
「ヴァッヘンSS」新谷かおる
漫画家・新谷かおるの短編作品「戦場ロマン・シリーズ」の一編「ヴァッヘンSS」が好きだ。
シリーズで一番好きな作品だ。
タイトルになっている「ヴァッヘンSS」とは、第2次世界大戦のドイツの「武装親衛隊」のこと。
国を守る国防軍ではなく、ヒトラーを守るために組織された私兵。
士気が高く、最新の兵器を支給された精鋭部隊だった。
まず、強い。
たとえば、戦車隊指揮官ミハエル・ヴィットマン。
アニメ「機動戦士ガンダム」で言えば、シャア・アズナブルみたいなエース。
「ヴィレル・ボカージュの戦い」では、自ら乗り込む戦車1両で、英軍の戦車部隊に奇襲攻撃をかけ、戦車9両、装甲車等14両を撃破。仲間が応援に駆けつけてからも、さらに4両の戦車を撃破したとされる。
そして、怖い。
そのイメージの代表格は、戦車隊指揮官ヨーヘン・パイパーだろう。
映画「バルジ大作戦」(1965年、米国)に出てくるドイツ軍戦車隊指揮官ヘスラーのモデルとされる。
映画では、ヘスラーは武装親衛隊としては描かれていないけど、どう見てもパイパーをイメージしている。
パイパーの部隊が捕虜の米軍兵を虐殺した事件も、この映画ではヘスラーのしわざとして描かれる。
「武装親衛隊=勇猛果敢で冷酷非情な精鋭部隊」といったイメージが一般的ではないだろうか。
以前の記事「バルジ大作戦」でも書いたように、何しろ、黒ずくめでドクロマークが付く制服が悪役感満点。
ヘスラー役の俳優ロバート・ショウは、黒ずくめでドクロマーク付きの制服こそ着ていないものの、射抜くような目つきにスラリとしてハンサムな風貌も相まって「勇猛果敢で冷酷非情な精鋭」のイメージを存分に醸し出し、好演していた。
私にとっては、「バルジ大作戦」の主演はショウだ。
映画「ジョーズ」(1975年、米国)でサメ退治が得意な小太りのおっさんとして出てきたのには力が抜けたけど・・・射抜くような目つきは健在だった。
新谷かおるの「ヴァッヘンSS」は、悪役に描かれがちな武装親衛隊が「正義のヒーロー」となるのが、面白い。
単行本4巻「暗黒戦士」に収録。
ベッケルら武装親衛隊3人と、サベージら捕虜の米軍兵3人が、山賊に脅されている村を見かねて手を組み、村を守るために山賊と戦う。
映画「七人の侍」みたいな話だ。
ちなみに、この山賊は、各国の脱走兵が戦車等の武器を持ち込んで合流していて、100人くらいいる設定。
6人で戦うにはかなり手強い相手だ。
ベッケルは姉を米軍に、サベージは兄をドイツ軍に殺された過去がある。
だから、物語の冒頭では「戦争やってんだから仕方ないけど、お互いに分かり合えないね」という雰囲気。
「逃げようとしたら殺すぞ」とベッケルがサベージを脅す場面もある。
まずは武装親衛隊の冷酷非情なイメージを印象付ける点が良い。


ところが、補給のために立ち寄った村の苦境を知る。
山賊が村の娘を連れ去ろうとし、それを止めようとした子どもを撃つのを見て、ベッケルもサベージも義憤に駆られる。
ここが一番の見せどころ。
駆け出して、軍用ジープに乗り込もうとするサベージの肩を、追いかけてきたベッケルがつかんで止める。
そして、ひとこと。
「エンジンのキーを忘れてるぜ」。
くぅ〜、かっこいい〜という感じだ。

ダンディズムが大好きという作者ならではの描写。
同じ作者の航空アクション漫画「エリア88」で、主人公の仲間ミッキーと敵方のケンパーの対決シーンを思い出す。
「おまえにはもう何も残っていないのに、なぜ、まだ戦うんだ?」と尋ねられ、ミッキーが「それは男の尊厳だ」とキッパリ回答。直後にミッキーに撃墜されたケンパーは「男の尊厳か。そんなの背負ってると、疲れるぜ」と言い残してガックリとうなだれて死ぬ。
何だか、よくわからないけど、「男の尊厳」という言葉で納得させられてしまう迫力が、この場面にはある。
ベッケルのセリフは、これに匹敵するかっこよさだ。
最終的に、山賊を全員倒すのだけども、サベージだけ残して、ほかの5人は死んでしまう。
サベージは静かに涙を流す。
そして、ベッケルたちの墓の前でサベージが語る。
「ヴァッヘンてのはドイツ語で、守り、って意味らしいな。SS、ってなァ、よくわからんが。特別奉仕(スペシャルサービス)ってことにしておけや。な、ベッケル。守りのための特別奉仕隊だ、いいだろ」と。

冷酷非情なはずなのに、たまたま訪れた村を守るために尽くした武装親衛隊の正義感や侠気をたたえる言葉。
これがいい締めくくりになっている。
なお、「ヴァッヘン」が「守り」という意味だというのは間違い。
「武装親衛隊」のドイツ語は「Waffen Schutzstaffel(ヴァッフェン・シュッツシュタッフェル)」。
細分化すると、意味は次の通り。
Waffen=武装、武器
Schutz=護衛、守り
Staffel=隊
作者が勘違いしたのかもしれないけど、むしろ、わざと間違えたと考えたい。
「守りのための特別奉仕隊」にして、締めくくるために。
そのほうがかっこいい。



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