たとえば、政治家を取り囲んだ記者たちがスマホやボイスレコーダーを突き出して話を聞いている姿を、テレビのニュース等でご覧になったことはないだろうか。
録音は、相手の話を記録する方法として取材現場でごく当たり前に行われる。
そして、昔と比べて比重が増しているようだ。
中央政界の取材現場では、記者が一切、筆記でメモを取らずに録音だけして、録音データ、あるいはアプリで文字起こししたものをデスクなりキャップなりに送るという姿が珍しくないと聞く。
このようなケースでは、おそらく記者は音声を取るまでが任務で、記事は書かない。デスクなりキャップなりが適宜、記事に取り込むのだろうと想像する。
以前は、政治家の会見で、ひたすら、パソコンのキーボードをカチャカチャ言わせ、一切、質問をしない記者を見ることがあった。
この発展形が、録音だけの記者なのだと思う。
このように取材現場で比重が高まっている録音を、私は、めったにしない。
駆け出しの記者の頃に、広告企画の特集紙面で座談会の取材を担当した時に、ちゃんと録音されていなくて、大変な目にあった苦い経験があるからだ。
録音が信用できないというか、苦手意識がとても強いという、まるで、子どもみたいな理由。
駆け出し記者の頃に裁判の取材を担当することが多く、筆記で素早くメモを取るのに慣れたから、というのもある。
<脱線・法廷内は録音禁止>
話がそれるけど・・・
法廷では録音が禁止されているから、筆記でメモを取るしかない。
刑事事件の裁判の場合、特に昔は、検察官も弁護士も早口でまくし立てるから、メモを取るのが大変だった(けど、慣れた)。
殺人等の重大な刑事事件の裁判で、市民参加の裁判員制度が2009年に導入されて以降は、少し楽になった。
裁判員にわかりやすいよう、法廷内のディスプレイに、検察側や弁護側の主張の要点をまとめたメモが表示されるし、検察官も弁護士も早口を控えるようになったからだ。
ちなみに、損害賠償等の民事裁判の法廷でのやり取りは、刑事裁判とは違う。
文書を提出するだけ。
原告側も被告側も「陳述します」と言って、文書を提出したら、そこに書いてある内容を法廷でしゃべったことになる。
だから、法廷で傍聴しているだけだと、何が起きているのか、全くわからない。
どのような主張をするのかを原告側、被告側双方に事前に聞いておいたり、事後に確認したりする取材が必須となる。
刑事裁判の取材より、面倒くさい。
(脱線終わり)
話を元に戻す。
録音が苦手な私は、講演会や街頭演説、記者会見といった案件の取材やインタビューの時でも、筆記のみで対応している。
(このような取材では、録音する記者が普通。私がおかしい)。
メモを取るのは、自分が大事だと思ったところだけ。
メモを取る時点で情報を取捨選択している。
そして、ここは記事に盛り込もうとか、後で詳しく確認しようとか思ったところは、丸で囲んで目印を付ける。
そのほうが記事を書く時にスムーズだ。
ノートはタテに折って持つ。
そのほうが持ちやすいし、ノートに固さが出て、書きやすい。
(手を空ける時は、タテ折りしたノートをズボンの後ろポケットに差す)。
だから、ノート1ページをタテに2分割か、3分割して書くことになる。
クリップボードにノートを挟んでメモを取る記者もいるけど、持ち歩くのに邪魔になるから、私は使わない。

そもそも、話す速度のほうが速いから、全文筆記は無理。
漢字も少なくて、ほぼ、ひらがな、カタカナで筆記している。
略字、略語も使っている。
たとえば、「国」=「口」、「県警」=「県K」、「自衛隊」=「J隊」、「写真」「駐車場」=「P」、「病院」=「hp」とか。
(そのうち「for you」=「4U」とか、やりだしたら、プリンスになってしまいそうだ)。
しかも、殴り書きなので、記憶が新しいその日のうちに処理しないと、自分で書いた字が自分でも読めなくなる。

だから、急ぎでない原稿でも、取材した日のうちに書いてしまうという習慣が、私は身に付いた。
日にちをかけて何人も話を聞いて書くレポート記事や企画記事の場合でも、取材メモはその日のうちに作る。
録音しないことによるデメリットは、いろいろとある。
まず、筆記が不完全で、あいまいなことは書けない。
インタビュー記事のように写真を撮りながら筆記する場合は工夫が必要になる。
たとえば、重要でない話を振って、その時に相手がしゃべっているところの写真を撮り、重要な話の時は筆記に専念するとか。
選挙の演説で、候補が演説のうち、どのような内容にどのくらいの時間を割いたかを分析するような記事を書くような時は、録音していたら、簡単なことだけど・・・
録音しない私は、スマホのストップウォッチで時間を測りながら聴き、適宜、ノートに時間をメモしている。
一番困るのは、相手が話した内容のすべてが必要だと言われた時。
これは、録音しないと、とても、対応できない。
昔と違って、新聞のデジタル版がある今は、デジタル版だと長い記事でも出せるから、全文を求められるケースが出てきた。
私のような記者は、もう、ついて行けなくなると思う。

