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<記者の仕事あれこれ>地元紙との戦い 私が先に察知しても取材相手が地元紙に連絡して横並び報道になるという嫌な経験が何度もある なぜ、そんなことが起きるのか

(上記のAmazon商品は本文と関係ありません。私の故郷・鳥取市の和紙)

 

私はスクープ狙いのタイプではないけど、いわゆる「抜いた抜かれた」の競争で、もし、同じ条件で競争したら、同業他社の記者には負けないという気持ちがある。

ただし、同じ条件で競争することは、なかなかないので、実際にどうかは、わからない。

 

抜いた抜かれたの競争で、手強いのは、地元紙の記者だ。

何しろ、その地域に配置している記者の人数が多い。

だから、地元紙を見て、「やられた」と悔しい思いをすることが多くなる。

 

人手が足りない分、私は、運動量で差を縮めようと努めてきた。

赴任地で最重要分野を担当していた中堅記者の頃は、特にそうだった。

(ベテランになった近年は、最重要分野は後輩に任せている。そうでないと、組織としての成長がない)。

中堅記者の頃は、同業他社の記者に「神出鬼没で、どこに行っても足跡を残している」と言われるくらい、足で稼いで、情報を拾っていた。

 

それでも、地元紙には、勝てない。

そこには、努力だけでは越えられない壁もある。

 

「地元紙を守ろうとする力」が働くということだ。

 

例えば、ある選挙の「新人出馬意向」の報道。

出ようとしている人がいるとの情報をつかみ、家を訪ねて取材。取材を終えて相手の家を出たのが午後9時ごろだったろうか。

相手には、その時点で、私のほかに、どの記者も来ていないことを確認していた。

「やった、地元紙に勝った」と思い、うれしかった。

ところが、翌日の地元紙を見ると、同様な記事が出ていて、弊紙と横並びだった。

 

どういうことなのか。

取材相手に尋ねると、「あんたが帰った後、地元紙に電話して伝え、取材を受けた」とのことだった。

 

このようなことは、たびたび、ある。

嫌になるくらい、ある。

 

別のある選挙では、私が先に察知して相手に接触すると、「地元紙と一緒だったら、取材に応じる」との返答。

私は、地元紙の担当記者に電話して「・・・というわけなので、今から来てもらえませんか」と呼び出して一緒に取材し、横並び報道になったこともある。

 

もっと、嫌な経験もあった。

ある議員と私はウマが合って親しく、地元紙の記者より私のほうが食い込んでいると思っていた。

ところが、その議員が転身して別の選挙に出るという局面で、優先されたのは地元紙だった。

「今から、地元紙に出向いて伝え、取材を受けるつもりだ。忙しいので、あんたの取材に応じる時間はない。明日以降にしてくれ」と言われた。

 

そして、私が主に活動してきた地域では、自民党は明らかに地元紙優先だ。

自民党県連の事務局長が教えてくれたことがある。

県連幹部が「この話が地元紙に載るといいなあ」みたいな言い方で示唆するので、事務局長が忖度して、地元紙に情報を伝えて書かせるのだという。

 

旧民主党県連には、何度もだまされた。

「まだ明かせない。あんたと地元紙には先に教えるから、少し待ってよ」と言って結局、地元紙に先に書かせるということが何度もあった。

「どういうことですか」と聞くと、「地元紙に強引に迫られ、言わざるを得なかった。あんたには悪かった」と言う。

私は最初にだまされてから「あんたと地元紙には・・・」という言葉を信用しておらず、いつ正直になるかなと思って観察してきたが、変わらなかった。

 

「地元紙を守る力」が、なぜ、働くのか。

 

ヒントになる逸話がある。

私は、ある町役場に足繁く通い、その町の新規施策をよく書いていた時期がある。

そうしたら、ある日、担当課長に「もう、発表前に書くのは、やめてくれ」と言われた。

「なぜですか」と聞くと、「他紙さんが気を悪くするから」との返答。

これで、私は、すべて理解したので、それ以上、聞かなかった。

 

「他紙さん」とは、地元紙のことに違いない。

私が主に活動してきた地域の地元紙は、弊紙など他紙が先に報じたニュースは、後追いしても紙面で小さく扱ったり、後追いせずに無視したりする傾向が顕著だ(もちろん、選挙の出馬動向等、必須ニュースはきちんと対処してくる)。

 

この地域の方々にとってみれば、弊紙のように、この地域であまり読まれていない新聞に載るよりも、誰もが読んでいる地元紙に載ることが重要だ。

だから、地元紙の機嫌を損ねてはまずい、ということになるわけだ。

 

言い換えると、この地元紙は「うちに先に知らせないと、お前のところのニュースは取り上げないぞ」と、地域住民に、しつけをしているということだ。

ついでに言うと、広告を出さないと、竣工記事を書かないという姿勢も徹底している。

営利企業としては、当然あり得る対応だ。

それと比べたら、弊紙は甘い。

役所の方に「おたくの会社は、優しいね」と言われたことがある。

これは、褒められているわけではなく、舐められているのだと思う。

 

地元紙に反感を持ち、地元紙を守ろうとしない方もいるが、ごく少数だ。

例えば、ある選挙の「新人出馬意向」は、弊紙が地元紙より先に報じた。

出馬の意向を固めた新人の方は、かつて別の取材で知り合い、親しくさせてもらっていた。

私に電話してきて「立候補することにした。あんたには知らせておこうと思ってな。地元紙には言わない。先に書けや」と言ってくださった。

とても、ありがたかった。

繰り返しになるが、このようなケースは、まれだ。

 

せっかく頑張ったのに、裏切られるとか、だまされるとかいったことが続くと、さすがに気が滅入る。

人間不信になってもおかしくないだろう。

 

まあ、世の中、そんなもんだ、と思うから、私は相手を恨んだりしない。

 

「この人は、もう、顔を見るのも嫌だ。縁を切ろう」と思うこともあるけども、その気持ちは長続きしない。

次に顔を合わせた時は、普通に笑顔で接している。

これは、私の性格だろう(すぐ忘れる。よく言えば、気持ちの切り替えが早い)。

 

今なお人気の高いF1ドライバー、ジル・ヴィルヌーヴの逸話を思い出す。

ヴィルヌーヴは、フェラーリのエースだった1982年の第4戦サンマリノGPで同僚ドライバーのディディエ・ピローニに不意を突かれてゴール前で抜かれ、優勝を逃した。

第5戦ベルギーGPの予選で無謀な走行をして事故死。

ピローニとの一件で、今度は負けまいと、ムキになったためだとみられている。

 

私の愛読書である伝記「ジル・ヴィルヌーヴ 流れ星の伝説」(ジェラルド・ドナルドソン)によると、サンマリノGP直後、ピローニの裏切りに激怒し「もう、あいつとは口を聞かない」と話していた。

ところが、翌日、顔を合わせたピローニに「やあ」とあいさつされると、「やあ」と返してしまい、「しまった。口を聞かないはずだったのに」と悔やんだそうだ。

ヴィルヌーヴの人柄がうかがえる逸話のひとつであり、興味深い。

(この伝記で知るヴィルヌーヴの人柄や生き様に、私はとても共感を覚える。いつか、この伝記のことも書きたい)。

 

「ジル・ヴィルヌーヴ 流れ星の伝説」
ジル・ヴィルヌ-ヴ: 流れ星の伝説

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取材相手の忖度により、結果として、私に嫌な思いをさせる地元紙の記者に、反感は感じない。

 

地元紙の記者には大きなプレッシャーがあるのが、わかるからだ。

 

例えば、こんなことがあった。

ある選挙の「新人出馬意向」報道は、地元紙の担当記者A氏と私が同着で本人にたどり着き、本人が「もう少し待って」と言うから、本人を含めた3人で「横並びで書く」という緩やかな協定が結ばれていたが、地元紙が先に報じた。

A氏とは、それまであまり接点がなかったので、この件で、私は「A氏は、出し抜くタイプなのか」と思った。

しばらくして、地元紙の記者で、以前からよく知るB氏と話した際に「こんなことがあったよ」と話題にしたら、B氏は「それは、デスクが強引にやらせたことだと思う。Aは、出し抜くようなヤツじゃない」という。

それで、私の気持ちは晴れた。

 

この地元紙の敏腕記者だったC氏のことは、良い思い出だ。

C氏は、陽気で、誠実な方。記者仲間のムードメーカーだった。

切磋琢磨し合う、良いライバルとして付き合えたと思う。

日頃、お互いに情報交換しながら、相手がどこまで知っているかを探り合ったものだ。

同業他社の方々は、こちらから情報を得ていくだけで、何もくれない方が少なくないところ、C氏はギブ・アンド・テークが成り立つ相手だった。

抜いた抜かれたの競争では、横並びもあったけど、私の負けが多かった。

勝ったことはなかったと思う。

私は、C氏に冷や汗をかかせるのが精一杯だった。

 

10年くらい前、私が転勤で去る時、C氏に「転勤されると聞いて、正直言って、ホッとした」と打ち明けられた。

私がC氏にとって脅威だったという意味で、私は、褒め言葉だと受け取った。

さらに「今まで立場上、言えないこともあった。知っていても、知らないふりをしたことがあった。結果として、出し抜いた格好になり、心苦しかった」という。

 

私は、この告白を聞いて、すごく誠実な方だなと思い、新鮮な衝撃だった。

地元紙の主力記者として、上司から、かなりプレッシャーをかけられており、C氏の性格からすると、私をだましているような気持ちになっていたのだとわかった。

こんなに誠実な方がいるから、世の中、捨てたもんじゃない。

そんな気持ちになった。

 

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