ジョン・ゾーン「マサダ・ヨッド」
John Zorn 「Masada Yod」
疾風怒濤のサックス奏者ジョン・ゾーンが、「らしさ」を取り戻した。
1998年のアルバム「マサダ・ヨッド」は、ユダヤ音楽をオーネット・コールマン(サックス奏者)風に料理するという「マサダ」プロジェクトの第10弾。
狂ったような乱れ吹きなど、疾風怒濤の演奏に回帰したのが、うれしい。
マサダは、言い換えれば、ゾーンにとって、ユダヤ系という自らのルーツに目を向け、なおかつ、神のように崇拝するオーネットの流儀を取り入れる究極のプロジェクト。
ゾーンの入れ込みようは相当なものだった。
しかし、これまでのマサダ作品で、その意気込みは空回りしていたと思う。
ゾーンらしさがすっかり薄れていたからだ。
持ち味の疾風怒濤は鳴りをひそめ、ただ中東風味を加えただけのジャズにしか、聴こえなかった。
同じ中東風味のジャズでも、オーネットの曲「スリー・ウィッシーズ」は癖になる。
なぜなら、オーネットの1988年のアルバム「バージン・ビューティー」に収められたこの曲は、中東風味を加えつつ、オーネットの持ち味である「気ままフレーズの繰り返し」がガッチリと堅持されているからだ。
(以下の記事「天真爛漫な音楽を考えてみた」に「スリー・ウィッシーズ」の動画リンクあり)
ついでに言うと、オーネットを敬愛するパット・メセニー(ギター奏者)が、マサダ・プロジェクトに賛同して制作した2013年のアルバム「タップ」は、傑作。
ゾーン作のマサダ楽曲のカバーなのだけども、パットらしいドラマチックな音楽にアレンジしているからだ。
ゾーンが原点回帰を意識したのかどうかは、わからない。
ただ、「マサダ・ヨッド」を聴くと、そう感じる。
疾風怒濤と粋なジャズが目まぐるしく切り替わるコラージュ的な楽曲たち・・・初期の傑作アルバム「ネイキッド・シティ」(1990年)と同じ味わいがあるからだ。
ユダヤ音楽を注入した「ネイキッド・シティ」だと言ってもいい。
オープニング曲「Ruach」は、♪プワワワワワワ…という雄叫びブロウで幕を開ける。
これを聴いて、あー、ゾーンが帰ってきた、と思った。
中東風の粋なメロディーをはさみ、今度は、♪ピィイイイイーッ…という雄叫び。
トランペットと掛け合いながら、♪プピュルルル…といった演奏を展開する。
2分25秒あたりから、掛け合いは熱気を増す。
ドラムソロをはさんで、3分10秒すぎから、また乱れ吹きの掛け合い。
粋な中東風メロディーをはさみ、乱れ吹きでフィニッシュ。
なかなか、スリリングな曲だ。
「Kilayim」は、♪パパパパ、パララ、パララ、パララ…と疾走感あるフレーズで始まる。
40秒あたりで、パタリと曲調が変化。掛け合い漫才みたいになる。
これも、ゾーンの得意とするところだ。
♪パッパッパッパッ…、♪ピィー…ピィー…と若干、間抜けな雰囲気を醸し出す。
ドラムをはさみ、♪プピュルルル…などと展開。
この掛け合い漫才は、2分30秒あたりまで続く。
なお、私は、こういう音楽は好きだけど、一般ウケしそうにない音楽なのも、事実だ。
ご家族ご友人と一緒の時には、かけないほうがいいかもしれない。
「Nasim」は、のっけから、掛け合い漫才。
ゴン太くん(工作番組「できるかな」)の鳴き声のようなゴン太ブロウが冴える。
♪プワワワワワワ…と雄叫びブロウで、掛け合いをいったん締めくくる。
25秒あたりから、♪タンタタンタン、タンタタンタン…という小気味良いドラムに続き、パッパラー、パッパ、パラッパ、パッパパー…と粋なメロディーの繰り返しに変化。
これがなかなかキャッチーで癖になる。
ちょっとだけ、オーネットの「スリー・ウィッシーズ」が思い浮かぶ。
ゾーンは、ついに、オーネットの域に、手をかけたのか。
その後、ゾーンは伸び伸びと吹きまくる。
2分27秒あたりでは、♪クワックワックワックワッ…と、ニワトリの声のような新技コッコブロウまで繰り出す。
この絶妙なニワトリ感は、歌手ジョニ・ミッチェルの怪演に匹敵する。
(ジョニは1977年のアルバム「ドンファンのじゃじゃ馬娘」収録の曲「トーク・トゥ・ミー」でニワトリボイスを披露)。
いやー、ゾーンよ、アンタ、しばらく見ん間に大きゅうなったな、と何だか、うれしくなった。
