パコ・デ・ルシア「ワン・サマー・ナイト」
Paco De Lucia 「One Summer Night」
フラメンコギター奏者パコ・デ・ルシアの曲で、お気に入りのひとつが「アンダルシアのジプシー」。
良い曲であるのはもちろん、パコの創作の過程や盟友のフラメンコ歌手カマロン・デ・ラ・イスラとの絆がうかがえて、興味深い。
オリジナルは、ほぼギターのみの曲で、1981年のアルバム「カストロ・マリン」に収録。
私が好きなのは、パコが率いるセクステット(六重奏団)の1984年のライブでの演奏だ。ライブ盤「ワン・サマー・ナイト」に収めてある。
セクステットの演奏はフラメンコを基盤にしながらフュージョン色を強めており、これがかっこいい。
ほかにも好演があり、このライブ盤は傑作だ。
セクステットの「アンダルシアのジプシー」は原曲と違い、歌や手拍子が入り、フラメンコ感が高い。
フルート奏者ホルヘ・パルドの叙情的なイントロも雰囲気十分。
♪チャチャチャ、チャラララ、チャラララ…というテーマのメロディーは哀愁を漂わせる。
4分あたりからが聴きどころ。
「ヴィヴィリ、ソンニャー(生きて夢を見ろ)」というサビの歌が熱い。
歌手は、パコの兄ぺぺ・デ・ルシア。手拍子もぺぺ。
創作の過程、カマロンとの絆がうかがえるとは、どういうことか。
カマロンの1984年のアルバム「ヴィヴィレ」の記事で書いた通りだが、あらためて簡単に説明しておく。
カマロンのアルバム「ヴィヴィレ」にはパコが参加しており、タイトル曲では「アンダルシアのジプシー」のテーマのメロディーがギターで奏でられる。
カマロンが歌うサビの歌詞も同じ。さらに手拍子も入る。
おそらく、パコは、歌や手拍子を入れた新バージョンの「アンダルシアのジプシー」を構想し、カマロンとの共演で試したのだ。
そして、フルートなどを加えて洗練させたのが、セクステットの演奏だと思う。
原曲より、遥かにかっこいい。
これと比べれば「ヴィヴィレ」は、やや荒削りな感じだが、何と言っても、カマロンの気合十分な歌がいい。
聴き比べてみてほしい。
ライブ盤「ワン・サマー・ナイト」の収録曲「チキート」は、フルート奏者ホルヘ・パルドと、パーカッション奏者ルベン・ダンタスの好演が聴きどころだ。
イントロの叙情的なフルートは、1981年のライブ・アンダー・ザ・スカイでの演奏曲目「火祭りの踊り」を思わせるドラマチックさ。
2分15秒あたりから、♪タタタ、タララッタッタ…と熱くリズムを刻むパーカッションもいい。
(ライブ・アンダー・ザ・スカイでの「火祭りの踊り」は、1分くらいあるイントロのフルートが短くカットされている動画しか見つけられなかった)
収録曲「パレンケ」は、ベース奏者カルロス・ベナベンテが光る。
フラメンコギターみたいな弾き方をしている。
例えば、1分20秒あたりからの演奏がわかりやすいだろうか。
バックで奏でる残響みたいな音色もいい。ぺぺの歌声を引き立てている。
終盤の7分あたりからのパコ、ホルへとの絡みもいい。
収録曲「ソロ・キエロ・カミナール」は、セクステットの総力結集という感じだ。
2分30秒あたりからのパコとカルロスの絡みがいい。高速ユニゾンもある。
ルベンの力強いカホンも、2人の演奏を盛り立てる。
そして、ホルヘのフルートが加わる。
3分10秒あたりで、ぺぺが参戦。ここで盛り上がる。
パコが凄すぎて陰に隠れてしまいがちだが、セクステットのメンバーは名手ぞろいだ。
あらためて感じさせられる。
ちなみに、パーカッション奏者ルベン・ダンタスとフルート奏者ホルへ・パルドは、カマロンの曲「ヴォランド・ヴォイ」にも参加。ここでは、軽快な演奏を見せている。
あ、忘れかけていた。
セクステットには、もう1人のギター奏者で、パコの兄のラモン・デ・アルヘシラスがいる。ギター奏者だから、完全にパコの陰に隠れているかもしれない。
ラモン、すまん。
余談だが、、、
パコがギターを始めたのは幼い頃。
パコの父がラモンにギターを指導していたのがきっかけだ。
パコは貧しい家庭に生まれ育ち、パコの父は酒場でギターを弾いて稼いでいた。
父は息子にもギターを仕込もうと、年長のラモンに指導していたところ、それを見ていたパコが弾きたがり、やらせてみると、ラモンより上手かった。
父は目の色を変え、パコの指導に熱を入れたという。
ラモンよ、重ねて、すまん。許せ。
