「劇場版ラジエーションハウス」
(ネタバレあり。見ていない方はご注意を)
主人公とヒロインの恋愛ドラマの進展というファン待望のラストに持っていった点を評価したい。
ストーリー展開はグダグダな感じだが、ラストですべて許せる。
ラストのこの期に及んで、主人公が煮え切らないのも、また良し。
ヒロインが告白を通り越して、いきなりキスという展開も、また良し。
「劇場版ラジエーションハウス」(2022年)は、漫画「ラジエーションハウス」(原作・横幕智裕、作画・モリタイシ)の劇場版。
劇場版に先立ち、テレビドラマ化されていて、楽しみに見ていた。
医師顔負けの力量を持つ放射線技師の主人公・五十嵐唯織(窪田正孝)と放射線科医のヒロイン・甘春杏(本田翼)が織りなす恋愛要素ありの医療ドラマ。
なお、劇場版は原作を離れたオリジナルストーリーだという。
劇場版の前提となる背景を少し説明しておく。
唯織は、幼なじみの杏を支えるため、わざわざ医師免許を取りながら、それを隠して、杏のもとで働いている。
原作漫画を読んでいないので、詳しくは知らないけども、杏は、唯織が幼なじみであることを忘れている。
唯織は、杏に惚れている。
杏を上回る力量を持ちながら、わざわざ、サポート役に徹するという変態的な性格から察せられるように、好意を伝えられない。
杏は、相当な天然ボケなのか、一向に唯織の好意に気づかない。
そして、同僚の放射線技師・広瀬裕乃(広瀬アリス)がひそかに唯織に惚れており、三角関係を成して盛り上げる。
漫画「めぞん一刻」(高橋留美子)で言えば、三鷹に相当する主人公の恋敵も一応いるけど(同僚の整形外科医・辻村駿太郎)、存在感は乏しい。
(以上、背景の説明)
劇場版の物語開始時点で、杏は3日後に海外留学出発を控えている。
このため、杏と離れ離れになる唯織は、元気がない。
この3日間で勝負をかけようなどという気概は、微塵も感じられない。
杏は、離島に住む父(医師)が危篤との連絡を受け、駿太郎のバイクに乗って出かける。
空港かどこか、途中まで送ってもらうだけなのだが、この時点で唯織は、事情を知らない。
同僚の放射線技師らに「ありゃ、出発前のお泊まり旅行だよ」と危機感を煽られ、唯織は、さらに、ショボンとなる。
こんなに情けない唯織が、生き生きとし始めるのは、事件が起きてから。
この物語では、ふたつの事件が同時並行で進行する。
ひとつは、交通事故で植物状態となった妊婦とその夫への対処。これは、唯織が対処する。
もうひとつは、杏の父が住む離島で起きた島民の集団体調不良。当初は何らかの感染症かと疑われる。これは、杏が対処する。
ひとつ目の事件は、なくてもよかったような気がしないでもない。
唯織と妊婦の夫のやり取り、唯織と裕乃のやり取りのために入れた事件か?と思った。
唯織は、妊婦はもうダメだけど、せめてお腹の中の赤ちゃんを助けたいと思っている。
妊婦の夫は「妻を見捨てろというのか」と怒る。
これに対し唯織は、けっこう冷たい。
「残された者には、生きる義務がある」と。
妊婦の夫に同情的な裕乃は唯織に問う。
「五十嵐さんなら、どうしますか。大切な人がもう助からないって言われたら?」と。
唯織は、しゃあしゃあと答える。
「想像もできない。少し離れるだけで、どうすればいいか、わからないのに」と。
もちろん、海外留学する杏を思い浮かべてのことだろう。
おまえ、さっき、妊婦の夫に言ったことは何なんだ?と突っ込まれて当然のところだけども、唯織に惚れきっている裕乃は突っ込まない。1人でモヤモヤ。
妊婦の夫を納得させるため、唯織は、植物状態の妊婦とその夫の対話を試みる。
「人間の感覚で最後まで残るのは聴覚」という、妊婦もう手遅れな言い方は、配慮がないなと思うけども、夫は、呼びかけに妊婦の脳が反応したのを見て感動し、あれだけ抵抗していた帝王切開にあっさり納得。
この事件はこれで終了。
ついでに、裕乃は、自信がなかった別件の手術のサポートを無事に成し遂げる。
これは、ラストシーンの伏線。
一方で、離島では・・・
心臓病っぽい患者が出たけど、島には旧型のレントゲン装置しかなく、うまく診断ができず困っていた杏を、唯織ら放射線技師が助言でサポート。
その後、原因不明の感染症?が出て、杏がまた困り、唯織ら島に駆けつける。
結局、汚染物質が島の井戸水に混入したためのカンピロバクター腸炎だと判明。
そして、この事件も終了する。
視聴者が、嵐のような目まぐるしい展開に疲れきっていたところ、ここで、唐突にヤマ場が訪れる。
手術サポートの成功で吹っ切れた裕乃が、いきなり、「私、五十嵐さんが好きです」と単刀直入に告白。
ここで一呼吸置いて、唯織のリアクションを見る手もあったと思うけど、裕乃は立て続けに言う。
「私だって、壁を乗り越えられた。五十嵐さんと甘春先生は離れていても大丈夫だと思う」と。
あんた、どんだけ、お人好しなんだ・・・
唯織には、後段の言葉しか聞こえていなくて、意を決して杏のところへ。
「甘春先生、どうしても伝えておきたいことがあります。僕は・・・」と、口ごもったところで、杏は天然ぶりを発揮。
「いつからか、私は、あなたの背中を追いかけてきた。この島に来て、思った。目の前の人のどんな病気も見つけ出す医者になりたい。私のやり方で世界一の医者を目指したい。そのために、もう少し島に残ります」と。
唯織は、気勢を削がれて、言う。
「それでこそ、僕が憧れ続けた杏ちゃんです。僕、待ってていいですか。帰ってくるまで病院を守りたい。じゃ、お元気で」
貴様、それでも男子か!と視聴者の鉄拳が飛びそうになるところ。
私は、大学時代にはまった恋愛漫画「Bバージン」(山田玲司)を思い出した。
男女の立場は逆だけども、この「大きくなるまで待っててよ」的なパターンに。
「Bバージン」の場合、大きくなるため海外で修行中の主人公を、ヒロインが探し出して再会する場面で終わるのだ。
私がそんなことを考えていた矢先。
何かを悟った杏が「唯織!」と叫んで、駆け寄る。
そして、いきなり、キス。
間髪入れず、エンドロール。
見せつけられた裕乃の心境は・・・
そんな想像も許さない瞬時の返し技。
豪快にバックドロップをかけられそうになったところ、相手の体勢を崩し、地味なスモールパッケージホールドでフォール勝ちするような、姑息極まりない結末だ。
でも、許す。
あっけに取られすぎて、頬が緩んだ。



