てっちレビュー

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「ファースト・マン」 探査そのものが目的ではない 宇宙を通して人間を見つめ直すことに意義があるというニール・アームストロングの考え方が素晴らしい

ファースト・マン (字幕版)

ファースト・マン (字幕版)

  • ライアン・ゴズリング
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「ファースト・マン」

「First Man」

 

X-15に乗り、間近に見たんです。

大気圏を。

とても薄く、地球のわずかな一部でしかなく、ろくに見えない。

地上から見上げると、実に広大なのに。

普段は気にもしない。

別の地点に立つと、見方が変わるんです。

宇宙探査で何を発見するか、わかりませんが、探査が目的であってはなりません。

われわれがとうの昔に知るべきだったのに、今まで不可能だったことを、教えてくれるものでなければ───

 

1969年に人類で初めて月面に立った男、ニール・アームストロングの言葉。

映画「ファースト・マン」(2018年、米国)で、宇宙飛行士を志し、NASA(米航空宇宙局)の面接を受けた時に「なぜ、宇宙を目指すのか」と尋ねられて答えた言葉として、描かれる。

ニールの伝記を映画化したという。

 


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ニールが考える宇宙探査の意義を表す言葉で、とても興味深い。

この映画の核心と言っていい。

宇宙探査に行こうとしているのに、「探査が目的であってはなりません」とは、どういうことか。

人類が自分たちを見つめ直すための宇宙探査だ、という意味かと思う。

たとえば・・・

宇宙の広大さを知ることで、地球や人類がいかに小さくて、でも、かけがえのない存在であるかを知ること。

そして、そこにたどり着いた人類の叡智に思いをはせることが肝心だ、と。

まさに、同感。

ニールは本当に偉人だと思った。

 

今の私たちから見れば、割と普通な考え方だろう。

しかし、半世紀以上前、米ソ冷戦の時代に、この考え方を持っていたことが、すごい。

 

当時は、米国と旧ソ連が国威発揚のため宇宙探査を競っていた時代。

旧ソ連は1957年に人類初の人工衛星(スプートニク1号)を打ち上げ、人類初の宇宙船(スプートニク2号)の打ち上げにも成功(犬が乗った。生還はしていない)。

1961年には人類初の有人宇宙飛行(ユーリイ・ガガーリンが乗った宇宙船ボストーク1号)を成し遂げた。

宇宙探査競争で米国は旧ソ連に連敗し続け、月面探査に向けたジェミニ計画、アポロ計画は米国の威信がかかっていた。

その局面で、ニールは、そんな競争は小さなことだと言っている。

このニールだからこそ、あの名言が出る。

「1人の人間にとっては小さな一歩だが、人類にとっては大きな飛躍だ」という。

 

(スプートニクスの曲「スペース・コミュニケーション」を聴きながら、読むと、気分が盛り上がるかも。最後に宇宙船と地上の通信みたいな音声あり)


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劇場版アニメ「王立宇宙軍 オネアミスの翼」(1987年、ガイナックス)を思い出す。

主人公シロツグは、おちゃらけな性格。

ふとしたことから知り合った生真面目な女子リイクニに、かっこいいところを見せようと、この世界で初の宇宙飛行士を志願。

猛特訓を重ねるうちに、やる気になり、隣国の妨害を乗り越えて、宇宙に飛び出す。

宇宙から地球を眺めるうちに神妙な気分になったのか。

宇宙船から地球に向け、次のような演説をする。

「地上で、この放送を聴いている人、いますか。私は人類初の宇宙飛行士です。たった今、人間は初めて星の世界へ足を踏み入れました。海や山がそうであったように、かつて神の領域だったこの空間も、これからはいつでもこれるくだらない場所となるでしょう。地上を汚し、空を汚し、さらに新しい土地を求めて、宇宙へ出ていく。人類の領域はどこまで広がることが許されているのでしょうか。どうか、この放送を聴いている人、お願いです。どのような方法でも構いません。人間がここへ到達したことに、感謝の祈りを捧げてください。どうか、お許しと哀れみを。われわれの進む先に暗闇を置かないでください。罪深い歴史のその果てにも、揺るぎないひとつの星を与えておいてください」と。

人間の罪深さを認めて神に許しを請う言葉。

宇宙から地球を眺めると、こんな気持ちになるのだろうか。

 

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ちなみに、ガガーリンは「空は暗くて、地球は青みがかっている」と言ったとされる(「地球は青かった」というフレーズになり、よく知られている)。

ガガーリンの言葉として広まったものに「ここには神は見当たらない」という言葉もある(実際には旧ソ連の別の宇宙飛行士の言葉らしい)。

このふたつの言葉は、どちらも科学的な事実を述べているだけというのが面白い。

ニールやシロツグの哲学的な言葉とは違う。

文化の違いなのだろうか。

 

なぜ、ニールがそのような考えを持つに至ったか。

その経緯も、映画「ファースト・マン」で描かれる。

・・・というか、その場面から、この物語は始まる。

 


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宇宙飛行士になる前、ニールは実験機のテストパイロットだった。

ある時、高高度極超音速実験機X-15のテスト飛行で、高度63キロという大気圏の上層に到達する。

この経験が、この記事の冒頭に引用した言葉の前半「X-15に乗り、間近に見たんです。大気圏を。とても薄く、地球のわずかな一部でしかなく、ろくに見えない。地上から見上げると実に広大なのに。普段は気にもしない。別の地点に立つと、見方が変わるんです」につながっている。

宇宙から見ると、地球も人類も小さくて、はかないけども、かけがえのない存在だ、というような心境になったのではないだろうか。

 

(以下の記事「X-プレーンズ」で、X-15にも言及あり)

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そして、物語の序盤で、ニールの幼い娘カレンが病気のために亡くなる。

感情をあまり表に出さない性格のニールは、一人きりで静かに涙を流す。

カレンを失ったことも、宇宙飛行士を目指す動機になったようだ。

月面到達という難題に没頭することで、幼い娘を失った、とてつもない悲しみを、紛らわせようとしたのだろうか。

幼くて亡くなった娘と一緒に月面到達の偉業を達成したいという気持ちもあったのだろうか。

物語の終盤では、月面に降り立ったニールが遺品のブレスレットを月面のくぼみに放って、カレンを悼む。

 

ちなみに、アポロ11号の船長に選ばれた時の記者会見では、ともに月へ行く操縦士バズ・オルドリンが誇らしい気持ちを前面に出していた。

「責任を感じます。でも、第1号は心躍ります。妻も僕の私物ケースに自分のジュエリーを入れます。妻にも自慢する権利があるはずです」と。

ニールは、記者に「あなたは何を?」と聞かれて、「少しでも多くの燃料を」と、くそ真面目な返答だったけども・・・

娘の遺品を持ってきていたわけだ。

 

クールなニールが時折見せる人間味が、物語の良いアクセントになっている。

 

たとえば、月面に着陸するアポロ計画の前段で、母船と着陸船のドッキングを試すジェミニ8号の船長に選ばれたと上司から通知を受けた時。

ニールは、選ばれなかった親友の宇宙飛行士エリオットのほうを振り向いて気遣う。

上司に「エリオットにはジェミニ9号がある」(次のチャンスで起用されるという意味)と言われて、気を取り直すのだけども・・・

エリオットは、訓練中の事故で死んでしまう。

 

さらには、アポロ1号の乗組員に選ばれた親友の宇宙飛行士エドも、訓練中の事故で死んでしまう。

その知らせを受けたニールは、冷静な表情だったけども、手にしていたグラスを握りつぶして、手のひらが血だらけになっていたという描写が良かった。

漫画的なベタな描写だけども、こういうのは、大好き。

 

漫画「キン肉マン」(ゆでたまご)のキン肉星王位争奪編を思い出す。

ソルジャーチームの4人(ソルジャー、バッファローマン、アシュラマン、ブロッケンJr)が、危機に陥った仲間のザ・ニンジャを助けに行かないので、キン肉マンが「薄情ではないか」と責める。

だけど、よく見たら、4人は手の甲にナイフを突き刺して、助けたい気持ちを堪えていた(助けに行ったら、ザ・ニンジャが恥に思って自害してしまうと考えての対応)。

 

「キン肉マン」より。助けたい気持ちを我慢

「キン肉マン」より。手の甲にナイフを刺していた

漫画「ジョジョの奇妙な冒険」(荒木飛呂彦)の第2部・柱の男編を思い出す。

仲間のシーザーが死んだのに、リサリサは悲しむ様子がなく、タバコをくわえる。

ジョセフは一瞬、ムカッとするけども、リサリサの心の乱れに気づいて、言う。

「リサリサ先生、タバコ、逆さだぜ」。

(ちなみに、この後、リサリサ号泣)。

 

「ジョジョの奇妙な冒険」より。シーザーが死んだのにクールなリサリサ

「ジョジョの奇妙な冒険」より。実は動揺して、タバコを逆にくわえていた

エドら、アポロ1号乗組員が死亡する事故で、世論の風当たりは強くなる。

ニールも着陸船の訓練で事故。

脱出して生還はするけども・・・

事故続きで、不安になった上司に、ニールが言う。

「今、失敗すべきです。月で失敗しないために」と。

ここで、上司が「犠牲を払ってもか?」と言うと、ニールが声を荒げる。

「犠牲を払っても? その質問は遅すぎます」と。

今さら、何だ、エリオットもエドも死んだんだぞ、という気持ちだっただろう。

 

最後に。

映画「ファースト・マン」を見て、もうひとつ、興味深かったのは、母船から小型船を切り離して着陸させるという月面探査のアイデア。

 

劇中に出てくる月面探査計画のプレゼン動画のナレーションを以下に、抜粋してみる。

 

ジュール・ヴェルヌの時代から人類は月旅行を夢見てきた。

昔、月に行くとは、宇宙船1機で往復する発想だった。

しかし、NASAが新たな方法を開発。

ひとつのロケットに複数の船を積み、ともに宇宙へ。

コロンブスは母船から小舟に移り、上陸した。

宇宙飛行士も母船から小型船に移り、月面着陸する。

任務終了後、小型船は月面を離れ、母船にドッキングし、地球へと帰還する。

NASAの技術者たちの力で、月へ行くという夢がじき、実現する。

(以上、抜粋)

 

地球から到達できるような大型の宇宙船で目的地の星に降りたら、任務終了後に、その星の重力を振り切って、飛び立つのに、大きなエネルギーが必要だ。

だから、飛び立ちやすい小型の着陸船だけ、降ろすというアイデア。

この間、母船は目的の星の周りを回って待つ。

着陸船は任務終了後、着陸に必要だった下半分を捨てて、上半分だけと身軽になって、飛び立ち、母船とドッキングする。

今では、当たり前の発想だけど・・・

最初に思いついた人は、本当にすごい。

 

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