ジャコ・パストリアス、ブライアン・メルビン「ナイト・フード」
Jaco Pastorius , Brian Melvin 「Night Food」
人気ジャズベース奏者ジャコ・パストリアスが晩年に参加した作品のひとつに1985年のアルバム「ナイト・フード」がある。
1987年に35歳で亡くなるジャコは、全盛期の輝きを失い、もがいていた。
若手ドラム奏者ブライアン・メルビンが、憧れのジャコにゲスト参加を打診して生まれたアルバムが「ナイト・フード」。
本来はメルビン名義のアルバムであるはずだが、初期にはネームバリューの高いジャコの名義で発売された。
私が大学時代に買ったのもそれ。魚の電飾のジャケットのものだ。
演奏内容に、ファンの評価は分かれるようだが、私は、けっこう好き。
オープニングを飾る「エイント・ナッシング・バット・ア・パーティ」は軽快な曲で、わくわく感をそそる。
ジャコの元気に跳ね回るような演奏がいい。
シンセサイザーが入り、フュージョン色の強い曲で、終盤は女性のボーカルも加わる。
2分足らずと短く、もう少し聴きたいなくらいのところで、サラッと終わるあっさり感も、いい。
ジャコとメルビンの掛け合いだけというシンプルな曲「フォー・マックス」が、このアルバムの聴きどころ。
メルビンが往年の名ドラム奏者マックス・ローチに捧げた曲だ。
子どもの頃、ドラムをたたいていたジャコにとっても、ローチは憧れの存在。
そのせいか、気合いが入っており、ジャコらしい速弾きが聴ける。
メルビンは、♪チンチンチンチン…とか、ズダダダズダダダ…とか、ローチばりの演奏(?)で、盛り立てる。終盤のソロもいい。
この曲も、もう少し聴きたいなというくらいの感じで終わる。
収録曲の大半はメルビンの作品だが、ジャコの名曲「コンティニューム」もある。
前半3分くらいは即興演奏。これがなかなか、しんみりと聴かせる。
その後は、おなじみのメロディー。
ここで、メルビンは、♪チンチンチンチン…とリズムを刻んで引き立てる。
ジャコの演奏には覇気がないが、収録曲「ポーリー・ワナ・リズム」は、ロックっぽい曲調が好きだ。サックスがかっこいい。
ジャコはバックで微妙にベースを奏でている。
ジャコは彗星のように現れてスターに上り詰めた後、酒やドラッグ、女性関係で生活が荒れ、破滅の道を進んでいった。
演奏も荒れた。
そんな晩年でも、ドラム奏者ラシッド・アリとの共演や、ギター奏者ビレリ・ラグレーンとの共演では、きらめきを見せた。
かつての輝きは取り戻せそうになかったとはいえ、才能あふれる音楽家だったことは間違いない。
メルビンは、無名の自分のアルバムにジャコが参加してくれて、感激したらしい。
ライブを台無しにされたりとか、ひどい目にも遭わされるのだけど、ジャコに好意を寄せ続け、晩年のジャコの生活を支援してもいる。
「ナイト・フード」は、収録曲「ドント・フォーゲット・ザ・ベース」のズバリなタイトルからして、再起を願うメルビンの思いを感じて、うれしくなる。