世界の傑作機「T-38タロン、F-5A/Bフリーダムファイター」「F-5E/FタイガーⅡ、F-20タイガーシャーク」
軍用機プラモデルの魅力のひとつは、多彩なマーキング(塗装やマーク類)にある。
例えば、同じ戦闘機でも、灰色の濃淡だけの迷彩と、緑色や茶色のまだら迷彩では、全く印象が変わる。銀一色というのも、武骨で味がある。
機体の塗装は同じでも、国籍マークや部隊マークが違うと、これも印象が変わる。
さらに、「部隊創設○周年記念塗装機」などのようなスペシャルマーキング機もあり、本当にバラエティー豊かだ。
プラモデルメーカーは、付属のデカール(水で濡らして貼るマーク類)だけ変えて、別のマーキングの「限定商品」として売り出したりする。
新作キットと比べると、模型としての出来栄えが著しく劣る半世紀くらい前の旧キットを使って、そうすることもよくある。
軍用機プラモデルの愛好家は、そうした商法に憤りを感じながらも、買ってしまう。
「塗装やマークが違うだけでしょ」と思われるかもしれないが、愛好家には、その違いが面白いのだ。
愛好家にとって「こんなマーキングもあるの?」と発見があり、参考資料になるのが、「航空ファン」や「エアワールド」(2013年に廃刊)といった航空機雑誌。
そして、「航空ファン」と同じく文林堂が発行する書籍「世界の傑作機」シリーズだ。
ここでは、シリーズのうち2冊「T-38タロン、F-5A/Bフリーダムファイター」「F-5E/FタイガーⅡ、F-20タイガーシャーク」を取り上げたい。
いずれも一連の「F-5」シリーズと言える軍用機(T-38は武装のない練習機)。
米国の軍用機メーカー・ノースロップ社が開発し、特にF-5A/B、F-5E/Fは、米国と親しい多くの国々で使われた。
米軍でも、飛行特性が旧ソ連のMiG-21などに似ているとして、空戦訓練の敵機役を務める仮想敵部隊(アグレッサー部隊、アドバーサリー部隊)で使われた。
トム・クルーズ主演の航空アクション映画「トップガン」(1986年、米国)にも、架空の敵機「MiG-28」として登場した。
本書2冊で、まず、うれしいのは、さまざまなマーキングの機体の写真や図解。
ノルウェー空軍のタイガー迷彩のF-5A、米空軍の「スコシ・タイガー」作戦に参加したベトナム迷彩のF-5A、米海軍第127戦闘攻撃飛行隊の黒ずくめのF-5E、米航空宇宙局(NASA)で宇宙船搭乗員の飛行訓練などに使われるT-38・・・など、どれも魅力的だ。
開発や発展の経緯などの記事も面白い。
F-5シリーズは、もともと、米軍の戦闘機市場になかなか食い込めなかったノースロップ社が、友好国への輸出向けの軽戦闘機市場に着目して誕生した。
米軍の採用機のように、高性能だけども、高価で運用コストもかさむ機種には、なかなか手が出ない国向けに、性能はそこそこだけども、安価で運用コストも抑えられる軽戦闘機を売り込もうという発想で、結果としては、これが当たった。
本書「T-38タロン、F-5A/Bフリーダムファイター」によると、米政府は当時、日本や旧西ドイツなど大口の市場となる友好国に、米軍も採用したロッキード社の戦闘機F-104を売り込みたかったので、当初、F-5の売り込みには冷ややかだった。
日本、旧西ドイツなどがF-104採用を決めたことで安心して、政府がF-5の売り込みにてこ入れするようになったという。
そして、F-5はイランを皮切りに韓国、ギリシャ、台湾など各国に輸出され、カナダやスペインではライセンス生産が行われた。
各国への売り込みに際して、良い商品だとアピールするため、米空軍がF-5Aをベトナム戦争に投入した「スコシ・タイガー」作戦の経緯や実績も詳しく書いてある。
軍用機ファンにはよく知られた話だと思うが、作戦名「スコシ・タイガー」(Skoshi Tiger)の「スコシ」は、日本語の「少し」から取っている。
ちょっと、外国語を入れた作戦名のほうがかっこいい、と思ったのだろうか。
本当は「Little Tiger」(小さい虎)の意味で付けたかったようだが、「少し」とも「小さい」とも訳せる「Little」を「少し」と訳して作戦名にしてしまったところが、何だか、かわいい。
この作戦名が、F-5A/Bの改良型F-5E/Fの愛称「タイガーⅡ」の由来となった。
本書「F-5E/FタイガーⅡ、F-20タイガーシャーク」の記事で興味深いのは、漫画家・新谷かおるのインタビュー。
代表作の航空アクション漫画「エリア88」では、主人公の愛機として、F-5Eも、F-20も、登場する。
「エリア88」は、中東にある架空の国アスランが舞台。
日本の民間航空会社に勤め、社長令嬢の津雲涼子と交際し、前途洋々だった主人公・風間真は、親友の神崎悟に陥れられ、アスランの傭兵部隊に入る羽目になる。
涼子との再会、神崎への復讐を誓い、戦闘機パイロットとして死線を乗り越えていく───という物語。
私好みの復讐もの。しかも、さまざまな軍用機が登場人物の乗機として出てくる。
高校・大学年代の頃に知り、はまった。
この作品の影響で、私は、F-5シリーズが大好きだ。
インタビューでは、好きな軍用機が、順に、A-4スカイホーク、F-104スターファイター、F-8クルセイダー、T-38タロン、F-5A/Bフリーダムファイターだということが明かされる。
「華奢なヤツが好きで、F-4やF-14、F-15のようにマッチョ系の戦闘機はあまり魅力を感じない」という。
航空自衛隊のパイロットが主人公の名作「ファントム無頼」(原作は史村翔)も書いているのに、F-4ファントム、あまり好きじゃないのか。
ファントム、独特のフォルムが味わい深いと思うけど・・・
「エリア88」は、短波ラジオのテレビCMを見たのがきっかけで発案したとの創作秘話もあり、興味深い。
CMは、ラジオからブルースが流れていて、黒人兵らしき人物が母国の音楽を聴いて思わず「ママー」と叫んで泣いてしまうという内容。舞台は日本。
日本人に置き換えて考えた時に「月の沙漠をはるばると…」という歌(「月の沙漠」)が思い浮かび、砂漠の中で母国に帰るのを夢見て戦うという設定を思いつき、文豪デュマの名作「モンテ・クリスト伯」みたいな復讐ものの図式ができあがったという。
「モンテ・クリスト伯」は、同僚や知人に陥れられて無実の罪で監獄に送られ、恋人と生き別れになり、恋人との再会と同僚らへの復讐を誓うという物語。とても面白い。
小学生の頃、5〜6歳上で、お姉さんのような存在だった知人に少年少女世界名作文学みたいな全集を20冊くらい、もらった。その中に「モンテ・クリスト伯」もあり、何度も読んだ。
大人になってから、岩波文庫で買い直した(子ども向けと違って、長い)。
新谷かおるインタビューには、ダンディズムが好きだという話も出てきて、一例として、登場人物のやり取りが挙げられている。
「お前は、なぜ戦うんだ?」
「男の尊厳だ」
「男の尊厳か。そんなもの背負っていると、疲れるぜ・・・」(そう言い残して、死ぬ)
、、、という、やり取り。
あー、主人公の仲間のミッキーと、神崎が率いるプロジェクト4のケンパーの対決の場面だな、と思い出したりして、「エリア88」が読みたくなった。
「エリア88」については、機会を改めて書きたい。