てっちレビュー

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アニメ「チ。─地球の運動について─」 「あなたがヨレンタさんの計画を引き継ぐなら、私はヨレンタさんの思いを引き継ぐ」は名セリフ 禁じられても、迫害されても、真理を知りたいという人間の探究心は止められない

「チ。─地球の運動について─」魚豊

漫画家・魚豊の「チ。─地球の運動について─」は、作品世界の教義に反する「地動説」に惹かれ、命懸けで探究する研究者たちの生きざまを描く架空の物語。

原作の漫画は読んでいないが、アニメ化されたのを見て、感動した(全25話)。

映画ではないが、「映画」カテゴリーで書いておく。

 

この物語では、地球が宇宙の中心にあり、太陽や月、惑星がまわりを回っているという天動説が絶対視される世界で、地球が太陽のまわりを回っているという地動説は危険な思想として迫害される。

4章で構成され、主人公が迫害されて死に、次の章の主人公が研究を引き継ぐという展開が面白い。

主人公が交代するというのは、漫画家・荒木飛呂彦の名作「ジョジョの奇妙な冒険」みたいだ。

 

 

「ジョジョ」と違うのは、各章の主人公同士に血縁関係はないこと。

前の章から時が経過しており、面識もない。

禁じられても、迫害されても、宇宙の真理を知りたいという人間の探究心は止められず、研究を引き継ぐ者が現れるというメッセージが、いい。

「ジョジョ」のテーマと同様に、「人間讃歌」だと思う。

 


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現実のこの世の中では、地動説に対し、この物語ほど激烈な迫害(拷問、死刑)はなかったらしい。

でも、激しい迫害を設定することで、人間の探究心というメッセージが強烈に打ち出される。この工夫が秀逸だ。

 

最初は、そのような予備知識なしに見たので、第1章で主人公の天才少年ラファウが火あぶりの刑に処されて死ぬという展開に驚いた。

 

 

第2章の主人公は、エンドロールからすると、オクジーのようだが、その協力者の天才少女ヨレンタに感情移入した。

代闘士オクジーは、ひょんなことから、ラファウが残した研究の記録文書を見つける。

天才的な頭脳を持つ修道士バデーニに探究を委ね、自らは、探究の過程を記録し、文書として残す。

 

 

オクジーもバデーニも迫害され、絞首刑で命を絶たれるのだが、ヨレンタだけは何とか助かってくれと思いながら見た。

ヨレンタが拷問を受け、殺されそうになりながらも逃げ出して助かる展開には、本当にホッとした。

 

あと、オクジーのキャラクターは何となく、SFアニメ映画の名作「オネアミスの翼」(1987年、ガイナックス)の主人公シロツグにダブった。

けっこう、いい味を出していた。

 


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第3章の主人公は、「移動民族」(いわゆるジプシーか?)の少女で、商才に長けたドゥラカ。ひょんなことから、オクジーが残した記録文書を見つける。

ドゥラカの場合は、地動説の探究そのものではなく、オクジーの文書の出版を目指すというのも、面白い。

 


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生き延びたヨレンタが、オクジーの文書の出版を目指す組織のリーダーになっており、そこにドゥラカが関わる格好だ。

残念ながら、ヨレンタは、出版計画を守るために壮絶な死を遂げる。

 

ヨレンタの計画の遂行を目指す組織のメンバーに、ドゥラカが放つセリフがいい。

「あなたが行き着く先には、ヨレンタさんの目的はあっても、記憶はない」「あなたがヨレンタさんの計画を引き継ぐなら、私はヨレンタさんの思いを引き継ぐ」と。

地動説そのものというより、その探究に命を賭けた者の生きざまを重んじるセリフ。これが、いい。

 

出版する書籍の表紙には、ドゥラカの提案で、ヨレンタの名前が記される。

「オクジーが著者じゃないの?」という気がしないでもないが、ドゥラカが直に接して、思いを知る人物はヨレンタだから、これでいいのだ。

 

最終的に、ドゥラカは殺されるのだが、書籍は出版されることを匂わせて、第3章は幕を閉じる。この結末もいい。

 

第1〜3章を通じて登場するのが、研究者を探し出し、処刑する異端審問官ノヴァク。

ヨレンタの父であり、愛する娘をも追い込むことになる悲劇的な面も描かれるが、ノヴァクは最後まで好きになれなかった。

この世界の宗教の指導者に、地動説をそこまで迫害する必要はなかった、これまでノヴァクがやってきたことはやりすぎだったと告げられ、愕然とするところは、よかった。

しかし、この指導者やドゥラカを殺して、誤魔化そうとする往生際の悪さがダメだ。

 

 

漫画家・手塚治虫の名作「きりひと讃歌」を思い出した。

「きりひと讃歌」は、ある奇病の謎を探る物語。

主人公が中毒説に着目し、結果としては正しかったのだが、権威的な大学教授が伝染病との見立てに固執し、主人公ら周囲を不幸にする。

最後に自らもその奇病にかかっても自説の誤りを認めない往生際の悪さを見せていた。

 

 

「チ。─地球の運動について─」の最終章(第4章)は、現実世界のパラレルワールドとも言える第1〜3章と、現実世界をつなぐ役割を果たす。

あってもいいけど、なくてもよかったかも、と感じた。

第3章の最後に、現実世界のコペルニクスとかを簡単に説明するナレーションなり、説明文を流すなりして、それで終わりでもよかったのではないかと思う。

 

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