いろんな職業の調べ学習だったのだろう。十数年前、職場見学に来た中学生から、記者の仕事について、インタビューを受けたようだ。
当時の質疑応答のメモがパソコンに残っていた。
見ると、だいたい、一般的な答えを返している。
目を引いたのは「相手の話を聞く時に気をつけていることは何か?」という問いへの答え。
「相手の言葉の裏にどんな意味があるのかを読み解くこと。相手の立場や利害関係を考えて想像する」と答えている。
特に政治取材では、大事な心構え。
相手が本音を言わないことが多いし、策略の世界だから。
気をつけないと、私たち記者が策略に利用されることにもなりかねない。
だけど、こんな黒い話をなぜ、子どもにしたのだ?と自分の答えに頬が緩んだ。
聞いた中学生がどう受け止めたかは、わからない。
この答えは、戒めとして、あらためて心に刻んだ。
失敗して反省するところがあったからだ。
ある首長選挙に向けた取材。
現職A氏は引き続き出るのか、出ないのか、進退を明らかにしていない。
一方で、地方議員の新人B氏が名乗りを上げている。
私は過去の経緯やA氏支持層への取材から、A氏が引き続き、出ると思い込んでいた。
ところが、この自治体の元幹部職員の新人C氏が出馬の意向を固めた、と地元紙が報じ、私は後追い取材に走ることになった。
C氏の動向は、ノーマークだった。
A氏は、むしろ、引退という流れになるのではないかとも想像した。
この時になって、私は、関係者のあの時の発言は、この事態を念頭に置いていたのかと思い当たり、読みの甘さを反省した。
過去の経緯など、少し補足説明する。
十数年前、この自治体の当時の首長が突然、今期限りでの引退(次期選挙に出ない)を表明。この自治体の幹部職員だったA氏が、周囲に請われて次期選挙に出馬し、選挙戦に勝った。
A氏は、4年前の前回選の時は、引退に気持ちが傾いていたが、複数の支持団体から公式に続投の要請があり、結局、出馬、当選した経緯があったようだ。
今度の選挙も同じ流れで進むと予想して、その複数の支持団体に当たると、どこも「このたびは公式の続投要請は考えていない」と言う。
理由を問うと、期数を重ねて在任が長くなってきたこと、年齢が高くなってきたとの説明だった。
A氏に続投してほしい気持ちに変わりはないんですよね?と確認すると、最も有力な団体は、その通りだとのこと。
公式でない形で打診していることは、私も知っていた。
私は、現職に多選批判、高齢批判が出た場合に、巻き込まれないように、距離を置くということか、と解釈した。
普通に考えたら、要請をしないというのは、ほかに有力候補が出る可能性を念頭に置いているということ。
私にA氏続投の思い込みがなかったら、すぐに気づいたと思う。
今にして思えば、何カ月か前の関係者の話にも、ヒントはあった。
現職が後継候補を育てているかどうかは進退に関わるので、その視点で情報収集していた時のこと。
ある関係者は「後継者育成みたいなことは全然していないね」とのこと。
別の関係者は「そんな元気のある人材は、外に出してしまった。今、幹部職員はイエスマンばかり」とのこと。
私は、A氏の続投が十分あり得ると解釈した。
「人材が野に下っている」という点に、注目すべきだったのだ。
C氏の出馬意向の後追い取材の時には、頭がリセットできていたから、いろいろと気づいた。
たとえば、新人候補に必ず聞く質問「現職の行政運営をどう評価しているか?」への答え。
「相手は先輩だから、それは控えたい。もちろん、選挙戦で戦う時には、そこは主張する」と、批判を避けた。
これも必須の質問「政党の推薦は受けるのか」への答えは、「わからない」と、ぼかした。
C氏は、A氏が引退すると想定していて、その場合、A氏を支持していた層も取り込むつもりだし、A氏を推していた政党から推薦の話が来るとみていると、私は感じた。
少し前に、B氏の出馬意向を取材した時には、B氏は、「現職のこういうところは良いけど、こういうところはダメだから、私は、こうしたい」との答え。
政党の推薦を受けることは「考えていない」との答えだった。
この時、私は、現職批判票を狙う新人らしい答えだと思った。
「誰が相手になろうと」という言葉も繰り返していた。
ほかに出馬が噂されるD氏らを念頭に置いたものだと思った。
選挙は政治生命をかけた「命がけの戦い」だから、今にして思えば、B氏は、A氏との戦いを念頭に置きつつ、C氏の動向もマークしていたと思う。
仮にC氏が出て、A氏が出なくて、C氏が路線継承者になったとしても、自らの主張は現路線批判で一貫していればいい、というところまで考えていたのかもしれない。
考えすぎかもしれないけど。
これに関しても、私の読みは浅かった。
「偉そうなことを言っておいて」と、あの中学生に笑われてしまいそうだ。
やっぱり、政治の世界は、恐ろしくて、深い。
