
「みどりの守り神」藤子・F・不二雄
主人公の少女、みどりが乗る旅客機が事故で雪山に墜落。
目覚めたみどりは坂口という青年に「生き残りは自分たち2人だけ」と告げられる。
2人は町を探して山を下ろうとするが、行けども行けども密林が広がっていた───
NHKの「藤子・F・不二雄SF短編ドラマ」シリーズで、ドラマ化されたのを見て、懐かしくなり、読み返した。
「みどりの守り神」は漫画家、藤子・F・不二雄(藤子不二雄)のSF短編作品のひとつ。
タイトルの「みどり」は、植物と、主人公の名前をかけている。
男女2人のサバイバルという視点で見ても、面白い。
坂口は、すぐさま、暴君ぶりを現し、みどりをいたぶる。
足を痛めて、スタスタ歩けないみどりを怒鳴りつけ、食料がないと、「食べ物の準備は女の役目だ」と責めるといった調子。
一方で、「ぼくが助けてやらなきゃ、君なんか」「君には、ぼくしか頼れるものがないんだから」などと言う。


坂口は、後で紹介する短編「宇宙船製造法」の志貴杜みたいなタイプの人間なのだと思う。
「誰かを守っている」「自分がリーダー」と考えることで、自分の気力を保つという。
スタスタ歩けないみどりを置いていかなかったのは、その意味で、坂口には、みどりが必要だったからだ。
世界は、いったい、どうなってしまったのか。
希望を捨てず、坂口のモラハラにも耐えた、みどりは、ついに気力を失い、自ら命を断とうとする。
この深刻な局面でも、男子読者へのサービスカット(女子の入浴シーン)を忘れないのは、さすが、藤子・F・不二雄。

みどりは、いったい、どうなるのか。
世界が一変した謎と合わせて、ぜひ、ご一読を。
この作者の作品には、子どもの頃、どっぷりとはまった。
小学生の頃、大傑作「ドラえもん」を読んで、漫画家に憧れ、パクリ漫画を描いたのは、私だけではないだろう。
のちに、2人組の藤子不二雄は、藤子・F・不二雄と藤子不二雄Aに名義が分かれるのだけど、私が好きなのは断然、藤子・F・不二雄の作品だった。
SF作品のアイデアが面白く、しかも、小学生にもわかるように描くのが、すごい。
「みどりの守り神」を収めたSF短編集で、私が持っているのは「藤子不二雄SF全短篇第2巻 みどりの守り神」。
本書の収録26編の中から、ほかに2編、紹介したい。
短編「宇宙船製造法」
主人公の小山たち少年少女8人組が宇宙旅行中、トラブルに遭う。
地球に似た環境で、宇宙服がなくても外に出られる星に不時着したものの、宇宙船の外壁が壊れてしまった。
エンジンは動くので、飛べるけど、外壁をふさがないと、地球に帰れない。
役に立ちそうな道具は、熱線銃くらい。
「みどりの守り神」と同様に、サバイバルの要素がある。
そして、リーダーの志貴杜が、だんだん、暴君になっていく。
小山は、外壁をふさぐアイデアをいろいろと考えるが、志貴杜は、アイデアにケチをつけ、認めない。

小山が最後に思いついた妙案にも「絶対にうまくいく保証がない」旨、難癖を付ける。
もしかして、ここにずっと、いたいのかと勘ぐりたくなるほどだ。
最後に志貴杜を押し切るのは、多数決。
やっぱり、そうだよね。
私も、仕事の上でも、理不尽な上の方に対抗するには、周囲の世論を味方につけることだと思っている。
だから、上の方の命令に逆らう時は、一対一で話さず、会議の場で言う。
だけど、誰も私に賛同せず、上の方に、ますます嫌われるという結果に、いつもなっている。
「宇宙船製造法」では、女子の1人が勇気を出し、「やらせてあげて!」と、小山をかばって志貴杜に逆らってから、ほかの人たちが小山支持に雪崩を打った。

社内の会議で発言する前に、私を支持するサクラを1人でも仕込んでおかないといけないのかなと思った。
短編「流血鬼」
吸血鬼ものを逆の発想で描いた。
人間を「吸血鬼」に変えてしまう謎の伝染病が流行。
主人公の少年は、仲間とともに吸血鬼から逃げ、吸血鬼を退治しながら、生き延びるが、ついに、1人になってしまう。
隠れ家に訪ねて来た幼なじみの少女(吸血鬼)は「ウイルスによって、より優れた新人類に生まれ変わる」「血を吸うのは、ウイルスを伝える手段。殺したりはしていない」旨、説明。
新人類になるよう、主人公に促す。


私は、この主人公の立場に置かれたら、どうするだろうかと想像した。
もしかしたら、だまされているのかもしれないけど、1人だけで逃げ回るのも嫌だしなあ、と。
私なら、観念して首を差し出す。
痛くしないでね、と。
でも、「流血鬼」の主人公は、誘いに乗らない。
1人で、どうするつもりだったのだろうか。
