「ゼロ・グラビティ」
「Gravity」
(ネタバレあり。見ていない方は、ご注意を)
宇宙で漂流状態に陥ったら、終わりだ。
無重力の空間で、思うように動くことさえ、ままならない。
あまりに広大で、何かにたどり着く可能性はゼロと言っていい。
そして、そのままでは、いずれ、酸素がなくなって死ぬとわかっている。
物語序盤、主人公が一時的に漂流状態になり、パニックに陥って呼吸が乱れ、酸素を浪費してしまう。
漂流の恐怖が、見る者にも、いきなり、伝わってくる。
映画「ゼロ・グラビティ」(2013年、米国)は、宇宙空間でスペースシャトルの外に出て作業中、アクシデントで、スペースシャトルを失った主人公の医療技師ライアン(サンドラ・ブロック)が地球への生還を試みるストーリー。
宇宙滞在は初めてで経験が乏しく、一時は生還を諦めたライアンが、気を取り直して、一か八かの生還作戦に挑む成長の過程が、見どころだ。
ライアンの勇気の源は、一緒に作業をしていた同僚の宇宙飛行士マット(ジョージ・クルーニー)。
このマットの勇気がものすごい。
物語序盤のアクシデントで漂流状態に陥ったライアンを救出し、2人で地球に生還しようと奮闘。
国際宇宙ステーション(ISS)までたどり着いて備え付けの宇宙船ソユーズ(アクシデントでパラシュートが開いていて、地球帰還には使えない)を使い、中国の宇宙ステーションまでたどり着き、そこに備え付けの宇宙船・神舟で地球に帰る───という作戦を立てる。
この段階で、ライアンは「私は、あなたの足手まとい」と話すなど弱気。
ところが、ISSの外に着いたところでトラブル発生。
ライアンはソユーズのパラシュートのワイヤーに足が絡まり、そのライアンがマットのロープをつかんでいる状態になる。
ワイヤーは2人を支えられそうにない。
マットは、ライアンだけでも生き残らせるため「ロープを離せ」と言う。
ライアンは承知しない。
マットは、自分の体とロープをつなぐフックを外す。
登山漫画「神々の山嶺」(原作・夢枕獏、作画・谷口ジロー)を思い出した。
主人公・羽生と弟子の岸がザイルで互いをつないで岩壁(屏風岩)を登攀中、岸が滑落。
羽生が、宙吊りの岸を支える状態になる。
このままでは2人とも危険。
けがをして身動きできない岸は、羽生だけでも生き残らせるために「ザイル、切ってください」と言う。
羽生は承知しない。
しかし、岸が宙吊りで揺れるうちにザイルが岩に当たって擦り切れる。
この出来事は羽生の心に深い傷を残す。

「ゼロ・グラビティ」に話を戻す。
マットは、フックを外して漂流状態になり、もはや絶望。
それでも、通信が届かない距離に離れるまで、ISSに入るエアロックの位置を教えるなど、ライアンを導き、励ます。
2人のやり取りを少し抜粋してみる。
ライアン「ソユーズで助けに行くわ」
マット「ダメだ。もう遠すぎる」
ライアン「必ず行くわ」
マット「諦めることも学べ」
ライアン「・・・・・」
マット「必ず生還する、と言え」
ライアン「・・・・・」
マット「ライアン、言うんだ」
ライアン「必ず生還する」
マット「よし、頑張れよ」
(以上、抜粋)
マット、かっこよすぎる。
なんとか、ISSに入ったライアンは、通信機でマットに呼びかける。
返事はなく、本当に1人になったことを知る。
ソユーズに乗り込んでみると、燃料切れだった。
ライアンは絶望し、生還を諦めて、死を覚悟する。
実は、幼い娘を亡くしており、娘のそばに行けると考える。
その時、ソユーズの窓をたたく音。
ドアを開け、マットが入ってくる。
マットは、着陸時の逆噴射装置を使って飛ぶよう、助言。
そして、ライアンを叱咤する。
セリフを少し抜粋する。
地球に戻るか、ここにいるか。
娘は死んだ。これ以上の悲しみはない。
だが、問題は今、どうするか。
もし、戻るなら、もう逃げるのはよせ。
くよくよせず、旅を楽しめ。
大地を踏み締め、自分の人生を生きろ。
(以上、抜粋)
そして、マットは姿を消す。
幻影だった。
またも、「神々の山嶺」を思い出した。
岸を亡くした後、1人で別の岩壁(グランド・ジョラス)を登攀中に、羽生は滑落して危機に陥る。
生還を諦めかけた時、目の前に幻影の岸が現れる。
羽生は、幻影の岸に語りかけ、気力を取り戻す。
「岸よ。おれも行きたいけどな、そこに行ってやりたいけれどな、まだ、ジョラスを登っている途中なんだ。最後まで、やらせてくれ。やれるだけ、やって、どうしても、行かなければいけない時には、おまえのところに行く」と。
そして、超人的な力を発揮して生還するのだ。

羽生の目の前に現れた幻影の岸は、何だったのだろうか。
きっと、羽生の生存本能が生んだ幻影だったに違いない。
ライアンの目の前に現れた幻影のマットも、同じではないだろうか。
ライアンは、幻影のマットに「もう逃げない。地球に帰る」と誓う。
この後も、いろいろとトラブルに見舞われながら、無事に地球に生還。
最後まで諦めない気持ちが奇跡を起こした。
湖に着水した神舟の着陸艇から出て、陸に泳ぎ着き、立ち上がったライアンが、ひとこと言う。
「ありがとう」と。
マットへの感謝でもあるだろう。
頑張った自分への感謝でもあるだろう。
そして、何より、今、生きて地球にいることへの感謝だろう。

