
戦場ロマン・シリーズ「一角獣の丘」「グルマン定期便」新谷かおる
実験は、子どもの心を弾ませる。
小学5〜6年くらいの頃、近所に住む幼なじみ(同級生男子)が物知りで、「ミイラを作ろう」と言い出した。
幼なじみによると、古代エジプトのミイラの作り方は、遺体の内臓を取り除き、「炭酸ソーダ」に漬け込んで乾燥・防腐処理をしてから包帯を巻いて整えるという。
簡単に手に入る生き物として、そのへんにいた、カマキリを使った。
ここで言う炭酸ソーダが「炭酸ナトリウム」のことだとは知らないから、炭酸飲料だと思い、買ってきた。
内臓を取り除いたカマキリを漬け込む前に、「全部使うのは、もったいない」という話になり、2人で少しずつ飲んだ。
本当にこれで乾燥するのだろうか?と疑問に思いながら、残った炭酸飲料にカマキリを投入したのを覚えている。
この幼なじみと私は、ビンの中に爆竹を入れて爆発させると割れるかどうか、という実験もやった。しかも、学校で。
(おおらかな時代だったので、近所の駄菓子屋で爆竹が買えた)。
クラスのみんなを怖がらせる狙いだったのだけど、バチが当たったのだろう。
この実験の時、私は親指の爪を爆竹に吹き飛ばされ、痛い思いをしたものだ。
このような私が中学校の部活動で科学部を選んだのは、不思議ではない。
以前、記事「鳥取砂丘は不思議な名所」で書いたように、理科準備室に置いてある薬品を使い、黒色火薬やニトログリセリンの製造を試みた。
(黒色火薬は作れた。ニトログリセリンは失敗。もし成功していたら、事故が起きていたと思う)。
ミョウバンや硫酸銅の結晶を作るとか、硝酸銀の水溶液に銅線を入れて銀メッキを施すとか、平和な実験もしたけど、やはり、爆発物が一番、心が躍った。
小学校での爆竹実験にしろ、中学校でのニトログリセリン製造実験にしろ、おおらかな時代だから、笑い話で済んだ。
今なら、管理不行き届きだとして学校が叱られるような問題行動かもしれない。
漫画家・新谷かおるの短編シリーズ「戦場ロマン・シリーズ」には、トランプの皮膜形成剤から爆薬を作る話や、小麦粉で粉塵爆発(炭塵爆発)を起こす話がある。
中学か高校年代の頃に読み、感銘を受けた。
このような豆知識は、けっこう子ども心に刻まれるものだ。
どちらもシリーズ44編中、5編に登場するロッキーとジャックのバディもの。
その1編「一角獣の丘」でトランプを、別の1編「グルマン定期便」では小麦粉を使って列車砲や燃料工場を爆破する。
「一角獣の丘」
コミックス第4巻「暗黒戦士」に収録。
第2次世界大戦のヨーロッパ戦線が舞台となる。
米軍の輸送機パイロット、ロッキーとジャックは、何やら密命を受けた英軍の特殊部隊を運ぶ途中、撃墜される。
ロッキー、ジャックとともに生き残った特殊部隊員のトーマスによると、密命はドイツ軍の列車砲を破壊することだった───というストーリー。

子どもの頃にテレビで見た映画「ナバロンの要塞」(1961年、英米合作)「ナバロンの嵐」(1978年、英米合作)を思い出させる設定。
「ナバロンの要塞」は海峡に据えられ、連合軍の艦隊を阻むドイツ軍の巨大な大砲を、「ナバロンの嵐」はドイツ軍の侵攻を阻むために鉄橋をそれぞれ破壊するストーリー。
「一角獣の丘」で描かれるのは、口径28センチの列車砲。
「レオポルド」と呼ばれる個体がよく知られ、プラモデルにもなっている(私は1/72スケールのハセガワ製品を持っている)。
子どもの頃、ハセガワの製品カタログで見ていたから、「うわっ、レオポルドか」と、わくわくした。
物語では、撃墜されて銃器や爆薬を失った中、ロッキーが、トーマス(途中で戦死)の持っていたトランプのカードを破って水に漬け、浮いてきた皮膜形成剤を集める。
カードの滑りを良くするために塗ってある皮膜形成剤は、ニトロセルロースだという。
「昔、こいつで刑務所の壁を破って脱走した奴がいるんだ」というセリフが、説得力を高めた。

ロッキーは、こうして作った爆薬で列車砲を爆破して、トーマスの仇を取る。
Wikipediaによると、ニトロセルロースは、窒素含有量によって種類があるらしい。
ロッキーのやり方で本当に爆薬が作れるかどうかは、わからない。
「グルマン定期便」
コミックス第7巻「グルマン定期便」に収録。
ロッキーとジャックが輸送機で小麦粉を運ぶ途中、間違って敵のドイツ軍の秘密工場の滑走路に降り、捕まってしまう。
地下にある秘密工場では、何を製造しているのか。
ロッキーがさりげなく、ドイツ兵に尋ねると「重水」だという。
ロッキーは「ミネラルウォーターの一種か?」と気づかないふりをするけど、ジャックと2人になった時に「V2ロケットの液体燃料だ」と言う。
この時点で、何だか、わくわくだ。
この漫画を初めて読んだ当時の私は知らなかったけど、Wikipediaによると、重水とは、質量数の多い同位体の水分子を多く含む水で、原子炉の減速材に使われるという。
V2ロケットは、第2次世界大戦中にドイツが開発した世界初の弾道ミサイル。
(プラモデルにもなっていて、私は1/72スケールのスペシャルホビー製品を持っていたけど、ヤフオクで売った)。
のちに知ったところでは、V2ロケットの燃料はアルコールや液体酸素であり、重水ではない。
まあ、この漫画では、そこは重要ではない。
とにかく、やばいものを作っている秘密工場に来てしまったわけだ。
ロッキーたち2人は死んだふり作戦で牢屋を抜け、ドイツ兵になりすまして逃げる。
さらに、ロッキーは、乗ってきた輸送機から小麦粉を出し、地下の秘密工場の地上にある空気取り入れ口に投入する。

工場内には、小麦粉がもうもうと舞い、非常ベルの火花で、空気中の小麦粉が点火され、工場は爆発するという結末。
なぜ、小麦粉で工場を爆破できたのか、不思議がるジャックに、ロッキーが説く。
「炭塵爆発って、やつだ。空気中に大量の可燃性の塵をばらまいて、発火させるんだ。何だっていいんだ。細かくて燃えるものならな。連鎖反応的に燃え上がって、あっという間に大爆発する。炭鉱じゃ、よくあった事故さ」と。

ロッキー、物知り。
私の幼なじみを思い出した。





