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鳥取市出身の漫画家・谷口ジロー(1947~2017年)の作品には、何となく、食わず嫌いで、なかなか、手が伸びなかった。
鳥取県が2012年、県出身の漫画家を顕彰する「まんが王国」の取り組みを始めたのが、谷口漫画に触れる、きっかけになった。
鳥取市を舞台にした「父の暦」、鳥取県倉吉市を舞台にした「遥かな町へ」といった作品から手を取ったのだけども・・・
「ブランカ」を読んで、はまった。
こんなSFも描いていたのかと、見る目が変わった。
個人的には、谷口漫画の最高傑作だと思う。
「バオー来訪者」(荒木飛呂彦)と同様にSF設定かつ哀しみが漂う作品。
犬好きの作者の本領が発揮され、なおかつ、犬の魅力である愚直さが余すところなく描かれている。
(私は、犬か猫かで言うと、犬派。単純で馬鹿なところが可愛い)。
「ブランカ」のレビュー記事はFacebookに書いていた感想を再利用して、このブログの開設直後の2025年1月27日に投稿したけども・・・内容が薄かった。
このたび、このハブ記事「谷口ジローの味わい方」を書くに当たり、「ブランカ」の記事は、全面的に書き直した。
続編の「神の犬」は、ブランカの血を引く狼のきょうだいの物語。
「人間が自然を操ろうとすると、しっぺ返しをくらう」というメッセージ性が高くなっている。
私は、谷口漫画では、「犬」や「山」を描いた作品が好み。
緻密な絵柄という谷口漫画の大きな魅力が、よく表れていると思う。
たとえば「ブランカ」は、シリアスで哀しい物語なのだけども・・・
主人公の犬ブランカが、飼い主パトリシアの祖父リャプコワの死を、テレパシー的な能力で察して、ショックを受ける場面がある。
振り向いた姿が描いてあるのだけど、尻の穴がしっかりと描いてあるところが面白い。

普通、このシリアスかつ哀しい場面で、わざわざ尻の穴が見える構図を選んで描くか?というところ。
そこが、リアリズムを追求する、この作者らしい。
江戸時代の鳥取出身の絵師・土方稲嶺を思い出した。
伊藤若冲、円山応挙ら人気絵師がひしめく京都画壇で活躍し、写実性を重んじて異彩を放った。
たとえば、鶴の絵を見比べると・・・
若冲の作品は真っ白な羽の鶴を松や太陽と組み合わせ、デザイン性が高い。
これに対し、稲嶺は羽が薄汚れた鶴が水際に立つ現実的な姿を描いている。
一番笑ったのが、犬の絵で、尻の穴まで描いていることだ。
谷口漫画には、稲嶺と同じ心意気を感じる。
話を戻すと・・・
犬に関しては名作「犬を飼う」がある。
年老いた愛犬の最期を看取るという、ものすごく地味なストーリー。
これは、この作者でないと書けない。
山に関しては、作家・夢枕獏の名作を漫画化した「神々の山嶺」が秀逸。
エベレスト初登頂の謎に迫るストーリーで、ラストは原作と違う。
原作と漫画を読み比べてみてほしい。
原作については以前、ブログの記事で、ごく簡単に触れた。
漫画については記事「ゼロ・グラビティ」で少し触れた程度。
いつか、きちんと紹介したい。
緻密な絵柄という点では、「千年の翼、百年の夢」「ヴェネツィア」も、おすすめ。
「千年の翼、百年の夢」は、世界の漫画家がルーヴル美術館を題材に作品を制作する「ルーヴルBDプロジェクト」の参加作品。
ルーヴル美術館のガイドブック的な内容で、ファンタジーの味つけがしてある。
(ちなみに、同じプロジェクトに参加した日本人漫画家は、ほかに荒木飛呂彦がいる。作品は「岸辺露伴ルーヴルへ行く」)。
「ヴェネツィア」は、ルイ・ヴィトンから依頼を受け、同社の「トラベルブック」シリーズのひとつとして描いた作品。
家族の絆をテーマにした物語に沿って、ヴェネツィアの街が緻密な筆致で描かれていて、見ているだけで楽しい。
セリフや説明文がほとんどなく、絵で見せるという点も、この作者ならでは。
記事「千年の翼、百年の夢」で、「ヴェネツィア」にも触れてある。
この作者の作品で、比較的知名度が高い「孤独のグルメ」(原作は久住昌之)も緻密な絵柄が、食べ物の美味しさを引き立てている。
鳥取市のローカルフード「素ラーメン」を取り上げてくれたのも、うれしい。
鳥取県を舞台にした「父の暦」「遥かな町へ」「魔法の山」「貝寄風島」の記事も、いつか、書きたい。
画業を深掘りする書籍「描くひと 谷口ジロー」によると・・・
映画「ロード・オブ・ザ・リング」(原作はトールキンの小説「指輪物語」)とか、松尾芭蕉の俳句の漫画化、小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)とか、ヴィンセント・ファン・ゴッホを主人公にした作品を構想していたらしい。
どれも、きっと面白い作品になっただろう。
読んでみたかった。
2017年に亡くなったのが、本当に惜しまれる。
