「連載終了!」巻来功士
漫画家・巻来功士の名作「メタルK」は、「少年ジャンプ」連載当時(1986年)に読んで、引き込まれた。
江戸川乱歩やエドガー・アラン・ポーの作品のように怪しくてダークで、「ジャンプ」連載作品の中で異色の存在だった。
恋人に裏切られて殺されかけ、サイボーグとして蘇った主人公・冥神慶子の復讐劇というストーリーも、好みだった。
連載初回が秀逸。
語り手の男(慶子を裏切った元恋人)が怪しげな屋敷を訪ね、死んだはずの慶子に再会。
慶子に殺される間際に目に入ったのが、かつて慶子に贈った婚約指輪だったという初回のラストは、怪奇小説みたいだった。
とても好きだったのに、10週で打ち切られ、残念だった。
その後、「ジャンプ」では、ホラー感を漂わせる「ジョジョの奇妙な冒険」(荒木飛呂彦)が始まり、巻来も怪奇な作品「ゴッドサイダー」で復帰。どちらも私好みで楽しみだった。
「ジョジョ」は、古代アステカの生け贄のシーンで始まるという怪奇ムードたっぷりの連載初回で引き込まれた。
第1部は当初、主人公ジョナサンが宿敵ディオにいじめられるという暗い話だったので、「ジャンプ」誌上の後ろのほうが定位置となって、連載打ち切りムードを漂わせた。
こんなに面白い「ジョジョ」も終わるのか、と気を揉んだものだ。
その後、「ジョジョ」は、「波紋」という超能力が登場してバトル要素が強まってから人気が高まり、やがて、長寿の人気作品に成長した。
一方で、「ゴッドサイダー」は、おそらくコアなファンの支持は得たものの、爆発的な人気には至らなかった。
もともと似た作風だと思われる巻来と荒木の歩みの違いは何なのか。
背景には、何があったのか。
そんな疑問を解くヒントが、巻来の自伝的な漫画「連載終了!」にある。
簡単に言うと、漫画家にとって、相性の良い編集者との出会いの大切さが描かれる。
漫画家が独りよがりにならずに、編集者のアドバイスを受けて、違った視点から作品を客観視して、より良く磨くプロセスの大切さも描かれる。
「メタルK」の短期打ち切りは、当初からジャンプ編集部の方針だったというのは不可解だし、残念だ。途中から人気が急上昇して判断に悩んだという。
当時、「ジャンプ」編集者で、巻来とも関わった堀江信彦と、巻来の対談「漫画家と編集者の理想的な関係とは」が巻末に収録され、これを読むと、さらによくわかる。
この対談で堀江が指摘しているけども、巻来も荒木もストーリーを編むのが得意な漫画家。荒木は、キャラクターの弱さに気づいて改めたという。
このことは、荒木の著書「荒木飛呂彦の漫画術」には、書かれていないが、やっぱり、そうかと感じた。
巻来作品は、たしかに、キャラクターが弱いかもしれない。でも、女性キャラクターは絵柄を含め、とても魅力的だ。
「ゴッドサイダー」に出てくる「殷(いん)の四騎士」の1人、鶚(きょう)が特に好き。クールで強い美女で、たまに見せる、うろたえる姿が可愛い。
荒木作品は、「ジョジョ」第3部の主人公・承太郎をはじめ、男性キャラクターは魅力的だけど、女性で、これはというキャラクターは、ちょっと、思い当たらない。
あえて言えば、「ゴージャス★アイリン」の主人公アイリンか。
終始クールで、感情表現が乏しいので、少し物足りない。寂しげな表情を見せるところは良かった。
本書「連載終了!」を読んで、巻来の人柄がよくわかり、好感を抱いた。
編集者の意見はなるべく最小限にとどめ、自分の思い通りに描きたいという考え方の漫画家で、担当編集者の交代を求めるなど「タブー」も犯したのだけども、この姿勢を貫いた点がすごい。
そして、そんな若い頃の姿を現在、振り返って「それがどういうことなのか、今になって、わかるとは…」などと客観視しているところが、さらにいい。
巻来功士の人柄がわかり、作品がますます好きになった。