「宇宙の渚」NHK取材班編著
小学生の頃、ボイジャーだったか、パイオニアだったか、NASAの探査機が土星に接近して、いろんなことがわかったというニュースに刺激され、クラスの皆に知らせようと手書きの「土星新聞」を作ったことがある。
この時に、図鑑を見て、土星が地表のないガス惑星だと知り、ふと、疑問がわいた。
地球とは、地表までなのか、大気を含むのか───
NHKの特別番組を書籍にした本書は「空はどこから宇宙に変わるのか」と、もっとストレートで詩的な問いから始まる。
国際宇宙連盟は便宜上、高度100キロより上を「宇宙」と定めていると紹介。現実には地球と宇宙の間にはっきり境目はなく、だんだん青い空が暗闇になり、空気が薄まり、宇宙に変わっていく領域「宇宙の渚」があると言い表す。
上空35キロまで、巨大な気球にカメラや観測装置を載せて調べてみたというのが、面白い。
本書によると、これは、ジェット旅客機が通常飛ぶ高度13キロの3倍。
13キロ以上の高度になると、空気が非常に薄くなるため、空気の圧力を利用して飛ぶ飛行機では上昇が難しく、高度20キロくらいが限界だという。
高度15キロ辺りから青かった空の色が暗い宇宙の色に変わり、20キロでは闇。
ちなみに、空が青く見えるのは、太陽光が空気の粒子に散乱されて乱反射するためだとか。
本書は、その領域で起こる謎の発光現象「スプライト」やオーロラ、流星について解説。地球と宇宙が密に関係し、影響を及ぼし合うことをひもとく。
特に面白いのは流星の章。
流星は直径数ミリから数センチのちりで、高度80~120キロで燃え尽きる。
そんなに小さいのに、遠い地上から見えるほど強い光を放つのはなぜか。
ミリサイズのちりは秒速60キロの猛スピードで落下し、ぶつかる空気を押して圧縮、空気の分子が数千度の高温で高圧のプラズマ状態になって光るのだという。
地球生命の起源の話にも発展する。
微生物あるいはアミノ酸といった「生命の種」が宇宙から来たとの仮説は知っていたが、流星にくっついていたら燃えるし、もっと大きい隕石も、地表に落ちるまでに相当な高温になるはずで、大丈夫かと思っていた。
本書によると、1ミリ以下の極小サイズのちりもあり、空気の分子と分子の間をすり抜けながら減速し、数週間かけて地表に舞い落ちる。このちりに有機物が含まれていれば、生命の種になった可能性が広がるという。
何とも巧妙な仕組みで、生命の神秘性がより一層、増す思いだ。
一方、地球に降ってきた「生命の種」は、どこでどう生まれたのかという疑問は残る。
子どもの頃に読んだ手塚治虫の名作漫画「火の鳥」シリーズの「未来編」を思い出す。
不死の身となった主人公を除き、すべての生命が死に絶えた未来の地球で、主人公が「炭素と酸素、水素の混ざり物」を海にまくシーンがある。
主人公は「この見知らぬ海岸の片隅で有機物が水に溶けてコロイドになり、そのコロイドがいくつか混ざり合ってコアセルベートというゼリーのようなものになり、それが長い長い年月の間に、次第に原始生命みたいなものになっていくのだ」と説明する。
これは、その当時に考えられていた生命の起源に関する学説に基づく。
原始地球の大気にあったメタンやアンモニアなどから化学反応によってアミノ酸ができ、生命が誕生したという学説だ。
実際に、水、メタン、アンモニア、水素を実験装置内に入れ、冷却したり加熱したりしながら(雷を模して、化学反応のエネルギー源として)放電する実験で、アミノ酸が生成されたという(ユーリー・ミラーの実験)。
子ども向けの図鑑で見て、同じ実験をしたくなり、実験器具を手に入れるために親に頼んで文房具店を回ったことを覚えている(手に入らなかったし、実験はしていない)。
のちの研究で、原始地球の大気には、そんなに多くのメタンやアンモニアがなかったことがわかり、この学説は現在では懐疑的に見られている。
代わりに注目されているのが、「地球の外から生命の種が来た」という学説だ。
生命の種は、どこか別の天体、あるいは宇宙空間で生まれたのか。
例えば、かつての学説のような化学反応で、それに適した環境の天体で生まれたのか。
その天体では、生命は進化したのか。
生命の種は、地球以外の天体にも運ばれ、そこでも独自に生命が進化したのか。
想像がどんどん膨らんで止まらない。