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記者として取材に携わった相手で、じかに言葉を交わしてはいないけども、立ち居振る舞いから、圧倒的な懐の深さを感じさせた方がおられる。
平成の天皇陛下(現在の上皇さま)だ。
私は、皇族の行幸啓・お成り取材に携わったことが10回くらいある。
お相手は、平成の天皇陛下と皇后さま(現在の上皇后さま)、皇太子さま(現在の天皇陛下)、秋篠宮さまと紀子さま、眞子さま(現在の小室眞子さん)、佳子さま。
それぞれ、その時々の私の赴任地に公務でおいでになり、私が取材を担当した(近くても数メートル離れたところから、様子を見たり、写真を撮ったりするだけだが)。
(今、一番、お目にかかりたい皇族は、愛子さま。ぜひ、取材に携わりたいと思うが、その機会もなく、実現していない)。
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もちろん、一番印象深い方は、平成の天皇陛下。
20年くらい前に、当時の赴任地で、全国豊かな海づくり大会があり、天皇陛下と皇后さまがおいでになった。
私が行幸啓・お成り取材を担当するのは、これが初めて。
何かと無知だった。
記者会見には当然、陛下ご本人が出席されるものだと、勝手に思い込んでいた。
前日夜から、何を聞こうかと、わくわくした。
会見場にいち早く入り、一番前の真ん中の席に陣取った。
会見に出てきたのは、侍従長。
私は、この地域の印象など、陛下の心情に関する質問もかなりしたけど、侍従長は、ご本人のように、すらすらと答えていた。
本当かなあとも思ったけど、想定問答に入っていたのかもしれない。
驚いたのは、大会の開催県に入り、大会開催地までお召し列車で移動される間、1時間以上はあったと思うが、陛下と皇后さまは列車後方に出て、ほぼ立ちっぱなしで、沿線の県民に手を振り続けていたという話。
陛下は当時すでにご高齢。お疲れになったことだろう。
天皇の仕事とは、いかに激務かと感じたものだ。
過去にこの地を訪問された時に早朝、童謡「浜千鳥」の音楽が防災行政無線から流れるのを気に入っておられたとの逸話も興味深かった。
国民に親しまれる皇室を目指した陛下らしい庶民的な感想だと、好感を抱いた。
朝の散歩が日課だと聞いたので、翌日は早朝から、宿泊先の周辺に出かけた。
あわよくば、お会いできないかと期待してのことだ。
陛下は散歩に現れず、うろうろしていた私は、警察官に職務質問される始末だった。
宿泊先を出て、視察先に向かわれるので、見送りの県民が、出発予定の1時間くらい前から100人くらい集まり、見送り用スペースに待機していた。
警察官が配る日の丸の小旗を手に、旗を振る練習を繰り返していた。
やがて、菊のご紋の小旗を付けた黒塗りの御料車が現れ、陛下と皇后さまが乗車。
見送りの県民に手を振って応え、走り去って行かれた。
この間、数分。
1時間くらい待って、これでも、見送りの県民に不満げな様子はなく、むしろ、お姿を生で見て、興奮したという感じだった。
行幸啓・お成り取材は警備の都合上、私たち記者も、皇族がその場においでになる1時間くらい前に集合して撮影位置に待機という感じ。
行幸啓・お成りは、分単位でスケジュールが決まっており、報道対応の窓口となる県職員も、いつになくピリピリしている。
佳子さまのお成り取材の時は、絶対に外せない政治関係の取材と掛け持ちになり、集合時間に30分くらい遅れ、県職員に怒鳴りつけられた。
話を戻す。
海づくり大会の時のある視察先では、沿道に県民が数百人くらい詰めかけていた。
陛下と皇后さまは、数百メートルくらい歩きながら握手に応じられた。
車椅子に乗った高齢の女性には、陛下が膝を折って、目線を近づけ、手を握られた。
女性は、涙を流していた。
見た感じ、大正生まれくらいの方。この世代にとって、天皇とは、そういう存在なのだと思った。
10年くらい前には、当時の赴任地の近隣で、全国植樹祭があり、天皇陛下と皇后さまの行幸啓取材に携わった。
陛下の懐の深さを感じたのは、ある視察先でのこと。
ここでは、陛下と皇后さまが望遠鏡を使って野鳥を観察される。
私たち記者は、その様子を写真撮影できることになっていた。
望遠鏡は、野鳥がいる場所に向けてセットしてあったのだが、記者の撮影位置が真横に設定されており、これだと、望遠鏡をのぞく陛下や皇后さまの横顔しか撮れない。
もう少しお顔が見えたほうがいいので、私たち記者は、冒頭の撮影可能時間だけ、望遠鏡の向きを少しこちらに向けてもらうよう、ダメ元でお願いしてみた。
すると、意外にも、スタッフに融通を利かせてもらえた。
つまり、記者のリクエストで向きが変わった望遠鏡は、のぞきこんでも野鳥がいないところを向いているわけだ。
そして、陛下と皇后さまが登場。
スタッフから説明を受け、望遠鏡をのぞき込んだお二人の第一声が対照的だった。
陛下「あー、いますね」
皇后さま「どこですか?」
おそらく、陛下は、やや不自然な望遠鏡の向きを見て、状況をお察しになったのだろう。
陛下がのぞく望遠鏡の向きを変えさせた私たち記者の神経の太さはすごいものだが、さりげなく受け止めた陛下の懐の深さは、さらに、すごい。
私は、国民の思いを精いっぱい受け止めようとする陛下の心意気を目の当たりにした思いだった。
それから数年。
2019年4月30日の最後のお言葉も、テレビで視聴して、感じ入った。
「支えてくれた国民に、心から感謝します」とのお言葉。
国民に寄り添い、象徴の役目を果たされる姿に、和まされた国民は多いはず。
こちらこそ、頭が下がる思いだった。
平成の皇太子さま(現在の天皇陛下)は、十数年前に、全国献血推進大会出席のため、当時の私の赴任地に来られた。
視察先では、児童が池に入り、水辺の生き物を観察していた。
皇太子さまが来ると、児童は池の中から、深々と頭を下げた。
私は、田んぼの中から殿様に頭を下げる江戸時代の庶民を連想してしまい、複雑な気持ちになった。
皇太子さまも、何か、お感じになるところがあったのだろうか。
すぐさま、児童のそばに歩み寄って、しゃがみ、エビを手に取って、児童に優しく声をかけられた。
膝を折って、車椅子に乗った高齢女性と目線を合わせ、手を握られた平成の天皇陛下の姿と、重なった。

