「独身者の科学(セックス)」伴田良輔
高校・大学年代ごろ、河出文庫にはまり、その過程で知ったのが、本書だった。
タイトルで「科学」に「セックス」とルビが振ってあるが、エッチな本ではない。
背表紙の内容紹介文には、こう書いてある。
「アロエの葉に割れ目をつくり一晩に六回もそれを行った古代エチオピアの青年を、あなたは笑えますか? 森のキノコ狩りの最中に顔を赤らめたシチリアの少女を笑えますか? 笑えないなら、あなたは『独身者』。妻がいようが、夫がいようが、正真正銘の独身者。独身者のための正しい愛の傾向と対策を納得のいくバリエーションで手引きする学習参考書」
真面目に読んで、真に受けてはいけない。全然、学習参考書ではない。
とにかく、すっとぼけた語り口が好きだ。
些細な素材から話を膨らませていて、博学なうえに、とんでもない想像力の持ち主だ。
筋道を立てて物事を解説してあり、知識が得られるというタイプの本ではない。普通に考えると馬鹿馬鹿しい内容なので、真面目な人には、あまり向かない本かもしれない。
でも、その想像力を楽しめる人には、おすすめだ。
例えて言うなら、バトル漫画の名作「魁!!男塾」(宮下あきら)の作中で、「民明書房刊『○○○』」「太公望書林刊『○○○』」などと明らかに嘘くさい書物を出典だとして書かれる怪しげなコラム(?)を楽しめるような人には、おすすめだ。
<補足説明>「魁!!男塾」では、対戦相手が奇怪な武術を繰り出してきた時に、雷電等の寡黙キャラが「むぅ、あれは…」などと言い、虎丸等のおちゃらけキャラが「知っているのか、雷電?」と食いつき、雷電等が「うむ。あれこそは…」といった調子で知識をひけらかす際に、コラム(?)が登場する。
伴田良輔は、このような手法をさらに発展させ、洗練し、古今東西の写真や絵図などの資料を交えて、高度に展開している。
私は、本書を読んで伴田良輔にはまった。
最後に。本書の内容を要約して伝えるのは困難なので、ごく一部を抜粋したい。
※※※以下、抜粋※※※
<男女の交際と接吻>
独身者男女は次のような目的を持ってキスを行って下さい。
①清い交際をこのまま続けたい
②もう一度文通時代に戻りたいので、これを最後の別れとしたい
③戦争に行くので、せめて一回だけしたい
④ダンスで、丸暗記していたステップを忘れたので、失地回復したい
こうした目的を持たないキスは、ともすれば快楽に走り、キスとは呼べない種類のものになってしまいます。そうしたことを独身者がみだりに行うと、社会的な混乱を招くばかりです。とにかく独身者のキスは何かと目ざわりですから、ひかえ目にすることが大事です。
<結婚と幸福>
男女はさまざまな出会いを経て、最後は結婚という形で結ばれます。これがどうしてもできない人は馬鹿にされますから注意して下さい。中には一生結婚しないと主張する人もいますが、その人は指先などの器用な人です。芸術なども愛します。それも人生です。
(中略)
ただし、いったん結婚してしまうと、それまで場所を選ばずできたオナニーが、トイレ以外ではできなくなりますから、この点だけはしっかり覚悟しておくべきです。
<男性の体>
男性が筋肉にこだわるのは何故でしょうか。それは、いざ交際を始めた時に、筋肉の一つや二つを見せびらかしたいという理由につきます。これは尾長ザルのオスがメスと交際する時に尻尾の長さを見せびらかすという説と似ています。少し違うのは人間のオスは筋肉をつけていくうちにオス同士で交際を始めるケースが少なくないですが、尾長ザルのオスはたいていメスと交際するという点です。
さて、男性の体はスミズミまで鍛えあげることができますが、1カ所だけ、どうにもならないのが局所です。ここは、何も運動をしない怠け者が意外な強度を誇っていたりする不思議なパーツですから、独身女性はくれぐれも注意する必要があります。
※※※抜粋は以上※※※
抜粋してみたが、たぶん、本書の面白さを伝えきれていない。
読んでみてほしいとしか、言いようがない。