれ、黙って、指さして答えてくれる。

「ご協力ありがとうございます」と、お礼を言って見送る。

ノートのページをめくって、次ページに「正」の字を書いて数を記録する。

1人当たり、1分もかからないと思う。

この方法だと、サクサク取れる。

 

端的に声をかけるのが、私なりの工夫だ。

みなさん、お忙しいわけだから「私、○○新聞社の○○と申します。いま、○○選挙の出口調査をしておりまして、ご協力をお願いできますか」みたいな前置きは一切なし。

そんなことを説明していると、面倒くさいと思われて、相手は去って行く。

 

同業他社の調査員の方は、タブレット端末を示して、いろいろと多くの設問を説明しておられるが、私は、勝ち負けが知りたいだけなので、簡単でいい。

回答者の年代や性別も、私の調査には不要だ。

 

協力してくださる有権者の方で、会話に応じてくださる感じの方には、話しかける。

「(その選択は)なぜですか」とか。

会話に応じてくださった方が「(出口調査の状況は)どう?」と聞いてこられることもある。

ノートのページをチラッとめくって、「正」の字を見せてあげる。

それで「どう思いますか?」と聞いて、さらに会話が弾んだりする。

 

だいたい、1回につき、100人をめどに声を拾う。

状況にもよるが、投票者が次々と訪れる期日前投票所だと、1時間半くらいで100人取れる。

この調査を、序盤と終盤などタイミングを変えて何度かやると、なお、いい。

 

<実例その1・投開票日の記者の配置を考えるのにも役立つ>

独自の出口調査で、特に思い出深いのは、10年くらい前のX市長選だ。

選挙の3カ月くらい前に現職が予想外の引退を表明。

市幹部だった新人A氏、地元の県議だった新人B氏、民間企業出身の新人C氏が名乗りを上げた。

自民党支持層がA氏推しとB氏推しに割れる「保守分裂」の構図。もとの職業の関係で知名度が高いうえに若いC氏が割って入り、激しい三つ巴の争いとなった。

当時、市民の世論を二分していた市政課題への対応も絡み、戦いの様相は複雑化した。

取材する記者としては、とても面白かった。

 

取材に基づく私の情勢分析では、告示前の前哨戦は、いち早く名乗りを上げたB氏がリード。

最も出遅れたA氏が追い上げた。自民党県連の主流派がA氏を担いだためで、特に選挙戦終盤はものすごい勢いだった。

C氏は、細かい政策よりも「若さと行動力」を強調する訴えで支持を広げ、もしかしたら、B氏を上回るのではないかと思わせたほどだ。

 

選挙結果は、A氏が当選。

得票率はA氏36.59%、B氏31.73%、C氏31.68%という接戦だった。

 

この市長選で、私の出口調査は、序盤に100人、終盤に200人を取った。

当時のメモ書きがパソコンに残っていたので、以下に紹介する。

序盤は、A氏36%、B氏44%、C氏20%で、B氏がリード。

終盤は、A氏41%、B氏30%、C氏29%となり、はっきりとA氏がB氏を逆転。C氏はB氏に迫った。

 

私はB氏が勝つと思っていたので、終盤の出口調査でA氏の猛追には私自身、「ホントか」と驚いたのだけども、、、

A氏の名前を指さしていた方々の雰囲気で、ピンときた。

創価学会か、と。

おそらく、様子見をしていた創価学会がここに来て、A氏にかじを切り、学会員に指示が下りたのだろう。

 

A氏陣営への取材でも、逆転の予兆はあった。

終盤に差しかかった頃の個人演説会で、A氏を推す自民党の重鎮県議が「このままでは負ける」と危機感をあおっていた。

重鎮県議は、別室に市議を集めて叱りつけてもいた(別室に私も入ろうとしたけど、「お前は来るな」と追い出された。室外から窓越しに様子を観察した)。

重鎮県議が「B氏は、共産党と結びついている」とネガティブキャンペーンを展開し始めたのも、この頃だ。

 

これらの取材成果と出口調査結果を考慮して、投開票当日の取材配置で、私は、A氏のところに行くことにした。

B氏、C氏の取材は後輩の若手記者に任せた。

 

万歳の様子、敗戦の弁など各候補の表情の取材は、時間的に重なって掛け持ちが難しいので、たいてい、手分けをする。

一般的に、報道各社は、主力の記者を「勝つ候補」のところ、下っ端の記者を「負ける候補」のところに配置する。

逆に言うと、どの記者を配置しているかで、その社が勝ち負けをどう予想しているか、つまり、取材の精度がわかってしまう。

弊社のメンツもかかるので、勝ち負けが見通せない選挙だと、悩むところだ。

 

投開票当日の夕方、A氏の事務所に早めに行くと、既にNHKの主力記者が来ていた。

(潤沢な資金があるNHKは、精密な出口調査をするので、だいたい、候補の万歳の判断は、NHKが「当確」を打った時になる)。

この地域に配置している記者の人数が圧倒的に多く、情報収集力が高い地元紙の主力記者も来た。

地元紙の主力記者に、顔を合わせるなり「さすがですね」と言われた時は、笑顔で平静を装いながらも、内心は「よかった~」と胸をなで下ろしていた。

 

<実例その2・巻き返しのダシに使われる恐れもあるので要注意>

もうひとつ、思い出深いのが、10年近く前のY町長選。

Y町は、選挙のたびに町を二分して激しく戦う「政争の町」だ。

背景には平成の大合併前の旧町の地域対立があり、構図はわかりやすい。

この町長選は、現職のD氏と新人のE氏の一騎打ちで、E氏が競り勝った。

得票率は、E氏52.87%、D氏47.13%という接戦だった。

 

当時、私はデスク。この町長選の取材は、後輩の若手記者が担当していた。

その若手記者に情勢を聞くと、「現職のD氏が勝つと思います」とは答えるものの、根拠が弱かった。

そこで、私は、休みを取ってY町に出向き、期日前投票所で独自の出口調査をすることにした。この若手記者にも手伝ってもらった。

 

地域対立がある町なので、D氏が強いエリア、E氏が強いエリアで、それぞれ調べた。

都市部と比べれば、人口が少ないので、なかなか数がこなせず、2人で取ったサンプルは100人くらいだったと思う。

その結果は、たしか、6対4くらいでD氏だった。

 

私は、いつもの調子で、調査に協力してくださり「(出口調査の状況は)どう?」と聞いてこられる方には、「正」の字を見せてあげていた。

結果としては、これがまずかった。

 

のちに知ったことだが、これが、「○○新聞が、D氏が勝つと言っている」という話にすり替えられて勝手に出回った。

おそらく、E氏の陣営に、巻き返しの材料のひとつとして使われたのだろう。

弊社ごときの出口調査が選挙結果を左右したとは考えられないが、巻き返しのダシに使われたというのは、気分が悪かった。

Y町のような政争の町で、うかつに「正」の字を見せたのは、まずかったと反省した。

 

ちなみに、投開票当日の配置は、D氏のところに若手記者、E氏のところにベテラン記者(私より先輩)とした。

この町長選は、ここまで、この若手記者が1人で担当してきたし、経験を積ませる意味で、「勝つであろう」と予想したD氏のところに配置したわけだ。

実際には、E氏当選となり、D氏のところに行った若手記者は慌てたようだが、E氏のところに行ってもらったのが百戦錬磨のベテラン記者だったので、助かった。

 

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