「マラドーナ自伝」ディエゴ・アルマンド・マラドーナ著
本人目線の自伝で、子どもの頃から時系列で追って書いてあるので、少しかったるくて、読みにくい面はある。
周辺の人物がたくさん出てきて、分かりにくい面もある。
それでも、マラドーナ本人がどう感じ、何を考えていたか分かるのはいい。
アルゼンチンが優勝した1986年W杯について書かれた章が面白い。はっきり言って、この章から読み始めた方がいい。
特に「神の手ゴール」と「5人抜きゴール」があった準々決勝のイングランド戦。
※※※以下、本文から引用※※※
1986年6月22日、僕が生きている限り絶対に忘れない日だ。イギリス人たちを相手に、激しく競り合い、黒人のバーンズに手を焼いたあの試合さ。そして僕の2ゴール。僕の2ゴールだ。
(中略)
あれは夢に見ていたゴールだった。いつかあんなゴールを決めたいと夢見ていた。そして僕はワールドカップで、母国のためにそれを実現させたんだ。
僕たちは、全ての意味において、イングランドと大一番を戦ったのさ。単なるゲームではなく、他でもないひとつの国を負かすようなものだったからね。試合前にいくら僕たちがサッカーはマルビーナス紛争と関係ないと話したとしても、あそこで大勢のアルゼンチンの青年たちを奴らイギリス人たちが、まるで小鳥を殺すような感じで殺していたことは知っていた。だから、あれは復讐だったんだ。あれは、、、マルビーナスでの何かを取り戻すことだった。事前の取材では、誰もが物事を一緒にしてはならないと言っていたけど、そんなの嘘だ、嘘だよ! 僕たちはそのことばかり考えていたんだ。単なるゲームのわけないじゃないか!
(中略)
もうひとつのゴールも嬉しかった。時折、ハンドでの最初のゴールのほうがいいなと感じることもある。あのとき話せなかったことを、今なら話すことができる。あのときは「神の手」と定義したよね。何が神の手だ! あれはディエゴの手だったんだよ! それに、イギリス人の財布を盗むような感覚もあったな。
※※※引用は以上※※※
この本を読んだら、神の手ゴールと5人抜きゴールの動画が見たくなり、ネットで探した。いくらでもある。
5人抜きゴールは当時、NHKアナウンサーの実況が「マラドーナ、、、マラドーナ、、、マラドーナ!、、、マラドーナ~~~!!」と名前の連呼で、名実況と言われている。たしかに、伝説的な名ゴールにふさわしい感動が素直に表れていて、すごく味がある(以下に動画を引用)。
アルゼンチンのアナウンサーとみられるスペイン語の実況の動画もあった。これも面白かった。
(実況内容は次の通り。動画の邦訳字幕より)
マラドーナがボールを持つ。マークは2人。マラドーナがドリブルに入る。
世界の天才が右サイドから駆け上がる。
ブルチャガとのパス交換か。
マラドーナが行く。
ジーニアス、ジーニアス、ジーニアス、、、行く、行く、行く、、、ゴーーーーーール!!!
ゴーーーーーール!!!
泣かずにはいられない!!!
神よ、サッカー万歳!!!
ゴラッーーーソ!!!
ディエゴーーーール!!!
マラドーナ!!!
泣かずにはいられません。すみません。
マラドーナ!!!
記憶に残るドリブル!!!
史上最高のプレイ!!!
全宇宙的な一瞬の閃光。
どの惑星から来たんだ!?
こんなにも多くのイングランド人を置き去りにするなんて。
そして国がひとつになり、拳を握りしめてアルヘンティーナと叫べるように!!!
(以上)
あと、終盤の章に、マラドーナによるサッカー選手100人の寸評がある。
これが面白い。マラドーナの人生観や好みが分かる。中田英寿の名前もある。
86年W杯の章と100人の寸評、このふたつが読めるだけでも、この本の価値はある。
※※※以下、一部抜粋して引用※※※
◎ペレ
選手としては最高だったけど、サッカーのレベルを向上するためにそれを利用することはできなかった。彼は政治的に考えた。ブラジルの大統領になれると考えたのさ。僕は、1人のサッカー選手が、または元選手が一国の大統領になろうと考える必要はないと思う。彼にも僕みたいに、選手たちの権利を守る協会を統御することを考えてもらいたかった。
◎ヨハン・クライフ
ほんの少ししか見たことがないけど、素晴らしい選手に思えた。フィジカルも判断も他の誰よりも速かったから。いつも有利なポジションを取っていたんだ。カニージアみたいな瞬発力で、一から百にスピードを上げておいて、いきなりブレーキをかけていた。それにピッチ全体を見渡す素晴らしい視野を持っていたよ。
◎ミシェル・プラティニ
格のある、素晴らしい選手だ。イタリアで全てを勝ち取ったけど、彼はサッカーしながら楽しんでいないイメージがいつも僕に残ったよ。すごく冷淡だった。冷淡すぎるほどね。
◎ジーコ
試合の監督だね。ペレが付けていた10番を、何の問題もなく付けたからね。偉大な選手としての品格を持っていた。素晴らしい男であり、ファンタスティックな選手さ。
◎ロマーリオ
偉大な選手だ。彼には多大な尊敬心を抱いているよ。彼ほどの決定力を持ったストライカーを見たことがない。彼がエリアの中で信じられないことをするのを見たよ。速いし、凄いよ。ゴールに向かって突進したら絶対に決めていた。彼については疑問を抱いたことなんかない。僕の理想のチームに入っているよ。
◎ロベルト・バッジョ
イル・ベッロ(美しき者)は偉大だ。完全に才能を開花させたことはなくても。
◎ゲーリー・リネカー
偉大なストライカーだけど、それに値する結果はついてこなかった。
◎ジネディーヌ・ジダン
たぐいまれな洞察力を持っているから、僕は彼を支持したいけど、でも、日に日にプレーする気がなくなっているように見える。プラティニと一緒さ。楽しまないんだよ。プレーする喜びが欠けているんだ。
◎アレッサンドロ・デル・ピエロ
彼はジダンとは違う。プレーするのが好きだし、サッカーを魂に感じているんだ。彼とジダンだったら、僕は彼がいいな。
◎ローター・マテウス
僕のキャリアにおける最高のライバルだ。たぶん、それだけで彼を表現するのは十分だと思う。
◎パオロ・ロッシ
カウンターアタックの芸術家。このイタリア人はやるべきことをよく分かっていたのさ。82年スペイン大会であいつは最高の思いをしたよな。でも、彼もナポリではプレーできないと言っていた奴らのひとりだった。上品すぎたのさ。
◎カール・ハインツ・ルンメニゲ
ドイツ人という言葉の意味は、彼を見れば分かる。殺しでもしない限り、彼には競り勝てなかったよ。
◎中田英寿
日本人全員がこいつのようにプレーし始めたら、僕たちはもうおしまいだよ。キックの仕方も、ドリブルも、よく分かっている。日本人が他のことに従事していてよかったな。
◎デビッド・ベッカム
ピッチに立つには美しすぎる男だ。彼はスパイスガールズの女房を気に掛けすぎるけど、たまにボールを持つと、いいパスをする。マンチェスターでは全てを勝ち取ったけど、代表チームではまだ何かが残されている。
(2022年5月23日Facebook投稿を転載)