「新デビルマン」永井豪
漫画家・永井豪の名作「デビルマン」(漫画版)の外伝的な作品が本書「新デビルマン」だ。本編の「デビルマン」と併せて読むと、面白い。
本編の「デビルマン」は、漫画とテレビアニメが同時並行で展開された作品で、それぞれストーリーが異なる。
私は、まず、幼児の頃にアニメ版を見た。たぶん、再放送だと思う。
アニメ版は、人間を支配するため、デーモンの先鋒として派遣され、人間の不動明の姿を借りたデビルマンが、ヒロインの牧村美樹を愛してしまい、デーモンを裏切り、人間の味方となって、デーモンと戦うストーリー。
毎回、新たなデーモンが攻めてきて、デビルマンが倒すという、子どもにも親しみやすいヒーローものに仕上げられていた。
当時、祖母にせがんで、アニメの明と同じ黄色の服を編んでもらった。
胸のイニシャルはアニメと同じ「A」(明のイニシャル)にしてほしかったのに、祖母が私の名前のイニシャル(Aではない)で作ってしまい、ぐずったことを思い出す。
小学生の頃に書店で立ち読みして読破した漫画版は、親友の飛鳥了に促され、デーモンの侵略から人間を守るため、デーモンの「アモン」と合体してデビルマンとなった不動明がデーモンと戦うストーリー。
デーモンの策略にはまって、相互不信に陥った人間が魔女狩りを始め、ヒロインの牧村美樹が、暴徒と化した市民に惨殺されるという展開に、激しい衝撃を受けたことを覚えている。
当時、親しんでいた「ドラえもん」(藤子・F・不二雄)のような漫画とは違うハードなストーリーで、私にとってはトラウマ漫画となった。
親友の了が実はデーモンを統べるサタンで、記憶を取り戻して、明と敵対する。
最終決戦で主人公である明が死ぬという展開も衝撃だった。
死ぬ場面は描かれておらず、横たわった明に了が話しかけ、涙を流していて、よく見ると、明が死んでいるという描き方は秀逸。
人間ではなくサタンである了は、両性具有者で、明を愛していたという設定も印象深かった。
本書「新デビルマン」は、明と了が力を合わせて、デーモンと戦う短編集(全5話)。
毎回タイムスリップして、その時代に潜むデーモンと戦う。ヒトラー、ジャンヌ・ダルクといった歴史上の人物を絡めながら、ストーリーが展開する。
本編の「デビルマン」では十分に描かれなかった明と了の友情が描かれており、アニメに近いデーモン退治の話なので、本編よりは安心して楽しめる。
収録された短編のひとつ「リトル・ビッグホーンの悪魔」では、了が明に友情以上の思いを寄せる様子が描かれる。
この短編は、カスター将軍が率いる第七騎兵隊がネイティブ・アメリカンのキャンプを襲撃した事件と、リトル・ビッグホーンの戦いをアレンジしている。
親しくしていたネイティブ・アメリカンの娘ティアナたちを第七騎兵隊に殺され、怒ったデビルマンが第七騎兵隊の前に立ちはだかる。
騎兵隊の兵士が「悪魔だ」と驚くのに対し、デビルマンが叫ぶ。
「違う。悪魔はお前たちの心の中にいる」と。
本編でも描かれたメッセージだ。
了が明に寄せる思いを踏まえて短編「美しき軍神サモトラケのニケ」を読むと、興味深い。
デーモン「ニケ」は、明と合体したデーモン「アモン」の恋人だったという設定。
そのことを思い出したアモン(明)がニケに心を惹かれそうになったところで、了が「だまされるな、明! お前は人間、不動明だ!」と叫びながら、ニケの首を切り落として殺す。
これは、嫉妬の感情もあるのかなと想像してしまう。
「新デビルマン」は短編5編の後、明と了の決別が描かれる。
これは本編の最終決戦の前の出来事だろう。
明がケースを開け、中に入っている美樹の首を取り出して抱きしめて涙を流し、そして、埋葬する。
本編で暴徒と化した市民に惨殺された美樹の首を明が大切に持っていたのだなとわかる。
その後、了が現れ、2人は無言のまま、すれ違う。
とても、悲しい結末だ。