(上記のAmazon商品は本文と直接関係ありません)
選挙の投開票のように、締め切りまで時間が少ない時間帯のニュースの記事は「予定稿」を用意して臨む。
予定稿とは、投票率や得票数、当選者のコメント等、その時でないと分からないことを除いて、これまでの取材でわかる範囲を生かして、事前に書いておく原稿のこと。
投票率や得票数、当選者のコメント等を入れて完成となる。
A氏とB氏のどちらも当選する可能性がある時は、A氏当選パターン、B氏当選パターンという風に、複数のパターンの予定稿を用意することになる。
最近取材した首長選を例に、もう少し詳しく説明してみる。
<選挙の構図と情勢>
候補者は、現職A氏、新人B氏、新人C氏の3人。
自民党をはじめ主要な政党がA氏を推すため、当初は、A氏の楽勝とみていた。
ところが、B氏が「ポピュリズム選挙」を展開し、支持を広げ始めた。
ポピュリズム選挙とは、既存の政治や政党を批判して、対立候補は「市民の敵」、自分は「市民の味方」であるかのようなストーリーを示し、減税等、わかりやすくて誰もが喜ぶ政策を掲げ、SNSを活用したりして有権者をあおり、支持を得る手法。
ここでは例示しないけど、具体例を思い浮かべてもらえると思う。
B氏の集会の参集者は、人数こそ少ないけど、熱狂的で、新興宗教みたいな雰囲気。
B氏は「政党や団体の推薦を受けておらず、しがらみがない」「市民と一緒に社会を変える運動」である旨、アピールし、刷新感を醸し出していた。
選挙プランナーというのか、プロっぽい人がうろちょろしていたので、企業か何かスポンサーが付いているのかなと感じた。
(A氏にその旨を伝えたら、「どの企業がB氏のバックにいるのかは知っている」と話し、どの企業なのか、遠回しに教えてくれた)。
ここには書けないけども、ほかにもB氏の言動には違和感を覚える点があった。
投開票日の3日前に、期日前投票所で出口調査をしてみると、投票先は、A氏52%、B氏34%、C氏14%の割合。
たぶん、A氏が勝つだろうけど、B氏はあなどれないと思った。
<予定稿の用意&作業のスケジュール>
投開票日当日に組む記事、つまり投開票日の翌日付の新聞に載る記事は・・・
本記(選挙結果を伝える基本的な記事)、開票結果(各候補の得票数)、当選者の顔写真、当選者の略歴、当選者談話、当選者のサイド(戦いぶりや喜びの様子等)、サイド用の写真(万歳等)、解説。
この選挙は私1人で取材しているので、予定稿は全部私が書く。
当日の取材配置は、支局の3人では手が足りないので応援をもらい、現職A氏のところに私とX記者(カメラ担当)、新人B氏のところにY記者(カメラも兼務)、開票所にZ記者となった。
開票は午後9時開始、午後11時終了見込みというスケジュール。
中間票が午後10時から30分ごとに発表され、終わり次第、確定票が発表される。
一方で、弊紙の早版(締め切りの時間が早い版)は午後10時30分に降版(組み上がった紙面データを印刷工場に送信)。
これは確定票が間に合わない可能性がある。
現場の私としては、本記からサイド、解説まで全部の記事を載せたいし、確定票も入れたい気持ちがある。
午後11時まで、早版の降版時間を繰り下げてもらうよう、デスクを通じて交渉したけども、「最大で午後10時40分まで待つ」というところまでしか譲歩を引き出せなかった(ちなみに、私の赴任地は、弊紙の早版しか届かない地域)。
予定稿については、デスクと相談の結果・・・
本記は「パターン1・開票進む(当落がわからない状態)」「パターン2・A氏当選確実(開票は終わっていない状態)」「パターン3・B氏当選確実」「パターン4・A氏当選(開票は終わった状態)」「パターン5・B氏当選」の5本。
顔写真と略歴はA氏もB氏も既に用意してあるので、OK。
当選者談話は当日聞く。サイド用の万歳写真は当日撮影。
サイド記事は、「パターン1・A氏当選」「パターン2・B氏当選」、さらにB氏当選の場合は、現職の負けなので、現職の負けサイドは必要だということになり、追加で「A氏落選サイド」も含めて3本用意することになった。
解説記事は「パターン1・A氏当選」「パターン2・B氏当選」の2本。
解説以外の予定稿は、投開票日の前日の深夜に出稿。解説の予定稿は投開票当日の昼に書き上げた。
本記の予定稿は、「パターン4・A氏当選」の場合で言うと、A氏が当選したこと、選挙の構図や争点、A氏の勝因が何だったか、A氏が選挙戦で何を訴えたか、B氏やC氏の訴えや敗因を書いてある。
当日有権者数や投票率は当日でないとわからないので、「〓」(ゲタ字)を入れてある。このゲタ字を埋めたら完成する。
サイドの予定稿は、「パターン1・A氏当選」の場合で言うと、A氏のもう少し詳しい勝因、この選挙にA氏が立候補した背景、選挙戦での課題とどう対策を講じたか、当選確実が出た後のA氏のコメントひとこと等を書いてある。
これまでに書いてきたことの繰り返しになりがちなので、私のやり方では、現場感を高めるために、投開票前日夜の様子とコメントも、当日の様子の前の段落に加える。
たとえば「戦いを終えた前日夜、『●●●●●』と違和感を口にしていた」とか、「やり切った充実感を漂わせていた」とか。
サイドは、当確が出た時間、集まった支持者の人数、当選者のコメントひとことを入れたら完成する(予定稿ではゲタ字にしてある)。
解説の予定稿は、簡単に言うと、「こういう状況に助けられて当選したけど、こんな課題が浮き彫りになった」とか「今後こんな課題がある」といったことが書いてある。
A氏の陣営は、大手放送局が打つ当確を踏まえて勝利宣言し、当選報告会(万歳、当選者あいさつ等)を始める予定にしていた。
投開票日の2日前に大手放送局の記者に、私がやった出口調査の結果を伝えて、聞いたところでは、大手放送局のその時点の出口調査の結果も似たようなものだった。
「午後8時すぎの当確を目指しているけど、最終的には投開票日当日の出口調査の結果を見て判断する」と言っていた。
なお、午後8時すぎというと、まだ開票(午後9時から)が始まっていないので、いわゆる「ゼロ当確」(開票率0%の段階での当確)ということだ。
だから、投開票日前日の時点では、早めに当確が出て、余裕を持って、予定稿の手直しができると考えていた。
<投開票日の様子>
そして、投開票日。
午後6時半にA氏の事務所に行き、陣営の幹部に聞くと「大手放送局の当確は午後9時半になりそうだ」とのこと。
まあ、その時間なら、まだ大丈夫だと思った。
事務所にあるテレビを見守っていると、大手放送局が事務所内の様子を中継し、この日の出口調査の結果を報じると、緊張が走った。
A氏とB氏が競り合っているという。
その大手放送局のスタッフが「次の中継は午後10時45分」と話しているのを聞いて、じゃあ、当確は午後10時30分くらいかなと想像した。
かなり厳しい時間帯だ。
一応、デスクにはその旨を伝えた。
デスクは現場の思いをわかってくれているけども、上の方から、「サイドや解説は諦めよう」と言われるのではないかと、心配になってきた。
開票所に行ったZ記者が、仕分けてから数え終えた票の束が積まれる台の様子を見て、状況を連絡してきてくれた(この時点で、まだ中間票は発表されていない)。
まだ、4分の1くらいしか開票されていないけど、A氏の得票がB氏の1・6倍くらいあるという。
これを聞いて、ちょっと、ホッとした。
A氏の陣営にも、開票所にいる立会人(開票の立会人は各候補者の陣営からも出る)から、同様な連絡が届いたのだろう。
陣営幹部が、参集した支持者に報告すると、空気が和らいだ。
午後10時前くらいだったか。
B氏の事務所にいるY記者が、「通信社が大手放送局より早く当確を打とうとしている」との情報をつかんで連絡してきてくれた。
これを聞いて、少しホッとした。
大手放送局の耳にも同様な情報は入るだろうから、通信社に先を越されないよう、早く当確を打とうとするだろうと思った。
午後10時10分ごろ、大手放送局が「A氏が当選確実」と報じた。
事務所とは違う場所に待機していたA氏がやってきて、支持者の拍手で迎えられ、当選報告会がスタート。
デスクからは「サイド、解説も早版に入れるから、万歳の写真とA氏のコメント、ほんのひとことでいいから、早急にくれ」との連絡が来た。
一方で、たぶん、同じ頃、開票所にいるZ記者は、台に積まれるA氏の得票の束が投票数の過半数を超えたのを確認し、デスクに連絡。
弊紙もデジタル版で「A氏が当選確実」と速報を流した。
午後10時20分すぎ、A氏が万歳。
私は、万歳を撮影したX記者に、あとの花束贈呈とかは私が撮るから、早急にバンザイ写真を送信するよう、「早く送れ」と小声で指示。
記者としては、早くA氏本人のあいさつに移ってほしいのに、来賓が2人もあいさつするから、イライラしながら待った。
午後10時30分ごろだったろうか、A氏のあいさつがスタート。
私は半分くらい聞いたところで、A氏のコメントをデスクに「吹き込む」(電話で伝える)ため、事務所の外へ。
X記者には、あいさつの残りと、その直後に始まる報道各社の共同インタビューを聞いておいてもらうよう「あと頼む」と小声で指示した。
開票終了は午後10時30分すぎ(実際の発表は午後10時40分すぎだと思う)。
開票結果は、得票率で言うと、A氏52%、B氏37%、C氏11%だった。
早版には、確定票も、サイド(A氏の当選コメントがひとことだけ加えてゲタ字を埋めてある)、解説も入れてもらえた。
サイドに盛り込む当選コメントとは別に、もう少し長く書く「当選者談話」は間に合わなかったが、ここまで入れば十分(当選者談話は、遅版には入った)。
早版の降版は、午後11時前だったと思う。
待ってもらえて、本当に、ありがたかった。
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